しかし世界の市場は私たちが想像する以上に大きくて深い。世界のニーズを捉えた製品開発を国内発で行うこと、日本とは桁違いの潜在的な機械需要に応える生産体制やサプライチェーン体制を日本発で構築すること、国内営業部門と海外営業部門が一体となって日系およびローカル資本の様々な業態のお客様の開拓を行うこと、そして日本では確立されている機械販売後のアフターサービス体制をグローバルで展開することなど、これらを全社挙げて取り組んでいきます。
次に「付加価値創造型企業への進化」ですが、当社はマシナリーセールスからソリューションプロバイダーへ転換することを意図しています。当社はこれまで「省人化」「省技術化」「省費化」「衛生」機械の提供を通じてお客様の課題解決に貢献してきましたが、お客様が抱える事業上の課題は多岐にわたります。例えば外食事業者の店舗運営では人手不足、労働賃金の上昇、資材の高騰等を背景に厨房やホールのオペレーションの効率化や見える化、新業態の開発、海外進出など様々な取り組みを行っています。
当社は米飯加工ロボット以外にも、POSやオーダーシステム、衛生資材などの自社製品を有しています。また最近はAIを活用した配席システムやレジシステム、オーダーシステムと米飯加工ロボットを連動させた自動おむすび生産ラインなどの開発にも取り組んでいます。こうした自社のソリューション製品群に加えて、当社は長 年の事業活動で培ったノウハウや業者ネットワーク、さらにはグローバルな食に関する市場情報等も有しています。こうした当社の事業リソースを活かして多面的なお 客様の課題を解決するソリューション企業に進化し、お客様の「ファーストコールカンパニー」を目指します。
――サステナブルな企業成長の実現に向けた次世代経営者を含む人材の育成も重要な経営 課題だと思いますが、具体的な人材育成への考えをお聞かせください。
谷口 社長としての私の一番大きなミッションは、当社をサステナブルなグローバル成長 企業として経営基盤を強化・再構築することです。そしてその基盤を支えていくのは人です。私は当社の社会的な存在価値を理解し、当社の未来を描き、時代に合わせて当社を進化させていく、次世代、次々世代のグローバル経営者、人材を育てていきます。そのための育成投資を積極的に実行していくとともに、社員との対話を増やし深めていきます。
――最後になりますが、前の中期経営計画「Growth2025」の期間で株価は約3倍になりました。一方、足元の株価は大きく低迷しています。今回の中期経営計画における御社の株価 対策についてお聞かせください。
谷口 当社の株価は3月に2605円の上場来高値を付けた後、5月の前期通期決算発表、2026年3月期第1四半期の決算発表を踏まえて上場来高値から大きく値下がりしてます。株価低迷の主たる要因は足元の業績悪化と慢性的に低い出来高、流動性にあると考えています。
まず業績ですが、今期はさらなる事業成長に向けた大きな改革期、転換期であるため売上・利益成長を実現するには例年以上にチャレンジングな期だと思います。当社を取り巻く市場は引き続き拡大を続けており中長期的な成長に疑いの余地はありません。今期の第1四半期業績は非常に厳しい結果になりましたが、引き続き業績計画の達成に向けて取り組んでいきます。
次に出来高、流動性の改善の一つの施策として、当社は個人株主の皆様に「単なる投資家」ではなく「スズモファン」になっていただくことを目指しています。当社はB to B企業ではありますが、当社の製品であるロボットを通じて作られた寿司をはじめとする米飯食はほぼ全ての日本にいる消費者に提供されている身近な企業です。今年の株主総会では、終了後に会場に展示した機械を実際に操作していただく時間を設けました。こうした体験を通じて、当社の技術力や製品の魅力を直に感じていただくことが、エンゲージメントの向上につながると考えています。
当社の個人株主には、「面白い会社を見つけた」と当社のファンになってくださり、 長期的に株式を保有してくださる方が多くいらっしゃいます。なかには「もっと世の中に鈴茂器工を知らしめて、認知を上げてください。応援しています」と、熱いエールを送ってくださる方も多く、今年の3月に上場来高値を付けましたが、当社の個人株主数は約3割増加したことからも「スズモファン」であることが伺えます。
さまざまななメディアや IR 活動を通じてまだ当社を認知していない潜在的な株主を掘り起こすことに加えて、既存の株主の方々にも当社の事業内容や将来性について深く理解していただけるよう努めていきます。
(取材・文=小野貴史/経済ジャーナリスト)