結局、低姿勢こそが最強のビジネススキルである

「エラソーな人」「カネで仕事を選ぶ人」はいずれ消える。結局、生き残るのはどんな人?

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なぜ低姿勢だった人が、エラソーになるのか

「売れると態度が悪くなる人」というのが存在する。

フリーランスに顕著なのだが、一旦売れるとそこからは仕事が仕事を呼び、とにかく忙しくなる。すると仕事を選ぶようになってきて、昔からやっているギャラの安い仕事や、今現在の自分の適正価格だと考える仕事以下のものは断るようになる。或いは、「私はもはやこのレベルの人間とは付き合う必要はない」とこれまでの人間関係を断捨離したりもする。

自分も2010年頃はまさに「仕事が仕事を呼ぶ」状態になったが、結局、いただいたオファーはすべて受けたし、昔からの付き合いを切ることもなかった。「えっ? まだそんな仕事してるんですか?」なんて言われることもあったが、「そりゃそうですよ」と返していた。

売れた場合、自分に声をかけてくれる人々はこれまでの「お前にやらせてやるよ」という類の人々から、「あなた様にぜひともお願いしたい」という類の人に変わってくる。新規で会う人会う人がそんな態度を取るものだから、いつしかあの低姿勢だった人物が横柄になっていくのだ。

忙しいと言っていたのに、インスタには遊んでいる写真が

まずそういう人物は、忙しぶるようになる。

打ち合わせを設定してもらおうにも、そもそもメールの返信がない。電話をかけても出ないし、その後、フェイスブックには「仕事で電話をかけてくる人は無能だと思う。忙しい時に電話が来ると殺意を覚える」などと書かれてしまう。無事、打ち合わせの日程が決まるにしても、それは3週間も後の話で「20分だけですよ」なんてことになる。

数年前、とある売れっ子女性と私の対談を某出版社が企画した。5月のどこかでやる、という話で4月にオファーが来た。私は「水曜日と金曜日以外は大抵大丈夫です」と答えたが、先方は「11月までは一切時間が取れない」と言ってきた。

要するにこれは「やりたくない」ということなのだろう。いや、本当に忙しかったのだとしても、7ヶ月先まで一切予定が取れない、なんてことは常識的に考えればない。そもそも、彼女と知り合いだという人のインスタグラムには、一緒に「女子会」をしている様子や、商業施設に行ってきた写真などが公開されている。

もちろん、娯楽する時間があるんだったら仕事を受けてください、なんて言う気は毛頭ない。ただ、けっこう遊んでいる感じはするので、「11月まで一切時間が取れない」という言葉に説得力がなくなるのである。他の気乗りしない仕事でも同様の方便を用いているのだろうから、「忙しいアピール」は徹底すべきだと思うのだ。同時期に「11月まで…」と言われた人々は、今後彼女に対して仕事のオファーをすることはないだろう。

編集者としての顔もある私にとっても、当然それはあり得ない。

お金で仕事を選ぶのは、実は危ない!?

続いては、金額で仕事を選ぶようになる。「そんなの当たり前だろ」という話になるのかもしれないが、これは案外危険である。

というのも、フリーで調子が良い時代などそう長くは続かないし、会社であっても突然の不況で仕事が一切なくなることがある。赤字にならないレベルであれば、受けてしまうというのも手だというのに、自分を高値で売ろうとするあまり、目先のカネにこだわる。

確かに「私は○万円以下の仕事は受けないようにしているんです」やマネージャー的な人物が「その金額ではウチの山田はできません」なんてことを言う瞬間は気持ちいいし、自尊心を保てる。その後、「あんなカスみたいな金額出してきてさ(笑)」なんて言い合っている状況も成功を実感できて嬉しいだろう。

だが、これが積み重なっていくといつしか、常に「格上か格下か」という尺度でしか物事を見なくなっていく。そして、言葉遣いは尊大になっていき、連載第三回で書いたように、知らぬ間に多くの人からの恨みを買われ、失脚を望まれるようになっていく。凋落した時にもはや助けてくれる人はいない。

「あの時、随分と吹っかけてくるようなこと言いましたよね。ウチはあなた様の基準に合うほどのお仕事は出せませんので、悪しからず」

なんてことを言われて門前払いである。この安い仕事をやり、実績を積み上げることにより、「おいしい」仕事がいずれ与えられる可能性があるというのに、それをみすみす捨てることとなる。

ここで言う「実績」とは、自分の経験、という意味での「実績」でもあるが、「苦しい時に寛大な心で接してくれた」という「恩義」や「義理」も含めた発注主が抱く「義理」である。こうした実績を積み上げて、自分に声をかけてくれた人に報い続けることを考えるべきである。

浪花節のようになってきたが、数年後「あの時断らなければ……」なんてことはよくあるのだ。それこそ、小さな会社でギャラも低かったものの、あれよあれよという間に規模を拡大し、上場してしまったり、なんてこともあるのだ。

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プロフィール

中川淳一郎
中川淳一郎

1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。ライター、雑誌編集などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『縁の切り方 絆と孤独を考える』『電通と博報堂は何をしているのか』『ネットは基本、クソメディア』など多数。

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