冷宮の人形姫

りーさん

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第一章 虐げられた姫

第4話 勘違い

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 皇女が立ち去ったのを確認し、執務室に移った。今この部屋には、カイラードとセリアとハリナしかいない。

「第四皇女の様子はどうだ?」

 彼女達は侍女であると同時に、カイラードの手足でもあった。皇女が問題を起こしたら報告するように言ってある。

「何もありません。フィレンティア皇女殿下は、何もなさりませんから」

 ハリナの言葉に、カイラードは疑問を持った。

「何もしないとはどういう意味だ?」
「言葉の通りでございます。フィレンティア皇女殿下は、お目覚めになったら、ベッドにお掛けになったまま、私共が指示するまで動きませんでしたから」

 侍女が指示するまで動かない?そんなことがあるのだろうか。
 彼女は、あの第四皇妃の娘だ。第四皇妃は言動に問題があり、子供と共に離宮に追放した。生活できないと泣きつかれても困るので、少数の使用人はつけるのを許可したが、皇妃は名ばかりとなったようなものだ。
 そんな母親の娘だから、手もつけられないような我が儘な娘だと思っていた。だから、引き取りたいとは思っていなかった。だが、使用人がいるとはいえ、まだ幼子である皇女だけでは危険だと考え、引き取っただけだ。
 いわば、同情のようなものである。カイラードは、冷酷と言われているが、幼子を一人で生活させようとするほどではなかった。

「それに、皇女殿下は何もお話になりませんし、感情を表に一切出さないんです」
「ええ、第六皇子殿下に突き飛ばされたときも、痛がることも泣くこともなされませんでしたし」

 ハリナの言葉に続けるように、セリアがそう言った。
 カイラードは、皇女の様子を思い浮かべる。
 言われてみれば、皇女は、初めて会ったときから、今まで、一度も話していない。早く歩いて距離が離れたときも、私が質問したときも、何も言わなかった。
 彼女の顔を思い浮かべてみても、表情が全く変わらない。目線を少し下に向けて、目に光が無いように見えた。
 出会ったときも妙ではあった。周りに使用人がおらず、服もみすぼらしく見えた。人並みに暮らせるように、金を送っていたはずなのに、なぜあんな格好をしているのだろうか。

 その疑問は、次の言葉で解消された。

「それと、お着替えを手伝ったときに気づいたのですが、フィレンティア皇女殿下のお体には、古傷が無数についておりました」
「何っ!?」
「確認できただけでも、痣、切り傷、刺し傷、みみず腫れはありました。それが、顔や手足の先など、常に外にさらされるような場所以外を覆いつくすほどに」

 それぞれが何を意味するか分からないほど、愚かではない。痣は殴打、切り傷と刺し傷は刃物、みみず腫れは鞭打ちだ。
 彼女は、虐待を受けていた。今思えば、あの第四皇妃が、自分の子だからと言って、手を出さないはずがなかった。
 皇妃は、他人が苦しむのを見るのを生きがいとするような女だった。少し叱責が行きすぎるくらいならまだ目を瞑れたが、一方的な暴力行為を行うようにもなったため、さすがに放置はしておけず、今となっては冷宮と呼ばれる離宮に追放する羽目になったのだ。
 そこで、カイラードは疑問に思う。
 だが、虐待を受けていたのに、助けは求めなかったのはなぜなんだろうか。
 その後、すぐに答えは浮かんだ。
 もしやとは思うが、使用人もグルなのか?ならば、彼女と出会ったとき、彼女が一人だったのも、みすぼらしい格好だったのも納得がいく。

「分かった。引き続き、皇女の世話をするように」
「「かしこまりました」」

 声を揃えて返事をして、執務室を出ていった。入れ替わるように、側近が入ってくる。

「第四皇女について何かありましたか?」
「レクト、女の皇宮医を第四皇女の元に向かわせるように手配しろ」
「……何かご病気でも?」
「第四皇女は虐待を受けていたらしい。だから、体を診せねばならんだろう。精神的な面もな」

 そう言うと、多少驚きはしたものの、あの皇妃ならやりかねないと思ったのか、すぐに冷静さを取り戻した。

「そんなにひどいんですか?」
「侍女が見つけただけでも、痣、切り傷、刺し傷、みみず腫れはあったそうだ」
「5歳の子供にそこまでしたんですか、あの悪女は……!」
「あの皇妃ならやりかねん。お前も分かっているだろう」

 そう言うと、苦虫を噛み潰したような顔をする。

「レクト。ここからは臣下ではなく、一人の友として聞いて欲しい」
「……何だ?カイル」

 レクトは、側近である前に、私の乳兄弟だ。幼い頃から共に育ったので、私的な相談は彼に聞いて貰っている。

「なぜ、第四皇女は助けを求めなかったと思う?」

 虐待を受けていると知っていれば、保護をした。なのに、彼女はあの冷宮の外には出てこなかった。

 レクトは、ため息をついて、「決まってるだろ」と言った。

「味方なんていないと思ってたんだろうさ。母親は虐待、使用人はおそらくだけど見て見ぬふり、父親は一度も自分に会いに来ない。そんなので、助けを求められるわけないだろ」

 そう言われて、納得してしまう自分がいた。
 皇妃に誤解されるのも嫌だから、会いに行ってなかったのが裏目に出たのか。

「お前は冷宮まで見に行ったんだろう?どうだった?」
「もう廃墟みたいだったよ。中に入った奴の話だと、装飾品は一切なくなっていたらしいから、カイルが送っていた金も皇女殿下には使われていなかったんだろうな」
「そうか……」

 私は本当の馬鹿者だ。自分の偏見で子供を放置した結果が、彼女をあのようにしてしまった。だから、私には慰める資格も、ルメリナの行いに怒る資格もない。

「……皇宮医を送るのと、第四皇女以外の皇子と皇女を全員呼ぶように」
「かしこまりました、陛下」
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