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ノレステ村
23.ノレステ村へ向かう(5月12日)
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驚愕の事実を受け入れた俺達は、その後に続くリベカの惚気話から逃げるように連絡所を後にした。
別に惚気話が悪いわけではないし、リベカとブラーボの関係が秘密だったわけでもない。むしろ夫婦でこの街の防衛を担っているという点において、街の人々からの評判は上々らしい。
だが、“普段は顰めっ面なのに家に帰ると目尻が下がるのぉ”なんて情報は、少なくとも俺達には必要ないのである。
もちろん今回の依頼内容と成功報酬が記された羊皮紙を受け取るのは忘れてはいないし、ついでにこの地域の詳細な地図も借りてきた。
そういえば、リベカがカリナの母親であるデボラから受け取っていた紹介状には、カリナの将来の事も書かれていたらしい。
俺の出立に便乗してカリナも村を出奔することを、デボラはとうに予想していたのだ。
昨夜カリナは“結局母さんの手の平の上にいる気がする”と嘆いていたが、こうなる事もデボラの思惑どおりだったという事か。
「たまんないわねえ……」
天井を仰ぎ見たカリナの想いは、いったいどのようなものだろう。
「でもまあ、これで私の事は一件落着よね。大手を振ってアルカンダラに行けるってもんよ。まずはノレステ村の様子を見に行って、当面の活動資金を稼ぐのが目標よ!」
気持ちの切り替えが早い女性は、実に頼もしく素敵なのである。
◇◇◇
衛兵と狩人が慌ただしく動き回る街の門を抜け、街道に出る。
エルレエラからは南北に街道が伸びている。
南に向かえばスー村、北に向かえば低い山地を突っ切ってアステドーラへと至るらしい。
俺達が向かうのはエルレエラから北東方向に位置するノレステ村だから、まずは北に向かい、山地に入る手前で東に向かえばいい。
俺には読めないが、連絡所から借りてきた地図にはざっくりとした道順と目標物が記されているようだ。道案内はカリナに任せておけば問題ないだろう。
それにしても、この世界の文字が読み書きできないのは恐ろしく不便だ。なまじ言葉が通じているからこそ、そのうち足元を掬われることになるかもしれない。事情を知っているカリナと行動を共にしている間に、読み書きは教えてもらう事にしよう。
街を振り返ると、まさに門が閉ざされ臨戦態勢が整いつつある瞬間だった。
街道を行く人もおらず、急に疎外感を覚える。
だがそんな俺の心情を他所に、カリナは実にのびのびと俺の左隣を歩いている。
彼女は弓と矢筒を背負い腰には剣を帯びてはいるが、その足取りはピクニックにでも向かうようだ。アルカンダラの魔物狩人養成所への入所をいかに母親に切り出すか、その悩ましい問題が霧散してしまったのだから足取りも軽くなるというものか。
街道沿いの草地には色とりどりの野の花が咲き乱れ、小川のせせらぎと鳥達の囀りが耳を癒す。
今から向かう先には地獄絵図が待っているかもしれない。だからこそ、せめて今日ぐらいは穏やかな日であって欲しい。そう願う。
◇◇◇
エルレエラを出たのは中天よりも少し前だった。
リベカの話では、目的地のノレステ村までは徒歩で半日。
現代日本でなら、正確には“不動産の表示に関する公正競争規約施行規則”に則れば、1時間の歩行距離はおよそ5km弱。舗装されていないこの世界の道でも、健脚ならば同じぐらいの速度は出せるだろう。
その速度で半日歩くとすれば、ノレステ村までの距離は15kmほどと想定できる。“半日”が24時間単位を基準にしていればその倍ということになるが、とすると“馬車で2時間”という表現と齟齬が出る。ここは3~4時間で着くものだと考えたほうがいいだろう。
現時点では実に平和な道のりである。
だがどこに魔物が潜んでいるやもしれない。四方八方にレーダーとスキャンを張り巡らせながらの道中は、それなりに疲れるものだ。
