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第20話 老兵と新参

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 赤髪の男は苦い顔をしながら、余裕そうにヒゲを撫でるジートを睨む。

「ちっ……せこい真似しやがって、この爺……!!」
「怖い怖い。勝手に勘違いしていたくせに責任転嫁とは、最近の若者は怖いな~」
「くそっ!!」

 男はガンガンと思い切り体中に力を入れるが、縛り付いた黒い鎖はびくとも動かない。

 <呪封四柱《カースプリズン》>は相手の自由を奪う呪術師専用スキル。その拘束力は判明している全スキルの中でも最上位レベルのものだ。

 その効力を可能にしているのは、体の部位を捧げるというペナルティ。部位によって拘束時間は変わってくる。

「しかしなあ」

 ジートは首を傾げながらもがく赤髪の男に近づく。

「探索者同士の戦いで相手のジョブを確定もせずに飛び出すとは、レベルをカンストしてる割に戦いが下手くそだな、少年」
「てめえ……!」
「“神の尖兵”もこの程度か。所詮ジョブやスキルにかまけた連中の集まりかねえ。ならわざわざ私が降りてくるまでもなか――ッ!」

 瞬間、ジートは殺気を感じて後方へと飛び退く。

 すると、さっきまで立っていた場所に光の矢が二本突き刺さる。

「大分惨めな格好してるわね、ルカ。だから言ったでしょ先走るなって」
「おやまあ、新手かな?」

 入り口の方を見ると、そこには小柄な金髪の少女が立っていた。
 身にまとっているのは、白い軍服だ。もちろん、“神の尖兵”。

「キサラ……ッ! いいから解けこれ!」
「はあ……だからリーダーもあんたに私をつけたのよ。自分の立場と評価くらい自覚しておいてよね」

 いいながら、キサラは四柱に手をかざす。
 そして、スキルを発動すると輝かしい光がそれらを包み込む。

 すると、まるで雪が溶けるかのように四柱は崩壊し、男を縛っていた鎖はバラバラと解けていく。

「おっと、右腕が戻ってきたか」

 ジートは戻ってきた右腕の感触を確かめるように、ぶんぶんと軽くふってみる。
 そしてすぐさま弓を構えると、矢を生成して躊躇なく放つ。

 しかし、光の壁が出現し、それらの矢を弾き返す。

「……油断も隙も無いわね……」
「ん~結構結構。<ホーリーランス>に<聖なるバリア>、そして私の呪術を解呪するほどの聖属性スキル……“聖魔術師”か、相性悪いねえ」

 ジートは苦い顔をしながら肩をすくめる。

「……百手のジート。相手が悪すぎるわ」
「知り合いかよ?」

 手首を痛そうに擦りながらルカが聞く。
 その問いに、キサラは全力で呆れた顔を浮かべる。

「懐かしい呼び名だな、そりゃ。今はそんな大層なもんじゃない。鑑定師のジートおじさんで通ってる」
「ご冗談を。そうやって適当な事言いながら次の手を虎視眈々と考えているんでしょう」
「あらら、お見通しかいお嬢ちゃん」

 ジートは胸ポケットからそっと手を出すと、両手を上げる。

「仕切り直しよ。帰るわよ、ルカ」
「はあ!? 二人がかりなら行けるだろ!? お前の支援スキルがあればあの爺くらい――」
「うるさい。探索者舐めすぎ。帰ってリーダーに報告、方針を練り直すわ」

 そういって、うだうだ言うルカを引っ張りながらキサラは踵を返す。

「あらら、帰っちゃうの? そっちの少年の言う通り、聖魔術師がいれば呪術師の私なんてイチコロじゃない?」
「……ぶら下がっている餌に食いつくほど馬鹿じゃないですよ」
「あらら、賢いね」

 ジートは残念そうに口をとがらせる。

「――ではまた。次はあなたの居ない時に」
「それが賢い選択だ」

 そうして、“神の尖兵”たちは転移結晶を使用し、ジートの眼の前から消えていった。

◇ ◇ ◇

「うおおおおお! 二層だあああああ!!」

 黒い渦に飲み込まれ、ぐるぐると目の前が回転したかと思えば、気がつくと目の前には今までとは違う景色が広がっていた。

 一層と同じく洞窟ではあるのだが、その様相は大分異なっていた。

 一層の洞窟を普通の洞窟と表現するならば、二層の洞窟はまさに幻想的な洞窟だ。

 壁は青味がかった水晶で、地面もまるで氷のように水晶が広がっている。
 全体がほんのり光っており、洞窟だが明るさを感じる。

「これが、二層……水晶洞窟!」
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