肥満は「甘え」ではなかった…これからは治療する時代、経口薬で60兆円市場が激変か

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【記事の概要】
肥満は「自己責任」ではなく医学的に治療すべき疾患として再定義されつつある。日本では2024年にノボ ノルディスクの肥満症治療薬「ウゴービ」が発売され、2025年にはイーライリリーの「ゼップバウンド」も参入。さらに中外製薬が創製した経口薬「オルホルグリプロン」の承認が視野に入り、治療のハードルは大きく下がる見通しだ。肥満治療薬市場は2030年に1000億ドル規模、関連産業を含めると約4000億ドルに拡大すると予測され、食品、ウェアラブル、デジタルヘルスなど新たな産業連鎖が日本でも動き始めている。

「痩せられないのは意志が弱いからだ」――。日本社会には長らく、そんな偏見が存在してきた。

 しかし今、この常識が根底から覆されつつある。世界中で急速に普及している肥満症治療薬が、日本の医療現場とビジネスの構造を大きく変えようとしているのだ。

 2024年にはノボ ノルディスク ファーマの「ウゴービ」が国内で販売開始。続いて2025年には、米イーライリリーの「ゼップバウンド」が登場した。さらに現在、日本発の経口肥満治療薬の承認が視野に入っている。

 これは単なる「ダイエット薬」の流行ではない。公衆衛生、医療費、食品産業、デジタルヘルス――。多くの産業を巻き込む巨大市場の形成が始まっている。

 投資銀行ゴールドマン・サックスの推計によれば、肥満症治療薬市場は2030年に1000億ドル規模に達し、関連ビジネスを含めると約4000億ドル(約60兆円)の経済圏になる可能性があるという。

 その波が、いま日本にも押し寄せている。

●目次

日本で遅れてきた「肥満は病気」という認識

 厚生労働省の調査によれば、日本ではBMI25以上の肥満者が男性で約3割、女性で約2割に達している。それにもかかわらず、日本では長年、肥満症の治療が積極的に行われてこなかった。

 理由の一つが、根強い「自己責任論」だ。太るのは生活習慣の問題であり、医療の対象ではない――という社会的認識が強かったのである。

 しかし近年の研究では、この考え方が科学的に不十分であることが明らかになってきた。肥満は遺伝的要因、脳の報酬系(食欲制御)の異常、ホルモンバランス、社会環境など、複数の要因が重なる慢性疾患と考えられている。

 さらに、肥満は以下の疾患のリスクを高める。
 ・2型糖尿病
 ・高血圧
 ・脂質異常症
 ・心血管疾患
 ・睡眠時無呼吸症候群

 つまり肥満は単なる体型の問題ではなく、重大な生活習慣病の入口なのである。製薬業界に詳しい医療アナリスト・三好泰一氏はこう話す。

「肥満症は明確な医学的疾患です。食事や運動だけでは改善しないケースも多く、薬物治療を含めた総合的なアプローチが必要になります。世界的にはすでに“治療すべき病気”として認識されています」

 こうした認識の変化が、肥満治療薬市場を急速に拡大させている。

市場を切り開いた「ウゴービ」

 日本の肥満治療市場を本格的に動かしたのが、ノボ ノルディスク ファーマのウゴービだ。この薬は、GLP-1受容体作動薬と呼ばれるタイプで、脳の満腹中枢に作用して食欲を抑える仕組みを持つ。週1回の皮下注射で体重減少効果が得られることが特徴である。

 米国ではすでに数百万人規模の患者が使用しており、医療界のみならず社会現象ともいえるほどの注目を集めた。日本でも2024年の発売以降、処方数は徐々に拡大している。