「顔を見せながらビデオでコミュニケーションを取ることが、ファンにとって非常に重要だったんです」
2つ目は、ECサービスとの連携だ。ここにも、Big Techとは異なる思想が表れている。
チェ氏は、ファンの推し活におけるクライマックスはコンサートや公演だと語る。
「でも、会場で最も不便なのは、グッズを買うために2~3時間も列に並ばなければならないこと。それを解決したかったんです」
Weverseのオンラインストアで事前購入し、現場でピックアップできるシステムを、サービス開始初期から導入。ファンの不便を解消するだけでなく、アーティストやレーベルにとっても売上増加につながった。
現代では多くのテック企業が「不便さ」や「ストレス」を放置し、むしろそれを利用してエンゲージメントを高めようとするのに対し、Weverseは「1つでも不便を減らす」ことに注力している。
チェ氏の言葉からは、Weverseが建前ではなく本当に「ファンの幸せ」を起点に設計されていることが見えてくる。
日本市場について、チェ氏は戦略的な重要性を語る。現在、香取慎吾、YOASOBI、Mrs. GREEN APPLE、KAWAII LAB.など、多くの日本のアーティストがすでにWeverseを利用している。
チェ氏によれば、日本のアーティストには特徴的な傾向があるという。K-POPアーティストと比較すると、ファンとのコミュニケーションに慎重で、なかにはシャイな一面をつアーティストもいる。そのため、Weverseはいきなりハードルの高いライブ配信を提案するのではなく、その特性を深く理解した上での「スモールスタート」を提供している。
「例えば香取慎吾さんの事例が象徴的です。最初からリアルタイムの『Weverse LIVE』を行ったわけではありません。まずは『Weverse Albums』でのリリースに合わせたプロモーションの一環として、テキスト・画像コンテンツの発信といった、アーティストにとっても利用しやすい機能のサポートからスタートしました。そこでファンの熱い反応に触れていただきながら、段階的により深いコミュニケーションであるライブ配信の活用をサポートさせていただきました。
他の日本アーティストも同様に、それぞれのペースで活用いただいています。日本のアーティストがWeverseに共感してくださった最大の理由は、『グローバルファンとの絆を深化させたい』という想いがあったから。単に市場を広げるのではなく、遠く離れたファンとも心理的に繋がりたいというニーズが、Weverseの提供する価値と合致しているのです」
こうした日本市場での経験を踏まえ、チェ氏はグローバル展開におけるWeverseの独自性についてこう語った。
「我々は『グローバル展開』といっても、1つの方針がすべての国に適用されるべきだとは思っていません。それぞれの国に合わせた方法があるべきで、文化の違いは内部でも熱心に研究しています」
Weverseは、各国の文化差を「研究対象」として扱い、それぞれに最適化されたサービスを提供する。興味深いのは、各国のファンダム文化が「徐々に似てきている」というチェ氏の指摘だ。以前は1つのグループだけを推す傾向があったが、今は複数のアーティストを掛け持ちするファンが増えているという。ただし、そのタイミングは国によって異なる。
だからこそWeverseが力を入れているのが「カスタマイズ型サービス」だ。
「音楽ジャンルやアーティストごとに、Weverseの活用方法も様々です。例えばKAWAII LAB.は、Weverse DMを活用していただいています。狭い範囲で深く没入するファンが多く、DMのエンゲージメント数が非常に高い」