一方、Mrs. GREEN APPLEは、初の韓国単独公演に合わせてWeverseでコミュニティをオープンした。
「アーティストによって使い方が全然違うので、我々はアーティストに合わせたカスタム型サービスを提供したいと考えています」
ここまでの話を聞いていると、Weverseは音楽配信を中心としたプラットフォームとして、SpotifyやApple Musicと競合関係にあるように思える。しかし、Weverseと音楽配信サービスの関係について、チェ氏は明確な立場を示した。
「Weverseのリスニングパーティー機能は、Apple MusicやSpotifyとの連動性を図って作ったサービスです」
つまり、Weverseは音楽配信サービスと競合するのではなく、むしろ協業しながら「ファンダム体験全体」を提供するプラットフォームとして位置づけられている。ゆえに、目指すべきWeverseの将来像も独特だ。
「最初はアーティストのニーズに合わせてカスタムし、選ばれた機能だけを利用するとしても、究極的にはWeverseのすべての機能を活用していただき、エコシステムの中でサイクルが回ることがベストです」
新しいアルバムが出たとき、リスニングパーティーで同じファン同士が楽しみ、グッズを購入し、コンサートではアプリの機能を使って不便なく楽しみ、その後ライブストリーミングで見返すこともできる。そんなライフスタイルが定着する日も遠くはない。
「すべてのファンに1つの旅路を作ってあげる、というイメージです。ファンの推し活が、ライフスタイル全般の幸せにつながると信じています」
最後に、Weverseを通じて世界のファンとアーティストにどんな価値を届けたいのかを尋ねると、チェ氏は、少し間を置いてから、こう語った。
「私が本当に心から思っているのは、Weverseを通じて、自分が好きなアーティストや同じようにそのアーティストを愛しているファンたちと繋がり、より没入感を経験できて、連帯感を経験すること。そして、ファンの方の推し活が、ライフスタイル全般における幸せ感につながることです。それが全世界のファンたちに広がってほしいと、切に願っています」
このインタビューを通じて浮かび上がるのは、Weverseが単なる「ファンアプリ」ではなく、Big Techが見落としてきた「ユーザーの幸福」を最優先に設計された、次世代型プラットフォームであるという事実だ。
滞在時間ではなく感情的満足をKPIに置き、ユーザーを「消費者」ではなく「創造の主体」として扱い、既存プラットフォームとは競合ではなく協業する。そんな新しい発想によって、HYBEは音楽レーベルであると同時に、NexonやNCSOFTのように「コンテンツ×プラットフォーム×コマース」を一気通貫させるエコシステム企業へと進化している。
Big Techがアルゴリズムによる囲い込みを強化する中、Weverseの「人間中心」のアプローチがどこまでスケーラビリティ(拡張性)を維持できるか。日本市場でのローカライズとその成否が、その重要な試金石となるだろう。
(取材・文=昼間たかし/ルポライター、著作家)