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冷たい手のひら2
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大悪魔サルヴァドール。
つい二週間ほど前からアリア・グランツフィルと契約を結んだ彼は、契約者の弱りきった姿にため息をついた。
(二度目の生だろうが、やっぱりガキはガキだよな)
自分の手をぎゅっと握る幼い手を見つめながら、改めて思う。
アリアの最近の記憶を元に形作った自分も子供の容姿をしているが、実のところサルヴァドールの年齢は百を優に超えていた。
とはいえ、ほぼ本の中に閉じ込められていたので、普通の人間のように歳を重ねたと言っていいのかは不明である。
「どう、して……おと、さま」
手を繋いでから穏やかな寝息を立てていたはずのアリアが、急に苦しみ出した。
「……悪夢にうなされてんのか」
ガタガタと震えたアリアは、乾いたばかりの目尻に涙を溜めている。
そして、何度も「お父様」とクリストファーを呼んでいた。
(げーむのシナリオだなんだって言ってるが、結局は今のこいつ自身が父親に愛されたいんだろうな)
複雑な詳細は抜きにして、今を生きるアリアは紛れもなく目の前にいるこの少女である。
そして、死にたくないがために精一杯行動に出ているが、この幼い心の根本的部分には「父親に愛されたい」という気持ちが見え隠れしていた。
(だから、お前も夢に見るんだろう。哀れなこった)
アリアに出会う前のサルヴァドールならば、こういった境遇の人間に興味すら抱かなかっただろう。
同情以前になんの感情も湧くことはなかったが、最近は妙である。
(イラつくんだよな。こいつが蔑ろにされんのは)
そして、仮にも自分の契約者が他人のせいで夢の中でまでめそめそしているのが、サルヴァドールは気に入らないのだ。
「おとう、さま……おとうさま……」
「はいはい、わかったよ。お父様、な」
少し面白くない気持ちになりながらも、結局はこの小さな少女のためにサルヴァドールは動いてしまう。
(封印を解ける人間を探していただけだってのに、妙なのに出会っちまったな)
そしておかしなことに、普段からアリアに頼られるのにも悪い気はしていない。
きっとこれも契約印を刻んだ代償だと言い聞かせながら、サルヴァドールはある場所へ向かった。
アリアが眠る部屋を離れたサルヴァドールは、黄金の魔力を体に纏わせて外を浮遊した。
やってきたのはグランツフィル公爵邸本館。
とばりに紛れて夜風に乗り、鼻をスンと嗅いである場所を探す。
「みつけた」
案外早く発見できた。
どうやら目的の人物は寝酒を嗜んでいたようだ。
外から観察してみるが、あまり酒は進んでいないように見える。
(お、あいつが根気よく騒いだせいか、ちょっとは隙ができてるようだな)
サルヴァドールは対象を――クリストファーをじっと見据えて口角をあげた。
改めて確認してみても、悪魔が精神に侵入していることは間違いないだろう。
そして、かなり力のある悪魔だということがわかる。
高位の悪魔ほど人間に取り憑くとき、無駄な匂いを残さない。
サルヴァドールは気づけたが、クリストファーに取り憑くやつはそれなりに厄介な悪魔だろう。
「さて、少しちょっかい出してみるか」
クリストファー自身に、そして彼の精神に潜り込んでいる悪魔に向けて。
サルヴァドールは片手をあげて、自身に纏わせていた黄金の魔力をクリストファーへと放った。
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