先ほど、私は「メンタルはエンジン」と例えた。
エンジンのような動力機械に必要なものは、2つある。
1つは、すでに伝えたように動力源となる「ガソリン」。そしてその前に大切な、もう1つのものが、エンジンを始動させる「着火剤」である。
今回は、この着火剤にフォーカスしたい。
一般的には始動剤とも呼ばれる、エンジン着火に必要な役割を果たすこの資源。先ほどのダイエットやメンタル面に置き換えると、ハートに火を点けるものを指す。その意味で着火剤そのものなので、ここでは着火剤と呼びたい。
やせるためにランニングを始めたいけれど、始められないという事例に当てはめた場合、着火剤は、どうしても外に出ないといけない理由、つまり「外に出てランニングしないと発生する罰則」「ランニングのために買ったランニングウェアやシューズ」などが該当する。
それらは、布団の中のあなたに対してこう働きかける。
「いいの? せっかくウェア買ったのに……お金無駄じゃない?」
「今日外に出ないと、〇〇のご褒美おあずけだな……」
このように嫌がるあなたを叱咤し、あなたがダイエットという行動を起こすための火を点ける着火剤になってくれる。
人間というものは不思議で、賞品や報酬よりも、罰則や罰金があるほうが身体が動くものだ。
とはいえ、見方によっては、罰則や罰金で自らを脅すというのは、メンタルにとってはマイナスになる負担かもしれないと感じるだろう。
だが、そもそもダイエットしないと、メンタルだけでなく身体そのものの健康度は永遠にマイナスである。一時的にメンタルの負担になるだけだと割り切っても構わないし、少なくとも身体面には実践する価値があるのだ。
ここまでの話は、嫌がる自分を強引に動かそうとしているので、若干暴力的に感じたかもしれない。
しかし、そんな辛いことではない。そうせざるをえない環境を整備して、自分を追い込んでいくことは、ある意味、自分にとって最高のお膳立てをしてあげるということでもある。
例えば、ダイエットのためのランニングなら、ウェアやシューズのほかに様々な環境や資源が必要となる。ランニングコース、まとまった時間、そして目標や計画。それらをまず少しずつ準備し、自分の着火剤になり得る環境を構築していく。
そうして丁寧に、自分にとって最適化された環境を整備していくことで、完璧にお膳立てされた最高の状況で有意義な時間を過ごす、という非常に高尚な行いになるのだ。
意外にも、これを知らない人は多い。誰もが、環境を整備せず、決意だけのチカラで乗り切ろうとする。
意思のチカラを信じること、それ自体は非常に立派だ。誰もが最初は自分の意思を頼りに行動を起こそうと考えるのだから。本来的だし、発案自体は確かに尊ぶべきだろう。
しかし残念ながら、決意一つでダイエットや苦境に臨めるほど、人間のメンタルは強くない。
時には、物品や罰則のチカラをも借りて自分を律することが必要なのだ。そして、このように着火剤になり得る物理的な制約を作ることができれば、それだけで自分のメンタルを操ることは可能だ。
同時に、着火剤の量や質を減らすことができれば、それはもう自分自身のコントロールを掌握したともいえる。少ない着火剤で目標を達成する自分を手に入れたのと同義なのだから。
これらのテクニックは、あなたをダイエットの成功だけに留まらない、さらなる目的の達成に導いてくれることだろう。
さあ立ち上がろう。全国の同志、いや、デブよ。
心に着火しろ、心を燃やせ。っていうか脂肪を燃やせ。