「1回入れてもらえれば、必ず使い続けてもらえる自信があります。例えば何万人、何十万人に一斉配信する時、誰でも怖いじゃないですか。だから事前にテスト配信をしたい。でも実は、そういう機能が準備されていないツールが多いんです。私たちはそういう細かいところまで作り込んでいる。お客様の声をすぐ製品に反映する開発力も含めて、それが数字に表れているんです」
こうした数字が、日本市場への集中投資の根拠になっている。日本の顧客単価は台湾比で約5倍。市場規模の差を考えれば、日本での成功がグローバル成長の最大エンジンになる。猪股代表が投資家へのプレゼンでもこの数字を成長の根拠に据えるほど、日本事業はグループ全体の中で特別な位置づけだ。
ラウンドテーブル終了後、薛覲CEOに個別に話を聞いた。特に聞きたかったのはAIの未来だ。
薛覲CEOは「AIには3つのレイヤーがある」という。
「一番下がインフラ、つまり半導体。その上にChatGPTやGeminiのような基盤モデル。そして私たちのようなアプリケーションレイヤーです。今は半導体が最も利益を生んでいます。しかし半導体はやがてコモディティ化するでしょう。差別化が難しくなった時、価値はアプリケーションレイヤーに集まってきます。つまり、私たちの時代が来るわけです」
さらにAIの未来について、こう語った。
「AIは誰が作り、何を学習させたかによって、人々の認識そのものを変えてしまう。これが最大の社会リスクです。だからこそ、AIを誰が作るかが重要です」
そして、AIが人間社会にもたらす変容についても言葉を継いだ。
「これまで人間の価値は、いい学校を出たか、専門知識があるかで測られてきた。しかし、これからは、AIをどれだけ使いこなし、どれだけ価値に変えられるかで人間が分かれる時代になります。AIは単なるビジネスツールではありません。社会そのものを変えるものになっていくでしょう」
上海でWeChatの可能性に目覚め、台北でゼロから会社を起こし、LINEという日常インフラを通じてアジアの企業と消費者の距離を縮めてきた起業家は今、DAACというAI成長エンジンを手に、日本市場という最大の舞台に立った。9年分のデータと、アジア3カ国で積み上げた実績が、その言葉の確信を裏付けている。
(取材・文=昼間たかし)