この取り組みを支える人材基盤も着実に拡充されている。CTO井原正博氏の下、現在約160人体制(東京都職員派遣と民間採用が半々)で運営されるGovTech東京は、「世界最強の行政DX技術チーム」構築を目標に掲げ、AI担当エグゼクティブアドバイザーの安野貴博氏(合同会社機械経営代表)など、産学官を横断した専門家による支援体制を整えている。
5年先、10年先を穏やかに想像する。市民は制度名を知らずとも自然な対話で目的のサービスに導かれ、必要書類はバックグラウンドで生成される。行政側が必要とする情報や根拠条文も、AIを通じて即時に提示される。Difyはリクエストと応答の流れを常時監視し、細かく刻まれたタスクを特化エージェントへ分配する。職員は例外判断や合意形成に集中し、残業は確実に減る。その成功はテンプレートとして外に開かれ、他自治体は上物の調整だけで追随できる世界が見えてくる。
なお、国の「ガバメントAI」構想も併走する。2025年6月13日に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に盛り込まれ、2025年度中に一部実用化、2026年度から本格提供が開始される予定だ。両者は競合ではなく、階層の異なる基盤として相互補完的に重層化する可能性が高い。国の基盤の上で、東京都発のDifyや、Dify Communityに対応したOSS群が連携・運用される絵柄だ。町田市のような先行事例がDifyと噛み合い、成果が積み上がるほど、AIの行政への浸透は加速する。
結局のところ、行政へのAI導入の鍵は”道具を共通化し、活用のための作法を揃え、現場でどのように回す(使ってもらうか)”に尽きる。Difyという共通の道具が成熟し、全国に広がれば、その形を最短で形成できるだろう。
(取材・文=本田雅一/ITジャーナリスト)