EVトラック、充電ではなくバッテリー「交換」で勝負…CATLとオクトパスの合弁が描く『動く発電所』

 エンガジェットの報道によれば、Swaptopusのウィリアム・ロウCEOは「ステーションにある大量のバッテリーは、グリッドが必要なときに電力を供給できる」と語っており、各ハブが小規模な発電所として機能する可能性を示唆している。

 ただし、ロウ氏も認めるように、この運用にはビジネス上の複雑さも伴う。バッテリーを「レンタル」するトラック事業者やメーカー(計画では交換ステーションはトラックメーカーやフリート事業者が所有する)が、自社の電池を電力網の調整に使われることへの懸念を持つ可能性もある。電池寿命への影響を含む利害調整は、今後の事業設計の重要な課題となる。

 それでも、「物流インフラとエネルギーインフラの統合」というビジョンは、単なる充電設備整備とは次元の異なる戦略的含意を持つ。

なぜ「英国」から始めるのか——地政学的文脈

 この提携を理解する上で見落とせないのが、EUと中国の間で続く「貿易摩擦」の文脈だ。

 EUは2024年10月、中国製EVに対して最大35%超の追加関税(既存の10%関税に上乗せ)を課す措置を正式に発動した。EUのバッテリー規制(2023年採択)も、サプライチェーンの透明性確保や炭素フットプリントの開示を義務付けるなど、中国製品への規制圧力は多層的に強まっている。

 しかしSwaptopusの戦略は、こうした規制の間隙を縫うように設計されている。EUの追加関税の対象は中国から輸出される「車両」であり、バッテリーや部品、ましてや「交換サービスのプラットフォーム」ではない。英国はEU離脱後に独自の通商政策を持ち、2035年以降のディーゼル車新車販売禁止に向けて脱炭素化を急いでいる。この規制環境が、実証実験の最初の舞台として選ばれた背景だ。

 エネルギー政策の専門家、たとえばロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)のグランサム気候変動・環境研究所などが指摘するように、欧州の重量輸送のEV化は2030年の排出規制強化(2030年以降、新規重量トラックのCO₂排出を2019年比で43%削減義務)に向けて不可避の課題だ。CATLとオクトパスは、この規制の「引力」を最大限に活用している。

「バッテリー交換方式が面白いのは、インフラ標準化の先行者優位が極めて大きい点だ。電池規格、ソフトウェアのクラウド管理、エネルギートレーディングまでを一貫して設計したプレイヤーが、後発を締め出す構造になりやすい」(エネルギー政策研究家・佐伯俊也氏)

標準化が持つ「ロックイン」の力

 バッテリー交換方式が普及した場合、業界に何が起きるか。

 鍵となるのは「標準化」だ。現時点で、Swaptopusが採用するCATLの電池モジュール規格に対応した車両でなければ、このネットワークを利用できない。CATLは中国ですでに10社以上のトラックメーカーと共同で30種超のバッテリー交換対応車種を開発しており、規格の普及を着実に進めている。欧州でも同様の動きが展開された場合、主要物流拠点がCATL規格で整備されていけば、対応していないトラックは事実上その市場から疎外されることになる。

 モバイル通信業界のeSIMや、決済インフラのVisa/Mastercardのような「インフラを押さえたプレイヤーが最終的に主導権を握る」構図は、産業史が繰り返し示してきたパターンだ。

「技術の優劣よりも、誰が標準を握るかが市場の行方を左右する。バッテリー交換においてCATLが欧州で標準を取れれば、それは単なる製品販売ではなく、物流インフラの根幹を握ることを意味する」(自動車アナリスト・荻野博文氏)

日本の商用車産業に何が問われているか