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三十三話
しおりを挟むシルビアンヌはその後、魔法が使えなくなった。おそらくは、魔力をすべて水晶へと流し込んだことが原因だろう。
王国側は、シルビアンヌがセインを止めた事を評価し、善き魔女としてシルビアンヌを認めると共に、魔力を失った事から、監視は付くものの、その身はこれまで通り自由なものとなった。
セインは今、東の離宮にて隔離されており、今後は北の最果ての塔へと幽閉されると言う。
シルビアンヌはその後アリーとの婚約がすぐに認められ、二人は正式な婚約者となった。
そしてシルビアンヌはラルフに頼むと、アリーと共にセインへと面会するために離宮へと足を踏み入れていた。
離宮にはかなりの数の警備がいるものの、その内装は王族専用のものであるから質素ではあったがきれいに整えられていた。
セインは、シルビアンヌが来た事に苦笑を浮かべた。
「まさか、本当に会いに来るとは思わなかった。」
その言葉に、シルビアンヌは肩をすくめると、両手両足に鎖の繋がれるその様子に小さな声で言った。
「・・・痛くはない?」
「ないよ。・・・それに、一時間ごとにそこにいるライルが、外しては怪我をしないように軟膏を塗ってくれるから・・大丈夫。」
シルビアンヌはライルという名を聞き、目を見開くと部屋の隅に控えている騎士を食い入るように見つめた。
あれは、番外編の小説で出てくるライル!?それに、向こうにいるのは、ダレス!?あぁ、そして庭で手入れをしているのはユースタフじゃない!?
番外編の小説にてセインを大切にする三人の男性がすでにその場にそろっているという事に、シルビアンヌは内心ドキドキと心臓が高鳴っていた。
「・・よう・・ございました。その。セイン様・・・自身の近くに、目を向ける事は出来ましたか?」
その言葉にセインは苦笑を浮かべると、ライル、ダレス、ユースタフに視線を向けて柔らかく微笑んで頷いた。
「あぁ・・・本当に。全てを失ったと思っていたのに、私の手には、もったいない者達が残ってくれた。今まで気づかなかったのが不思議なくらいだ。」
その言葉にシルビアンヌはぽっと顔を赤らめると、ちらちらとライル、ダレス、ユースタフを目に焼き付けていたのだが、途中でアリーに腕を引かれ、その腕の中にすっぽりと収められてしまう。
「ふへ?」
背中にアリーの温かな体温を感じ、おずおずと見上げるとアリーはとても良い笑みを浮かべていた。
「僕がいるのに、よからぬ妄想は止めて下さいね?」
「・・・・はい。」
セインはその様子に笑った。
張り付けていた笑みではないその自然な笑みに、シルビアンヌはほっと胸をなでおろした。
よかった。セインはもう一人ではないのだ。
その後、シルビアンヌはセインと他愛ない会話をした後に、別れを告げた。
おそらく、もう会えることはないだろう。
「シルビアンヌ嬢。」
「何かしら?」
セインは最後の別れの時、頭を深々と下げた。
「申し訳なかった。」
その言葉に、シルビアンヌは首を横に振った。
「いいえ。・・・きっと、私がもっと早くに貴方と友人になっていれば・・・こんなことにはならなかった。こちらこそ、ごめんなさい。」
セインは謝るシルビアンヌに顔を上げて驚いた表情を浮かべると、胸を押さえて苦しげに言った。
「いや、君のおかげで・・・幼い頃の私は救われた。あの時の君の笑顔が、私の支えだった。」
手を伸ばしたくても、もう伸ばすことは叶わない。
セインは拳をぎゅっと握り、そしてシルビアンヌと別れた。
帰りの馬車の中、シルビアンヌはアリーの肩に頭をもたげながら、ぼうっと外を眺めていた。
「・・シルビアンヌ様?」
「なぁに?アリー?」
「僕が傍にいます。だから、我慢なんて、しなくていいんですよ。」
「ふふ。本当にアリーは・・・私に甘いわね。」
シルビアンヌは顔を伏せて、アリーの肩に顔をこすり付けた。
「少しだけ・・・少しだけ。」
そう小さく呟くと、アリーの暖かさを感じながら、シルビアンヌは涙を流したのだった。
セインの起こした事件はシルビアンヌのせいではないのに、心を痛めるシルビアンヌを、アリーはぎゅっと抱きしめたのであった。
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