Difyは完成されたプラットフォームとして配布される”大規模一括導入”型ではない。GovTech東京はまず自分たちの現場で自ら試験運用(いわゆる“ドッグフーディング”)し、都庁各局・区市町村での実証を並走させるスタイルで開発が進められている。
文書の校正・要約、議事録作成、ヘルプデスク支援といった、短期で効果が見えやすい領域から成果を積み上げ、作りながら使い、使いながら直す。この進め方は、リスク分散と習熟の同時実現を可能にし、2026年度の本格稼働を現実味ある工程に置き直す。
2025年4月に新設されたGovTech東京のAIイノベーション室が、この取り組みの中核を担う。「AIと技術イノベーションを泥臭く現場に実装」「職員一人ひとりの手取り時間を増やす」「テクノロジーをフル活用し、これまでできなかったことをできるに変える」という明確なミッションの下、既に20団体の区市町村に対して生成AI活用支援を展開している。
視野は都域に閉じない。Difyの開発は”デジタル公共財”の発想を背骨に置き、Dify Community(OSS版)を軸に、東京都外の自治体でも自庁環境で活用できる道を開く。同じプラットフォームを共有すれば、初期コストを抑えつつ、地域ごとの制度・表現・業務導線に合わせた上物の作り替えに集中できる。利用者が増えるほどテンプレートやベストプラクティスが洗練され、改修の速度が上がる”正の循環”が生まれる。
共通の道具が整えば、各地の”入口の発明”や”編成の工夫”は知見として流通しやすくなる。町田市のポータル「まちドア」は、三次元アバターと生成AIを組み合わせたAIナビゲーターを導入し、制度名や部署名を知らなくても自然な対話で目的の手続きに到達できる”入口”を実装した。愛称は市民投票で決まった「マチネ」と「マーチ」。窓口の”人柄”をUIに移植する発想が、探索コストを下げ、初手の迷いを減らす。
2025年4月のリニューアルでは生成AIをGPT-4oに更新し、案内の対象を市のデジタルサービスにとどめず公式サイト群へ広げた。
裏側の作りは”万能主義”ではない。要約・照会・根拠提示・文書生成の短い鎖をそれぞれ得意なエージェントに割り当て、全体を編成で底上げする。住民向けと職員向けで入口は異なっても、最終的にはDifyでリクエストを受け、最適なモデルや機能群へ振り分けて応答する構えに進化していく。強い単一モデルに賭けず、編成で勝つ設計は、Difyが掲げるプラットフォーム思想と合致している。ここで強調しておきたいのは、町田が”主役”ではなく、道具が正しく設計されれば各地で再現可能であることを示す先行例だという点である。
全国には1700を超える自治体がある。人手不足が深まるなか、生成AIへの関心は高いが、実装の速度と人材の偏在が大きな壁になっている。現場でAIを回し続けるには、誰でも使える共通の道具と、作法(評価・監査・更新・運用の折り目)が不可欠だ。Dify Cloud/Community/Enterpriseという三つの選択肢は、財政・人員・情報政策の事情に応じた”入り口”を提供し、導入のハードルを下げる。
評価の言語も揃えたい。問い合わせの初期応答時間、一次解決率、申請の離脱率、案件あたりの処理時間──通貨を「時間」に置き換えて語ることで、技術の議論は生活の議論に翻訳される。手続きが簡素化され、「都民の手取り時間」が確実に増えるという結果が積み上がれば、その成功は地方でのデジタル導入の推進力になる。