たとえばマクセルは、摂氏150度という過酷な環境でも安定稼働する厚さわずか1cmの全固体電池を開発し、すでに出荷を開始している。一般消費者が触れる製品では目立たないが、工場ラインや産業ロボット、IoT機器などの領域では、こうした「壊れない電池」が圧倒的な価値を持つ。
つまり日本の電池産業は、巨大マーケットでのスケールでは劣るものの、技術的な“質”の領域では依然として世界の先頭にいる。
では、日本が再び世界の主役に返り咲く可能性はどこにあるのか。現在、日本企業が注力しているのは3つの領域である。
・全固体電池:EVの“ゲームチェンジャー”候補
最も注目されるのは全固体電池だ。液体の電解液を固体に置き換えることで安全性が高まり、エネルギー密度も向上し、EVの航続距離は飛躍的に伸びる。さらに急速充電も可能になることで、EVの“弱点”が次々と解消される。
この全固体電池の研究では、日本が世界の最先端を走る。日産は現在の2倍の航続距離を目指し、2028年度の実用化を掲げる。トヨタは2027年度の量産開始を計画し「充電10分」「航続1000km級」の世界を視野に入れている。またマクセルのように、すでに小型の全固体電池を出荷している企業も存在する。
全固体電池が量産レベルで確立すれば、EV市場の構造そのものが変わる。これは日本の電池産業にとって、最後の大逆転のチャンスといえる。
・水素燃料電池:農業・建設で世界を先に走る可能性
もう一つの柱は水素だ。とくに注目されるのが、クボタが開発した世界初の水素燃料電池トラクターである。農業は長時間の重負荷作業が多く、EVではバッテリーの重量と充電時間がネックになる。一方で水素燃料電池はCO?ゼロで長時間稼働が可能だ。
日本は燃料電池技術でも先行しており、トラック、バス、建設機械、港湾での作業車など“重負荷で脱炭素が難しい領域”では、日本の技術が大きなアドバンテージを持つ。EV市場では劣勢でも、別の領域で世界のスタンダードを握る可能性を秘めている。
・ペロブスカイト太陽電池:最も可能性のある“日本発技術”
第三の切り札はペロブスカイト太陽電池だ。日本の大学・企業が発明した技術で、薄く、軽く、曲がり、低コストで生産できるという特徴がある。太陽光パネルを“貼る”“巻く”“持ち運ぶ”といった使い方が可能になり、EVの車体や建物の外壁、カバンやウェアラブルデバイスなど、あらゆるものが発電装置になり得る。
すでに量産化にめどが立ち、世界から注目を集めており、普及が進めば“発電と蓄電の境界を消す”新しい世界が広がる可能性が高い。
ただし、日本企業の挑戦は簡単ではない。最大の壁は中国勢の存在だ。中国は自国市場の巨大さを背景に、政府の補助金も活用しながら、原材料から製造、リサイクルまで一体化した供給網を作り上げた。その結果、数量・価格の勝負では日本企業が対抗しづらい状況になっている。
さらに中国企業は技術革新のスピードも速く、リン酸鉄リチウム(LFP)電池の高性能化など、低価格・長寿命で世界のEVメーカーを取り込みつつある。欧州の自動車メーカーまでがCATL製電池を採用し、勢力図は大きく揺れ動いている。
つまり日本が未来の電池産業で存在感を取り戻すには、“中国と同じ土俵に乗らない”戦略が必要になる。
では日本が世界で勝つためには何が必要なのか。ここに明確な答えがあるわけではないが、大きく4つの方向性が見えている。
まず一つ目は「高付加価値市場」で勝つことだ。産業ロボット、医療機器、IoT機器など、安全性や耐久性が最優先される領域は日本企業の得意分野である。価格競争に巻き込まれない“堅い市場”で存在感を示し続けることは、中長期的な競争力の基盤になる。