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第21話 水晶洞窟

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 水晶に囲まれた洞窟。
 まさにファンタジー世界、俺が求めていたダンジョンの世界だ。

 薄暗い洞窟でぼんやりと輝きを放つ水晶は、例えるなら水族館のクラゲコーナーみたいだ。

 試しに洞窟の壁に触れてみると、ひんやりと冷たい。それがあってか、洞窟内の温度も一層よりも涼しい。一層はもっとじめっとしていたからな。

「いいねえ、二層!! これでこそダンジョンだぜ!」

 俺は改めて探索者という活動に敬意を表していた。本当ありがとう、泣いちゃう。

 さてさてと周りを見回すと、ポツポツと他の探索者の姿も見える。
 皆やっぱりそれなりの格好をしていて、大体は2人以上のペアで行動している。あれがパーティってやつか。

 中には肩にユキが付けていたようなマジックアイテムを載せているような探索者もおり、配信っていうのが流行っているというのは本当のようだった。

 正直、俺はあまり配信というのに興味はない。テンリミとしてゲームをしていたときも、何度か配信してほしいとかしてくれという提案をもらったことがあるが、俺は悉く断っていた。

 そもそも配信するならゲームをしていたい。それに、見られてるってことは何らかの意見を常にもらい続けるということだ。めんどくせえアンチだの、狂信者だのが現れてストレスを感じたくないというのも大きい。

 俺は俺のやりたいゲームを、俺のやりたいように最速クリアするって訳だ。

「装備的に初心者も居ますっと!! いやあいいねえ、夏休みって感じ! はは、可愛いねえ~すぐ死んじゃいそうだけど!」
「?」

 少し離れたところで、茶髪のいかにもなチャラついた男がこちらをちらちらと見ながら、カメラに向かって1人で何かを大声で喋っている。

「つう訳で! 今日も行ってみま――しょうッ!! レッツゴー!」

 そうして男は1人でケラケラと笑いながら、洞窟の奥へと消えていった。

「なんだ、ありゃ?」

 バカにされたよな? 今。配信者か。
 何ともまあ感じの悪ぃ奴だったな。ぜってえトキシックだぜ、あいつ。

 とはいえ、俺は改めて自分の装備を見てみる。

「まあ……確かにこりゃあなあ」

 装備は完全初期装備だ。装備を揃えたとはいえ、店の店主もこれは初心者装備って言ってたし、見る人が見ればそうなんだろうな。そりゃぱっと見は完全に初心者か。

 と、そこまで考えたところで俺は大事な事実に気がつく。王と戦ったり、一層クリアしたり、昔からやってるゲームのようなもんだから慣れてると錯覚していたけど、そういや俺はまだ初心者だった。間違ったことは言われてねえ。

 イレギュラーなルートだが、ジョブも手に入れたことだし、他のスキルとも合わせて戦い方にあった装備にアップデートしたいところだな。モンスターのドロップアイテムから作れたりするだろうし、その辺りの情報が欲しいな。

 四層か……探索者のホームタウン。

「さて、あんなのは放っておいて、改めて今後の方針を考えるか」

 俺の最終目的は、ダンジョンの完全攻略。そして、デュラルハンをはじめとする王たちをぶっ飛ばすことだ。

 そのために必要なことは、レベル上げとスキル収集、そして実戦経験。

 レベルと実戦経験は攻略していけば自ずと上がってくだろう。スキルは意図して集めてかねえと、俺に最適なものを逃しちまうかもしれないな。

 どこかでスキル採集の会を開く必要があるか。何にしても情報だな。

 やっぱ、最速で四層を目指すのが良さそうだ。そこで一旦腰を据えて、探索者としての強化を図る。装備更新もきっとそこでできる。

「うっし……そうと決まれば、二層もさくっとクリアするぜ!!」

 新たな方針を立て、気持ちを新たにする。
 そうして、俺はダンジョンの二層へと足を踏み入れた。

◇ ◇ ◇

「ジジジジジジ」
「おらぁ!」

 大きく振りかぶり、クリスタルを身に纏ったヤドカリのようなモンスターを横一線吹き飛ばす。

 ヤドカリはゴルフボールのように吹き飛ぶと壁にバウンドし、光の泡となって消える。

「ふぅ~結構硬えな、こいつら。これ以上の硬度になったら魔法スキルを使うしかねえか」
 
 物理防御には魔法攻撃、これ鉄則。

 とはいえ、またジートみたいな奴が現れないとも限らない。使い所は慎重にいかないとな。

 そういや、ジートのやつはどうしたかな。まだ後続の初心者に絡んでるんだろうか。

 胡散臭いおっさんだったけど、結局スキルの使い方も教えてくれたし、悪い人ではなさそうだった。ただ、本当に何が目的か分からなすぎるのが謎だったけど。

「まあ、ああいうタイプは考えるだけ思う壺か」

 俺はブンブンと頭を振り、気を取り直す。

 慎重に進み、しばらく進んだところの角を曲がると。開けた場所に出る。
 するとそこには、さっきまで狩っていたクリスタルのヤドカリが大量に何かに群がっていた。

「な、なんだぁ? 餌場でもあるのか?」

 にしては、あまりに何もないところに集まっている。道の真ん中だ。
 水場ってわけでもなさそうだが……。

 目を細め、じっとその辺りを見てみる。
 すると、群がるヤドカリの間から白い脚がチラッと見える。

「あれ……人の脚……? まさか死――」

 瞬間、その群れの放つギギギという異音の中からうめきく少女の声が漏れ聞こえる。

「お、お助け……」

 クリスタルのヤドカリの隙間から、震えるように手が上がる。

「生きてた!? ちょっと待ってろ!」

 仕方ねえ、あの数のやどかりに斬撃は間に合わねえ。だったら、あれしかねえだろ!

 俺は右手を構える。

「ふっとべ!」

 俺は闇火球を二つ、少女に群がるヤドカリへ向かって放つ。

 それは見事にヤドカリへと命中し、囲んでいた大半のヤドカリを吹き飛ばす。
 すかさず<突撃>で一気に詰め寄り、残ったヤドカリを剣で処理する。

 あっという間にすべてを倒しきり、その場にはうつ伏せに倒れた少女だけが残された。

「おーい、大丈夫か?」

 俺は少女の背中をツンツンとつつく。

 いわゆる、地雷系ファッションをした金髪の少女。黒と青で統一された服装にスカート。髪はうなじの辺りでおさげのように結ばれている。

 すると、震える手でガシッと俺の足首が掴まれる。

 肌白いなあ、てか腕ほっそ……!

 そして、小鳥の鳴くような小さな声が聞こえる。

「お、お水……」
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