神戸モンキーの国、蒸気の記憶
バブル崩壊後の神戸。就職氷河期の果てに僕が辿り着いたのは、三宮にそびえ立つ巨大なサウナ施設だった。華やかな「サウナ&スパ」の看板の裏側に広がっていたのは、セクハラと不正が蔓延する、剥き出しの欲望に支配された「モンキーの国」。若き日の僕は、猿のように振る舞う上司や壊れていく同僚たちの中で、自らもまたその環境に呑み込まれ、自分を見失いかけていた。
そんな泥濘のような日々の中で出会った、二期生の「あなた」。恋人ではなかった。けれど、共に焼きそばを食べたあの休憩室の静けさや、あなたの屈託のない笑顔だけが、あの地獄で唯一の清らかな光だった。二十年という歳月が経ち、当時の激しい怒りも、あの異常な王国の崩壊も、今では遠い霧の向こうにある。それでも、あの日二人で歩いた三宮の夜の空気や、あなたの震える告白だけが、今も胸の奥で熱を帯びている。これは、一人の男が「忘却」に抗い、もう会えない「あなた」の幸せを遠く願う、最も孤独で美しいサウナ物語。
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