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第二章
検証 1
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「本日、お休みになられるのですか!?」
普段であれば、主の言葉を聞き返す事など無いロイドが、二度、リュカに確認をした。
「本当に、休まれると……」
これで三度目。
苦笑しながら、リュカは『そうだ』と答えた。
「間違いない。今日は体調が優れないので休むと、近衛騎士団に使いをやってくれ」
「はっ、かしこまりました。すぐに医師の手配も致します」
「それはいい」
「しかし、お身体の具合が悪いのでは……」
「大丈夫だ、仮病だからな」
「リュカ様……私には、リュカ様がそのような事を仰る事がもう、ご病気ではないのかと思われるのですが」
久しぶりにロイドから『旦那様』ではなく『リュカ様』と呼ばれ、子供の時に戻ったような気分になってしまう。
「たまにはいいだろう、いつも真面目に勤めているのだから。ちょっとやりたい事があるんだ。明日は元々休みだし、ちょうどいい」
「これがエヴァン様のお言葉であれば、全く驚かないのですが……かしこまりました、すぐに手配致します」
じいやからすぐに執事に気持ちを戻し、ロイドは下がって行った。
確かに、リュカが休むなんて事は珍しい。
多少の体調不良ではもちろん休まないし、妻が亡くなった時でさえ、葬儀が終わるとすぐ登城し、団長に『命令だ、しばらく子供についていてやれ。』と帰されたほどだ。しかし……、
「これは、休むしかないだろう」
リュカは、ソファーの上に置かれたガウンに、尻尾をパシッ、パシッと叩きつけて座っている黒猫を見てため息をついた。
昨日、人間の姿になった黒猫は、朝起きると猫に戻っていた。
ずっと起きて見張っていようと思っていたリュカだったが、いつの間にか眠ってしまい、猫に戻るところは確認できなかった。
『本人の言う事を信じるならば、昨日初めて人間の姿になったと言う。とすれば、今後、いつ変わるかわからないわけだ』
リュカが起きた時はまだ寝ていたリリーだが、今は不機嫌そうに尻尾をバシバシ動かしている。
「おい」
側に行き、声をかける。
しかしリリーは聞いているのか聞いていないのか、反応が無い。
「猫の姿でもこちらの言う事は理解しているのだろう?」
尻尾を打ち付ける音が大きくなったので、解かっているのだろうが、返事をする気は無いらしい。
「……リリー」
名前を呼ぶと、ピタッと尻尾の動きが止まった。
しかし、返事は無い。
リュカはため息をつき、『しかたがない』と覚悟を決めた。
「……リリたん……」
「ニャー」
呼び方を変えた途端、あっさりと返事をするリリー。
『やはり』と思いながらリュカはソファーに腰かけ、そっと頭を撫でた。
「今日は、休みをとったから」
「ニャッ?」
驚いたように、リリーがリュカを見上げる。
「いつ人間の姿になるか解からないのだろう? 事情を知っている者が側にいないと」
「ニャニャニャニャニャ!」
なにか必死に訴えてくるが、何を言っているかさっぱり解からない。
「大丈夫だと言いたいのか?」
「ニャッ!」
「大丈夫じゃないだろう。もし人前で人間の姿になったら、大騒ぎだ。脅かすつもりはないが、魔物として殺される可能性だってある。充分用心しなくては」
「ニャァ……」
しょんぼりと項垂れるリリーの頭を撫でながら、リュカは言った。
「とにかく今日は、私の近くにいるように。ああ、そうだ、これはノミ避けのリボンだろう。ちょっと不恰好だが、この結び方なら人間になっても首が絞まらないから」
片方の端に小さな輪をつくり、反対側の端をその輪の中に入れて首に巻いてやった。
昨晩、人間の姿になったリリーは、『ノミが来る~、ノミが来る~』とうなされていた。リボンを巻いていない状態は、不安なのだろう。
「よし、これでいいだろう。さて、いつも何をしているんだ?」
「ニャー」
ソファーから飛び降り、リリーは扉を前足で掻くように触った。
「どこに行きたいんだ?」
