かつてのビジネスマンは誰しも、「耐える」というコマンドを持っていた。しかし、Z世代社員のほとんどはSNSなどで共感や肯定的反応ばかりを期待し、それが続けば否定的フィードバックへの耐性を鍛える機会自体を奪う。厳しい現実世界からの逃避として、自分を肯定するSNSを使う人も増えている。
叱責を受けている時間は、本人にとって強い不快状態である。不快の原因を分析し、改善して評価を回復するには時間と認知的負荷がかかる。一方、泣く・怒る・その場を離脱するという反応は、不快な時間を即座に終わらせる最短ルートになる。本人たちは「嘘泣き」「嘘ブチギレ」をしているつもりはないのかもしれない。しかし、感情を爆発させれば、上司はハラスメントを恐れて指摘を続けることを断念する。感情の表出=不快状態から抜け出せる、という誤った学習をしてしまうのだ。
この状況を後押ししているのが、言わずと知れたコンプライアンス制度だ。「部下が涙を見せる、あるいは不快感を訴える」という事象が、上司側に「パワハラ加害者化」のリスクとして機能する。この現代の企業構造がある限り、感情表出は結果として「最も低コストで上司の口を封じる手段」であり続ける。
モラルや根性論への訴えは無意味である。相手の行動は感情ではなく期待値計算とその強化履歴によって形成されているため、精神論は届かない。変えるべきはコスト構造そのものだ。
具体策は二つ。第一に、指摘とその結果を必ず書面やログとして記録し、感情的な反応が起きても指摘内容自体は撤回しないという運用ルールを徹底する。感情表出によって指摘が有耶無耶になるという成功体験を、組織として二度と与えないことが強化の遮断になる。会議室でもやり取りはその場を離れればなかったことになる感覚だが、書面でのログは逃げられない現実として彼らも認識する。
第二に、パワハラの定義と指摘行為の境界を、感情ではなく客観的な言動基準で明文化し、管理職に周知する。「泣かれたから引いた」という現場判断の余地をなくし、上司が自らの裁量でルールを歪めることを防ぐ設計が必要になるのだ。
腫れ物扱いをやめ、事実とルールだけで対応する。相手が感情で反応しても、こちらの行動が変わらないという事実こそが、最も確実に強化を止める。と。それこそが、Z世代が直面している唯一にして最大のリスクなのである。
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