ホラー 終末サバイバル 小説一覧

1
1

「田崎家と、もどりさん」 ――熊本発・終末家族のしたたか日記

「田崎家と、もどりさん」 ――熊本発・終末家族のしたたか日記
 心臓が止まったはずの人が、また、歩き出す。  原因はわからない。五Gのせいだとも、隕石のせいだとも言われたが、誰も本当のところは知らない。ただ、世界中で同じことが同時に起きた。死んだ人が起き上がり、ゆっくりと、生前と同じ道を歩く。会社へ。学校へ。夕暮れには、家へ。誰かがそれを「もどり」と呼んだ。死んで、帰ってきた人たち。  人類は、十分の一になった。政府はほぼ機能を止め、最後に一つだけ法律を残した――必要な物資は店から持ち出してよい。ただし、一度に一人一週間分まで。取りすぎず、奪い合わず、みんなで生き延びること。専門家は言う。あと三年、長くて五年。それまで、なんとか、各自で生き延びてほしい、と。  熊本市西区。田崎家の非日常だけど、普通の毎日が始まる。  父・康夫(五二)はスコップ片手に、酒を探しに出る。母・幸代(五〇)は猫の餌のため、フライパンを握って奮闘する。兄・大地(一六)は窓辺で「もどり」を観察し、中二病全開の研究ノートをつける。妹・花音(一四)は、漫画家になる夢を諦めない。そして四匹の猫――ちゃとらん、かぐや、マロン、おはぎ。なぜか「もどり」は、猫を襲わない。  地下水を汲み上げ、太陽光発電を活用して、お風呂も沸く。ご飯も食べられる。家族は、多数決と、二人以上での外出と、交代で書く一冊の交換日記。三つのルールだけを頼りに、終わった世界で、終わらない日常を生きていく。  運動不足を解消したい母は、ジムから器具を調達しようと言い出す。漫画の道具が欲しい妹は、画材を調達するために街に行きたがる。熊本城を拠点にしたら格好いいと、兄は無茶を言う。父は今日も、酒のために命を張る。わがままで、賑やかで、ちょっとだけ命がけ。そんな家族のドタバタが、リレー形式の日記で綴られていく。  でも――歩き続ける「もどり」たちは、ただの怪物ではない。いない猫を、いつまでも撫で続ける者がいる。誰かを守るように、手を引いて歩く者がいる。彼らは、何を抱えて生きて、何を残して、帰ってきたのか。襲う者と、襲わない者を分けるものは、何なのか。賑やかな笑いの底から、その謎が、静かに立ち上がってくる。  少しだけスプラッターありの、ハチャメチャな終末サバイバル。なのに、読み終えると、なぜか少しだけ、泣いている。熊本の土地と方言を錨に描く、物悲しくて、可笑しくて、あたたかい、家族と猫と死者の物語。  あとぜき、お忘れなく。開けたら、閉めること。閉めなければ――入ってきますけん。
ホラー 連載中 長編
感想数 0 文字数 3,628 最終更新日 2026.06.30 登録日 2026.06.30
1

アルファポリスのホラー小説のご紹介

アルファポリスのホラー小説の一覧ページです。
ゾンビからオカルト、学園もの等々の長編・短編ホラー小説が満載です。
心霊」 「幽霊」 「オカルト」 人気のタグからお気に入りの小説を探すこともできます。ぜひお気に入りの小説を見つけてください。