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第十一話 バイト開始
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海の家シラハマに行くと簡単に正彦から説明を受け、すぐにバイト本番が始まった。
冷房が効いているので、店内は暑くはない。南国を思わせるラグジュアリーなテーブルと椅子が並ぶ海の家シラハマ。すり抜けるように雪花は進む。
「お待たせしました。タコライス二つです」
雪花は淡々とした口調で言い、男女カップルの前のテーブルにタコライスを並べる。
「はーい! カレーにチャーハンです。お待ちどうさま!」
詩帆は威勢よく接客していた。いつもは下ろしている髪をお団子にしている。
「可愛いね、君。どう? これからドライブ行かない?」
「どうも! ありがたいけど、バイトあるからごめんね!」
お客に絡まれても、気分を害さない程度にあしらっていた。
しかし、雪花は詩帆のようには上手く断れない。
「ねえ、お姉さん。海で一緒に遊ばない?」
男性二人組のお客の一人がにやけた顔で話しかけてくる。
「すみません。仕事がありますので……」
「そう言わずにさぁ」
雪花の腕を掴もうとして来る。そこにずいと割って入る身体があった。
「はい! かき氷、イチゴとハワイアン一個ずつです!」
ニッカリ笑った勇樹が両手にかき氷を持ってきたのだ。お客の男性は口角をヒクヒクとさせる。
「いや、あんた誰?」
「俺はこの店のバイトです! よろしくお願いします」
「いや、よろしくって……」
お客の男性と勇樹が意味のない会話を繰り広げる。その間にこそこそと雪花はその場を離れた。
「ふぅ……」
こっそりと厨房に入って壁に背中をもたれかける。
「さっきのお客さん、すごくしつこかったね」
シンクで皿洗いをしている葉瑠が小声で声を掛けてきた。ここからでも、ホールの様子が見えるようだ。雪花は顔を向けて苦笑いをする。
「うん。勇樹が来てくれて助かった」
「雪花ちゃん、綺麗だから大変」
「そんなことないよ。海って、やっぱり解放的になるのかも」
実際にごった返している浜辺では、こんなの当たり前の光景だった。知らないもの同士だろう男女が話している様子がそこら中で見られる。
「ほら! 口より手を動かして! 勇樹くんも戻って!」
バイトリーダーの女性が快活よく言って、気を抜いていた雪花の肩を叩く。
慌てて雪花はホールに戻った。
「つ、疲れた……」
「海で遊ぶ暇、全然なーい!」
バイト一日目が終わり、まかないを食べて宿泊所に四人で戻ってきた。
雪花はぐったりと床に座り込み、詩帆は大の字で寝転がっている。海の家には昼どきなど関係なくひっきりなしにお客が訪れ、夕方になるまで休む暇はなかったのだ。
「ホールは大変だったね。お客さん途切れなくて、動きっぱなしだったもの」
ひとり平気な顔をした葉瑠がうちわであおいでくれる。宿泊所は冷房がちゃんとあるものの、少し効きが悪かった。詩帆は寝転がったまま、視線だけを葉瑠に向ける。
「葉瑠だって大量の食器と格闘していたじゃん」
ジョッキや皿が次々にシンクに投げ込まれていた。
「わたしは元々、バイトで慣れているから」
ラーメン屋で慣れていると言っても、あの量をさばくのは大変だろう。
「おーい。みんな、花火買ってきたぞ! 海に行って、やろうぜ!」
下の階から勇樹が呼び掛けてくる。
どこに元気があるのだろうか。買いに行ってくると言って出て行った彼は、近くのコンビニで花火を買ってきたのだ。随分早く帰って来たものだと感心する。
「ばーか。花火は最終日! 決まっているでしょ!」
詩帆が階下に向けて顔を出した。勇樹はまなじりをつり上げて反論する。
「そんなの決まっているかよ。初日にしてもいいじゃん!」
確かに勇樹の言葉には一理ある。しかし、せっかく花火をするなら元気があるときがいい。
「私も最後の日がいいかな。今日は疲れたかも」
「そうっすよね! バイトの最後の思い出に花火なんて、最高に素敵ですよね! 雪花さん」
雪花にはころっと態度を変える勇樹。親指を立ててウインクまでしていた。「なんだ、この変わりようは」と、詩帆は眉をひそめる。
「じゃあ、代わりにみんなでトランプしましょう!」
どこから取り出したのか、勇樹はトランプを手にしていた。準備が良いことだと何も遊ぶものを用意してこなかった雪花は思う。
どうすると顔を見合わせる雪花と詩帆と葉瑠。
「いいけどさ。お菓子は買って来てあるの? コンビニに行ったんでしょ?」
詩帆はただトランプで遊ぶだけでは満足しないらしい。
「あ。花火しか買って来てない……」
勇樹もついでに買って来たらよかったと思ったのだろう。渋い顔をつくる。
「みんなで買いに行く?」
葉瑠がそう言うが、詩帆は立ち上がった。
「じゃあ、ババ抜きで負けた人がお菓子を買いに行く! 決まり!」
三人で階段を降りて行く。一階に置かれているローテーブルを囲んで、カードを混ぜ始めた。ババ抜きはポーカーフェイスの出来ない葉瑠が負けるかと思いきや、最後の一騎打ちで運よくジョーカーを避けた。