開けてやると、トコトコ廊下に出て行き、リュカはその後ろをついて行った。
普段であれば、主の言葉を聞き返す事など無いロイドが、二度、リュカに確認をした。
「本当に、休まれると……」
これで三度目。
苦笑しながら、リュカは『そうだ』と答えた。
「間違いない。今日は体調が優れないので休むと、近衛騎士団に使いをやってくれ」
「はっ、かしこまりました。すぐに医師の手配も致します」
「それはいい」
「しかし、お身体の具合が悪いのでは……」
「大丈夫だ、仮病だからな」
「リュカ様……私には、リュカ様がそのような事を仰る事がもう、ご病気ではないのかと思われるのですが」
久しぶりにロイドから『旦那様』ではなく『リュカ様』と呼ばれ、子供の時に戻ったような気分になってしまう。
「たまにはいいだろう、いつも真面目に勤めているのだから。ちょっとやりたい事があるんだ。明日は元々休みだし、ちょうどいい」
「これがエヴァン様のお言葉であれば、全く驚かないのですが……かしこまりました、すぐに手配致します」
じいやからすぐに執事に気持ちを戻し、ロイドは下がって行った。
確かに、リュカが休むなんて事は珍しい。
多少の体調不良ではもちろん休まないし、妻が亡くなった時でさえ、葬儀が終わるとすぐ登城し、団長に『命令だ、しばらく子供についていてやれ。』と帰されたほどだ。しかし……、
「これは、休むしかないだろう」
リュカは、ソファーの上に置かれたガウンに、尻尾をパシッ、パシッと叩きつけて座っている黒猫を見てため息をついた。
昨日、人間の姿になった黒猫は、朝起きると猫に戻っていた。
ずっと起きて見張っていようと思っていたリュカだったが、いつの間にか眠ってしまい、猫に戻るところは確認できなかった。
『本人の言う事を信じるならば、昨日初めて人間の姿になったと言う。とすれば、今後、いつ変わるかわからないわけだ』
リュカが起きた時はまだ寝ていたリリーだが、今は不機嫌そうに尻尾をバシバシ動かしている。
「おい」
側に行き、声をかける。
しかしリリーは聞いているのか聞いていないのか、反応が無い。
「猫の姿でもこちらの言う事は理解しているのだろう?」
尻尾を打ち付ける音が大きくなったので、解かっているのだろうが、返事をする気は無いらしい。
「……リリー」
名前を呼ぶと、ピタッと尻尾の動きが止まった。
しかし、返事は無い。
リュカはため息をつき、『しかたがない』と覚悟を決めた。
「……リリたん……」
「ニャー」
呼び方を変えた途端、あっさりと返事をするリリー。
『やはり』と思いながらリュカはソファーに腰かけ、そっと頭を撫でた。
「今日は、休みをとったから」
「ニャッ?」
驚いたように、リリーがリュカを見上げる。
「いつ人間の姿になるか解からないのだろう? 事情を知っている者が側にいないと」
「ニャニャニャニャニャ!」
なにか必死に訴えてくるが、何を言っているかさっぱり解からない。
「大丈夫だと言いたいのか?」
「ニャッ!」
「大丈夫じゃないだろう。もし人前で人間の姿になったら、大騒ぎだ。脅かすつもりはないが、魔物として殺される可能性だってある。充分用心しなくては」
「ニャァ……」
しょんぼりと項垂れるリリーの頭を撫でながら、リュカは言った。
「とにかく今日は、私の近くにいるように。ああ、そうだ、これはノミ避けのリボンだろう。ちょっと不恰好だが、この結び方なら人間になっても首が絞まらないから」
片方の端に小さな輪をつくり、反対側の端をその輪の中に入れて首に巻いてやった。
昨晩、人間の姿になったリリーは、『ノミが来る~、ノミが来る~』とうなされていた。リボンを巻いていない状態は、不安なのだろう。
「よし、これでいいだろう。さて、いつも何をしているんだ?」
「ニャー」
ソファーから飛び降り、リリーは扉を前足で掻くように触った。
「どこに行きたいんだ?」
開けてやると、トコトコ廊下に出て行き、リュカはその後ろをついて行った。
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