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「地方の道楽だろ」と笑った連中が、名刺を持って戻ってくる。
「地方の道楽ですよね」
そう言って金を出さずに帰った人間が、何人もいた。
観客一五〇〇人、空席は七割。斜陽の港町の弱小バスケクラブ〈潮見ブルーホエールズ〉は、来季の開幕を待たずに消えかけていた。宝くじで七億円を当てた要実(かなめみのる)は、その金でこのクラブを買い取る。だが金で買えたのは、たった一年の猶予だけ。
派手なスター補強も、魔法もない。武器はひとつ――誰も値段をつけていない価値を見抜く目。戦力外寸前の選手、点を取らないセンター、焼き鳥の屋台、誰も読まなかった地元紙。安く見積もられていたものを、一つずつ数え直していく。
やがて、あの人間たちが、名刺を持って戻ってくる。
数字しか見えない男が、誰も数えなかったものだけで、町ごと黒字にしていく話。
文字数 5,980
最終更新日 2026.09.02
登録日 2026.09.02
私の結婚は、三百六十五回の夕食で終わります。
仕事しか見ない孫を案じた亡き公爵夫人の遺言は、「妻と同じ食卓を囲み、三百六十五回の夕食を共にすること」。冷血公爵と呼ばれる旦那様と、母の書店を買い戻したい私は、納得ずくで契約結婚を結びました。数え終えた翌朝、預けてある離縁状が受理されます。
「明日が三百六十五回目。あと一度で離縁ですね」
「……そうか」
泣いてしまいそうだったので、笑って言いました。
その翌晩から、旦那様が夕食の席に来なくなりました。
馬車の中でクルミを三粒。医師に止められた夜食。四日目には執事の説明も尽きて――「旦那様は執務室で、夕食を召し上がらない努力をなさっています」。廊下ですれ違えば、お腹は正直に鳴っているのに。パンを勧めても「食事とパンの境界は曖昧だ」と逃げていきます。
それならばと、私は最後の一食を籠に詰め、執務室の扉を叩きました。
異世界恋愛・一話完結。悪役も、ざまぁも、特殊能力もありません。あるのは契約書と、一年ぶんの食卓だけです。
文字数 8,827
最終更新日 2026.09.02
登録日 2026.09.02
「お前には、無理だ」——まだ走れたのに、夢を途中で諦めさせられた少年は、スポーツ医学の医者として一生を終えた。
目が覚めると、六歳。今度は、誰も夢を止めない家に、生まれ直していた。
前世で叩き込んだ医学で"90分落ちない身体"を設計し、地味で、賢く、誰よりも走り続けるサイドバックとして——今度こそ、世界の頂へ。
サッカーの才能を親に「正しく」見限られ、勉強を強いられてスポーツ医学の道へ進んだ男が、六十八年の生涯を終えて転生する。
武器は二つ。押しつけられた最新医学の知識と、それで設計する"90分間、誰よりも走り続ける身体"。授かった才能ではなく、積み上げた設計で、天才たちに挑む。
治した親友は、いつか宿敵になる。かつて最強だった少女は、別のルートで世界を目指す。そして前世で「諦めろ」と告げた親の言葉は、やがて——。
目指すのは、アジア人がまだ立ったことのない場所。ワールドカップの舞台で世界とフィジカルで殴り合う、世界一のサイドバック。
テーマは、「途中で終わらせない」。
文字数 9,718
最終更新日 2026.09.02
登録日 2026.09.02
スピードF。瞬発F。技術G。
片瀬湊、十七歳。物心ついた頃から自分にだけ見える「ステータス画面」は、ずっとこの色だった。
ただし、二項目だけおかしい。持久と回復——こいつらだけ、十年間、伸びが一度も落ちていない。
そんな俺が見つけてしまった。二千メートルを予選・準決・決勝と三日連続で走り、月二回、オフなしで開催される競技。タイムじゃなく着順で決まる、相対値の勝負。
……おい。これ、回復がそのまま年収になる競技じゃないか。
日本競輪選手養成所、適性試験枠。自転車未経験、記録会ドベ、ヘルメットは最弱の青。同期には十年に一人の天才。武器は、自分だけの観測データと実験ノートと、白米。
数字は残酷だ。でも、嘘はつかない。最弱の候補生が、観測と実験で強くなる。目標、年収二億。
——競輪は、最後まで踏んでた奴が勝つ。
※実在の制度・施設を取材に基づいて描くフィクションです。実在の選手・団体は登場しません。
文字数 8,662
最終更新日 2026.09.02
登録日 2026.09.02
王都の夜会で、わたくしは婚約を破棄されました。理由は「その手を見ろ」。蜂に刺された痕だらけの手が、侯爵家の恥だと。
「我が領の果樹園に据えられた箱は、すべて焼き払う」
「では、持ち帰る許可をいただけませんか」
「持っていけ。一匹残らずだ」
――承知いたしました。一匹残らず、でございますね。
その夜のうちに、四十二の巣箱を運び出しました。
花は、それだけでは実になりません。運ぶものが要るのです。けれどあの方は三年間、一度も果樹園に足を運ばず、木は勝手に実るものだと信じておいででした。
やがて訪ねてきたのは、十年も果樹が実らぬ北の辺境伯。「木ではなく、土でもなく、虫が」——わたくしの言葉を、手帳に書き留めてくださる方でした。
北の丘に緑の粒が実る頃、南の果樹園は花だけを咲かせて秋を迎えます。
異世界養蜂ざまぁ・一話完結。ヒロインの武器は特殊能力ではなく、百年ぶんの帳面です。
文字数 10,817
最終更新日 2026.09.01
登録日 2026.09.01
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