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『何度生まれ変わっても、あなたを愛する』
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「リリィ、泣いてる騎士もいるよ」
「ありがたいことです」
列の中には敬礼をしながら、グスッと洟を啜っている騎士もいる。それほどまで自分たちの結婚を祝ってくれているのだと思うと、リリアンナは深く感謝したくなる。
だがその実、彼らは憧れのリリアンナが人妻になってしまったことに、絶望しているだけだった。
それが分かっているディアルトは、我ながら性格が悪いと思いつつ、美しい花嫁を独り占めできてご満悦だ。
行く先には白い馬車が用意されてあり、これから王都を一周することになっている。馬車は花で飾られてあり、馬車を引く白馬も美しい。
「ディアルト様、お腹が空きました。ディアルト様は大丈夫ですか?」
馬車に乗り込むとリリアンナは空腹を覚えて真面目に聞き、思わずディアルトが笑い出す。
「朝食はとらなかったのか?」
「アリカに、『体型が崩れてはいけないので、食べ過ぎてはいけません』と言われました。結局口にできたのは、ほんの少しのお菓子ぐらいで……」
いつもガッツリ食べているリリアンナの胃袋なら、少しのお菓子は腹の足しにもならないのだろう。
「パレードが終わったら、お腹が楽になるドレスに着替えてガーデンパーティーに挑もう。アリカもそこでならいいと言うだろうし」
「はい」
グルル……と鳴く腹をさすり、リリアンナは馬車の周囲に並ぶ騎士団を見やる。
「何だか実感が湧きません」
「そうだね。俺もずっと君に求婚してきたのに、いざ当日となると感慨深すぎてこれが現実なのか夢なのか分からないよ」
「頬をつねって差し上げますか?」
「いや、遠慮しておくよ」
感動的な式を挙げた直後でも相変わらずなリリアンナに、ディアルトが苦笑する。
二人が馬車に乗り込んだあとに騎馬隊などのパレードの整列が終わり、馬車がゆっくりと動き出した。
「妃殿下は、やはり参列してくださいませんでしたね」
「まぁ、仕方ないんじゃないかな。病気療養という名目だし。王都に戻ったら戻ったで、また周囲に色々問い詰められるだろうし。逃げた形になるのだから、戻って来たら意味がないんじゃないか?」
「……殿下は今になっても、王妃殿下を悪く仰らないのですね」
「俺が叔母上にやり返す理由もないしね。彼女が俺を疎む理由があっても、俺は父代わりになってくれた叔父上の妻を、どうこうしたいと思わない」
ガーデンパーティーの準備がされている前庭を脇に進んでゆくと、王城の門の向こうは異様な熱気に包まれていた。
宮殿の敷地内からでも王都の熱気が伝わり、民が歓声を上げているのが分かる。
「……そのような、悪く言えば甘いディアルト様だからこそ、私はこれからもずっとお側でお守りしなければならないのです」
(だからこそ、私は大きな力を失っても殿下の……いえ、陛下のお側にいてもいいのだわ)
そう思い、リリアンナは清々しい笑みを浮かべた。
やがて門を抜けて王宮の敷地を出て、王都へとさしかかるとワァッと大気をビリビリとさせるほどの歓声が二人を包んだ。
「す……ごい」
その勢いにリリアンナは目を丸くし、隣でディアルトが笑みを深める。
「……ん?」
民衆に対して手を振っていたリリアンナだが、最前列に出ている者たちの中にチラホラとバラを一本持っている者を見かけた。
(あ……)
バラと言えば――。
ハッとして隣にいるディアルトを見ると、彼は悪戯成功というように白い歯を見せて笑った。
「民に協力してもらったんだよ。俺のバラ作戦の最後は、九九九本のバラ。さすがに俺一人では持ちきれないから、こうやって最後に、俺の愛する民に持ってもらうことにした」
(民に……)
「…………」
リリアンナに向けて捧げるように出されたバラを、彼女は半ば呆けた顔で見ていた。
「九九九本の意味は……?」
「『何度生まれ変わっても、あなたを愛する』」
