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婚約破棄、断罪、王都追放。
公爵令息ノア・ラザフォードは、王宮の夜会で王子からそう告げられた瞬間、心の中で歓喜した。
なぜなら彼は、前世の記憶を持つ転生者。
この世界が乙女ゲームに似ており、自分が“悪役令息”として破滅する運命だと知っていたからだ。
けれど、王子への未練など一切ない。
面倒な貴族社会から逃げられるなら、追放なんてむしろ大歓迎。
「よし、田舎でパン屋をやろう」
そうしてノアは辺境の町で、小さなパン屋《白猫ベーカリー》を開く。
焼きたてのミルクパン、焦がしバター塩パン、森苺のジャムパン。
ようやく手に入れた平穏なスローライフ。
……のはずだった。
開店初日、店に現れたのは、王国最強と恐れられる冷血騎士団長アゼル・グレイヴ。
無口。
無表情。
目つきが怖い。
なのに彼は、毎朝誰より早く店に来て、ノアのパンを大量に買っていく。
「今日も来たんですか?」
「来た」
「昨日も一昨日も来ましたよね」
「明日も来る」
ノアは思った。
この人、よほどパンが好きなんだな、と。
しかしアゼルが見ているのは、パンだけではなかった。
ノアが疲れていれば黙って手伝い、王都からの嫌がらせには無表情で圧をかけ、元婚約者の王子が現れれば静かに剣の柄へ手を置く。
「この店に手を出すな。ノアにもだ」
パン目当てだと思い込む悪役令息と、店主ごと囲い込みたい冷血騎士団長。
婚約破棄から始まる、飯テロ異世界BLラブコメ。
文字数 6,101
最終更新日 2026.07.08
登録日 2026.07.08
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