最後にジョーカーが手元に残ったのは雪花だった。
冷房が効いているので、店内は暑くはない。南国を思わせるラグジュアリーなテーブルと椅子が並ぶ海の家シラハマ。すり抜けるように雪花は進む。
「お待たせしました。タコライス二つです」
雪花は淡々とした口調で言い、男女カップルの前のテーブルにタコライスを並べる。
「はーい! カレーにチャーハンです。お待ちどうさま!」
詩帆は威勢よく接客していた。いつもは下ろしている髪をお団子にしている。
「可愛いね、君。どう? これからドライブ行かない?」
「どうも! ありがたいけど、バイトあるからごめんね!」
お客に絡まれても、気分を害さない程度にあしらっていた。
しかし、雪花は詩帆のようには上手く断れない。
「ねえ、お姉さん。海で一緒に遊ばない?」
男性二人組のお客の一人がにやけた顔で話しかけてくる。
「すみません。仕事がありますので……」
「そう言わずにさぁ」
雪花の腕を掴もうとして来る。そこにずいと割って入る身体があった。
「はい! かき氷、イチゴとハワイアン一個ずつです!」
ニッカリ笑った勇樹が両手にかき氷を持ってきたのだ。お客の男性は口角をヒクヒクとさせる。
「いや、あんた誰?」
「俺はこの店のバイトです! よろしくお願いします」
「いや、よろしくって……」
お客の男性と勇樹が意味のない会話を繰り広げる。その間にこそこそと雪花はその場を離れた。
「ふぅ……」
こっそりと厨房に入って壁に背中をもたれかける。
「さっきのお客さん、すごくしつこかったね」
シンクで皿洗いをしている葉瑠が小声で声を掛けてきた。ここからでも、ホールの様子が見えるようだ。雪花は顔を向けて苦笑いをする。
「うん。勇樹が来てくれて助かった」
「雪花ちゃん、綺麗だから大変」
「そんなことないよ。海って、やっぱり解放的になるのかも」
実際にごった返している浜辺では、こんなの当たり前の光景だった。知らないもの同士だろう男女が話している様子がそこら中で見られる。
「ほら! 口より手を動かして! 勇樹くんも戻って!」
バイトリーダーの女性が快活よく言って、気を抜いていた雪花の肩を叩く。
慌てて雪花はホールに戻った。
「つ、疲れた……」
「海で遊ぶ暇、全然なーい!」
バイト一日目が終わり、まかないを食べて宿泊所に四人で戻ってきた。
雪花はぐったりと床に座り込み、詩帆は大の字で寝転がっている。海の家には昼どきなど関係なくひっきりなしにお客が訪れ、夕方になるまで休む暇はなかったのだ。
「ホールは大変だったね。お客さん途切れなくて、動きっぱなしだったもの」
ひとり平気な顔をした葉瑠がうちわであおいでくれる。宿泊所は冷房がちゃんとあるものの、少し効きが悪かった。詩帆は寝転がったまま、視線だけを葉瑠に向ける。
「葉瑠だって大量の食器と格闘していたじゃん」
ジョッキや皿が次々にシンクに投げ込まれていた。
「わたしは元々、バイトで慣れているから」
ラーメン屋で慣れていると言っても、あの量をさばくのは大変だろう。
「おーい。みんな、花火買ってきたぞ! 海に行って、やろうぜ!」
下の階から勇樹が呼び掛けてくる。
どこに元気があるのだろうか。買いに行ってくると言って出て行った彼は、近くのコンビニで花火を買ってきたのだ。随分早く帰って来たものだと感心する。
「ばーか。花火は最終日! 決まっているでしょ!」
詩帆が階下に向けて顔を出した。勇樹はまなじりをつり上げて反論する。
「そんなの決まっているかよ。初日にしてもいいじゃん!」
確かに勇樹の言葉には一理ある。しかし、せっかく花火をするなら元気があるときがいい。
「私も最後の日がいいかな。今日は疲れたかも」
「そうっすよね! バイトの最後の思い出に花火なんて、最高に素敵ですよね! 雪花さん」
雪花にはころっと態度を変える勇樹。親指を立ててウインクまでしていた。「なんだ、この変わりようは」と、詩帆は眉をひそめる。
「じゃあ、代わりにみんなでトランプしましょう!」
どこから取り出したのか、勇樹はトランプを手にしていた。準備が良いことだと何も遊ぶものを用意してこなかった雪花は思う。
どうすると顔を見合わせる雪花と詩帆と葉瑠。
「いいけどさ。お菓子は買って来てあるの? コンビニに行ったんでしょ?」
詩帆はただトランプで遊ぶだけでは満足しないらしい。
「あ。花火しか買って来てない……」
勇樹もついでに買って来たらよかったと思ったのだろう。渋い顔をつくる。
「みんなで買いに行く?」
葉瑠がそう言うが、詩帆は立ち上がった。
「じゃあ、ババ抜きで負けた人がお菓子を買いに行く! 決まり!」
三人で階段を降りて行く。一階に置かれているローテーブルを囲んで、カードを混ぜ始めた。ババ抜きはポーカーフェイスの出来ない葉瑠が負けるかと思いきや、最後の一騎打ちで運よくジョーカーを避けた。
最後にジョーカーが手元に残ったのは雪花だった。
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