(――殿下……っ)
ディアルトの言葉に、リリアンナは思わず涙を零しながら笑い出してしまった。
「ありがたいことです」
列の中には敬礼をしながら、グスッと洟を啜っている騎士もいる。それほどまで自分たちの結婚を祝ってくれているのだと思うと、リリアンナは深く感謝したくなる。
だがその実、彼らは憧れのリリアンナが人妻になってしまったことに、絶望しているだけだった。
それが分かっているディアルトは、我ながら性格が悪いと思いつつ、美しい花嫁を独り占めできてご満悦だ。
行く先には白い馬車が用意されてあり、これから王都を一周することになっている。馬車は花で飾られてあり、馬車を引く白馬も美しい。
「ディアルト様、お腹が空きました。ディアルト様は大丈夫ですか?」
馬車に乗り込むとリリアンナは空腹を覚えて真面目に聞き、思わずディアルトが笑い出す。
「朝食はとらなかったのか?」
「アリカに、『体型が崩れてはいけないので、食べ過ぎてはいけません』と言われました。結局口にできたのは、ほんの少しのお菓子ぐらいで……」
いつもガッツリ食べているリリアンナの胃袋なら、少しのお菓子は腹の足しにもならないのだろう。
「パレードが終わったら、お腹が楽になるドレスに着替えてガーデンパーティーに挑もう。アリカもそこでならいいと言うだろうし」
「はい」
グルル……と鳴く腹をさすり、リリアンナは馬車の周囲に並ぶ騎士団を見やる。
「何だか実感が湧きません」
「そうだね。俺もずっと君に求婚してきたのに、いざ当日となると感慨深すぎてこれが現実なのか夢なのか分からないよ」
「頬をつねって差し上げますか?」
「いや、遠慮しておくよ」
感動的な式を挙げた直後でも相変わらずなリリアンナに、ディアルトが苦笑する。
二人が馬車に乗り込んだあとに騎馬隊などのパレードの整列が終わり、馬車がゆっくりと動き出した。
「妃殿下は、やはり参列してくださいませんでしたね」
「まぁ、仕方ないんじゃないかな。病気療養という名目だし。王都に戻ったら戻ったで、また周囲に色々問い詰められるだろうし。逃げた形になるのだから、戻って来たら意味がないんじゃないか?」
「……殿下は今になっても、王妃殿下を悪く仰らないのですね」
「俺が叔母上にやり返す理由もないしね。彼女が俺を疎む理由があっても、俺は父代わりになってくれた叔父上の妻を、どうこうしたいと思わない」
ガーデンパーティーの準備がされている前庭を脇に進んでゆくと、王城の門の向こうは異様な熱気に包まれていた。
宮殿の敷地内からでも王都の熱気が伝わり、民が歓声を上げているのが分かる。
「……そのような、悪く言えば甘いディアルト様だからこそ、私はこれからもずっとお側でお守りしなければならないのです」
(だからこそ、私は大きな力を失っても殿下の……いえ、陛下のお側にいてもいいのだわ)
そう思い、リリアンナは清々しい笑みを浮かべた。
やがて門を抜けて王宮の敷地を出て、王都へとさしかかるとワァッと大気をビリビリとさせるほどの歓声が二人を包んだ。
「す……ごい」
その勢いにリリアンナは目を丸くし、隣でディアルトが笑みを深める。
「……ん?」
民衆に対して手を振っていたリリアンナだが、最前列に出ている者たちの中にチラホラとバラを一本持っている者を見かけた。
(あ……)
バラと言えば――。
ハッとして隣にいるディアルトを見ると、彼は悪戯成功というように白い歯を見せて笑った。
「民に協力してもらったんだよ。俺のバラ作戦の最後は、九九九本のバラ。さすがに俺一人では持ちきれないから、こうやって最後に、俺の愛する民に持ってもらうことにした」
(民に……)
「…………」
リリアンナに向けて捧げるように出されたバラを、彼女は半ば呆けた顔で見ていた。
「九九九本の意味は……?」
「『何度生まれ変わっても、あなたを愛する』」
(――殿下……っ)
ディアルトの言葉に、リリアンナは思わず涙を零しながら笑い出してしまった。
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