逢坂の月、尾花のしらべ
音は、耳だけで聴くものだろうか。
平安の世。楽の名手・源博雅は、失われかけた琵琶の秘曲を求め、逢坂に住む盲目の奏者・蝉丸の庵へ通っていた。そこで出会ったのは、幼い日に聴力を失った少女・阿古。亡き母の声が記憶から薄れていく彼女に、博雅の笛は届かない。
二度叩く敷居、風に揺れる尾花。小さな合図を交わす日々が、音を伝えることの意味を変えていく。
そして三年目の月夜。待ち望んだ秘曲が響くとき、少女との約束が博雅の心を揺らす。
焼け跡にも芽吹く薄のように、喪失の先で育つ絆を描く。
『今昔物語集』の説話と、ススキの花言葉「心が通じる」「生命力」を織り込んだ、静かで温かな歴史短編。
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