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灰色の正体。

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「おかしい」

相変わらずオルの膝の上を陣取る(つもりはないのだけど、妊娠が判明したら過保護モードがレベルMAXなのでこの状態がデフォになっている)私は、鼻からムフーッと空気を出す。

「どうしたエンリ」

「おかしいんですけど。私の召喚する八百万の神は、この世界にとっては異界であるけれど『神様』なんですけど。なのに灰色の奴らが捕まらないっていうのがおかしいんですけど」

「そうは言ってもな、魔王の残滓の力は僅かでも強力なものだ。それを使われたら……」

「それだよ。だってオル達は魔王を制したんでしょ?」

「ああ、まぁな。だが普通なら『勇者の剣』さえあれば何とかなるはずの魔王に、変な力が混じっててうまく倒せなかった」

「それで飛び散った、と」

「そうだ」

「それもおかしな話だと思うの。その変な力ってなんなの?」

「あー、確か精霊王が言うには『外からの力が』とか言ってたな」

「外から……」

相変わらず馬車移動の私達だけど、お腹の子の事もあり更に振動が抑えられている。自国の事で手一杯なクラウス君を無理やり空間魔法で呼び出して、オルが更に改造させたのだ。
そんなゆったり馬車の旅を満喫するのは危機感がない気がするけど、ストレスは妊婦にとって大敵だ。許してもらいたい。

「ワタえもーん」

《……いや、前のワタルくんの方が呼び方ましなんだけど。なんだいエン太くん》

呆れながらもきちんと返す『渡りの神様』は、相変わらずのローテンションで呼びかけに応えてくれる。今回もオルにも声を聞かせるサービス付きだ。ん?声が聞こえるのは身内だからかな?

「えーと、この世界の魔王について教えてよ」

《僕はこの世界の神じゃないからなー。知らないって言いたいけど、今回に限ってはそうも言ってられないね》

「やっぱり何か知ってたか。何で教えてくれなかったのよ」

《聞かれなかったし、君の血の系譜に関わる事だったから》

「急に話が重くなった!私の血って?」

《んー、君の事を言っていいのか地球の神に聞いてみる……》

ワタルくんの後ろでピーヒョロローみたいな音が聞こえてきた。まさかモデム音とか?
いやいやまさかね。天下の神様がダイヤルアップ接続とか、昔のネットじゃあるまいし。

《うん、大丈夫みたい。じゃあ言うけど、いい?》

「うん。もう何でも言ってよ。お腹の子のこともあるし、私が知らなかったからって何か起こったら嫌だから」

知らず体に力が入っていたみたいで、後ろから私を抱きしめていたオルが、私の頭をよしよしと撫でてくれるとホンワカして力が抜けた。うむ。苦しゅうない。

《うん。大丈夫そうだね。エンリ、君の名前の『エンリ』はね、神の穢れを流す者につけられる名なんだよ》

「え?うちって巫女とかの家系じゃないけど、神社とか関係ないはずだし……」

《そういうのは関係ないんだよ。神社仏閣の人達は役割としてそれをこなしているけど、君の場合は名が付いて役割が始まった》

「なるほど。やけに日本の神様達が親しげだったのは、そのせいか……」

ん?待てよ?
ということは、役割のある私が異世界に来ちゃったら、地球で流す穢れってどうなるの?

《穢れを流すというのは、日本の神が地上に人として生きるという事なんだ。人として生きる事が穢れを流す事になるんだよ》

「私が神様なの?」

《神というより、神だったもの。神の一部だったものって言った方が分かりやすいかな》

「そっか。私の事は分かった。それで、この世界の魔王に入った異質な力って何なの?」

《その穢れ、だよ》

やっぱそうかー。この話の流れから、それしか予想できなかったとはいえ神の力が魔王と混ざるって相当なものだろう。
だって私のチートも、少なからず八百万の神の力が影響しているだろうし、その魔王も相当なチート能力を持っていたのではないだろうか。
てゆか、よく魔王に勝てたなオル。ああ、クラウス君が居たからか。クラウス君の彼女もたしかチート能力持っていたんだよね。

「うん。なんでその穢れが異世界に入ったのかは、どうせ命を仕訳する担当の神のミスとかなんでしょ?」

《その通りだよ。もう尻拭いは勘弁だよ》

世界を渡る力を持つ神は一柱しか存在しないらしい。今までここまで忙しくなかったから一柱で間に合っていたようだったが、仕分けを担当する神が代替えしたところ色々問題が勃発しているらしい。
かわいそうに……。

「魔王教の人間はともかく、灰色の持つ力をどうにかできないの?」

「よせエンリ、これ以上はお前が動くことはない。俺が、この世界の神でなんとかしてみせる」

「オル……でも……」

《そうだよエンリ。君には神の加護があるといっても、魔王と混ざった力も神の一部なんだ。絶対安全とは言えないよ》

ワタルくんの声が珍しく少し震えている。後ろを振り向くとオルが悲しげに私を見ていた。その整った顔が辛そうに歪んでいるのは見ている私も辛い。

「エンリ、お前は俺の全てなんだ。お前に少しでも危険が及ぶ可能性があるのなら、俺は絶対にお前を連れて行かない」

「オル。それはダメだよ。魔王に混ざった力は、私の世界の神様の一部なんだよ。そして私もその力を持っている。私にしか出来ないかもしれない」

「エンリ!」

「それに……」

私はオルの短い黒髪をそっと撫でる。オルはその感触を確かめるように目を閉じた。まるで猛獣が懐いているようなイメージに私は少し笑う。

「それにね、オルも私の全てなんだよ。私だけ無事でも意味がないんだからね。オルが居なかったら私も消えちゃうんだからね」

「エンリ……」

撫でている私の手をそっと掴んだオルは、その手に自らの唇を押し当てて、私を見てニヤリと笑う彼の色香漂う動作に、知らず顔が熱くなる。何すんだ。何すんだ馬鹿者。

「分かった。エンリは絶対に俺が守る。だから大人しくしてろよ」

「うん!分かった!」

本当に分かっているのかと苦笑するオルに、私は何だか嬉しくなって頬にキスをした。すると彼に何のスイッチが入ったのか、お返しとばかりに濃ゆい深いキスをされて腰砕けになってしまう私。
そしてこの一連の流れの間、ワタルくんと会話の回線を切って居なかったことを後で知り、凄まじく後悔することになるのだった。
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