◇◇◇
「カズヤは疲れてない?」
突然カリナが体をぶつけるようにして聞いてきた。歩き始めて1時間ぐらいは経っただろうか。
「いや。大丈夫だが、カリナは疲れてきたか?」
「全然平気。カズヤったらなんか緊張してるみたいだから、もしかして女の子と2人で出かけるの初めてなのかなって思ったり!」
失礼なことを言うやつだ。こんな俺でも若い頃はデートの1度や2度は経験している。最近は縁遠い話になってはいたが、それはもう年齢的なものだ。
俺は憮然とした表情を浮かべていたのだろう。カリナは軽く笑うと、腰に下げたポーチから何かを摘み出して俺の口元に突き出した。
「食べる?エルレエラで買っておいた!」
薄い茶色の物体からはドライフルーツ特有の芳醇な香りが立ち上る。
カリナが俺の口の中に、その物体を放り込んだ。
これは……干したイチジクか。
「他のもあるよ。こっちは干し葡萄、炒ったアーモンドとクルミ。干し肉も持ってきてるけど、あんまり食べると顎が疲れちゃうから気をつけないとね!」
食欲が旺盛なのはいいことだ。さっきから体をぶつけられる度に当たってくる一部も、そうやって成長したのだろう。
それはさておき、生野菜を食べる習慣がないこの世界においてはドライフルーツは貴重なビタミン源のようだ。ありがたく戴いておこう。
◇◇◇
そんなこんなで行程の2/3ほどを過ぎ、あと1時間も歩けば件のノレステ村に辿り着くという場所で異変は起きた。
四方八方に放射していたレーダーが、魔力の反応を検知したのである。
「カリナ。前方4kmに魔力の反応がある。小さな反応が4つだ」
思わず距離の単位を口にしてしまったが、カリナは訝しげな顔もせずに返事を返した。
「まだだいぶ遠いね。小さな反応ってのは、探知魔法の反応が弱いってこと?」
「ああ。感覚的には小鬼か大鬼のようだが、今まで接敵した群れの規模に比べると少ないな。奴らは単独行動するのか?」
「大鬼ならあり得るかな。小鬼は必ず小さな群れで移動するよ。群れからはぐれた小鬼なんて、他の魔物からしたら餌でしかないからね」
餌か。
ゴブリンを喰らう魔物からすれば、人間のほうがもっと旨そうな餌に見えるのだろうな。
それよりもだ。大事な事をスルーしかけている。
度量衡の概念だ。これを合わせておかないと今後絶対に苦労する。
「カリナ。ちょっと質問だが、これぐらいの長さを何と表現する?」
俺は両手を胸の前で広げて、ちょうど1mぐらいの幅を示した。
「え?なになに?」
今度こそ訝しげな顔を見せるカリナだが、それでも自分の肩と腕を使って何やら長さを測ってくれた。
「えっと、だいたい1メートルぐらいかな?」
俺の耳には確かに“いちめーとる”という音が聞こえている。だがカリナの口元を見ると、そうは発音していない。もっと短い濁音と撥音が混じったような……バッルとかバールに近い音を発しているようだ。
つまりだ。カリナが表現している長さの単位が俺の耳で音として認識される前に、なんらかの作用で俺が理解できる単位に変換されているという事だ。これもいわゆる異世界物のご都合主義というやつか。
そのバッルという単位が何を意味しているのか、メートルとの関係性も気になるところだが、それはいつか暇な時に考察しよう。
「じゃあ、あの茂みまでの距離はどれぐらいかわかるか?」
俺は前方の灌木を指差す。ちょうどウサギやきじキジが潜んでいそうな、草原に生える低木の茂みだ。
「もう!何なのよ。100メートルぐらいじゃない?全力で走れば10秒ってところね」
俺の目測でも100m弱だ。
100mを10秒で走り抜けると言い切ったカリナの脚力も驚くべきところだが、少なくとも長さの概念はそのまま通じるようだ。
今後この世界でどれだけの時間を過ごし、どんな体験をするのか定かではないが、とりあえず度量衡の概念に齟齬が出ないのは助かる。
「そうか。俺なら15秒はかかるだろうな」
「へへん。駆けっこしてみる?足の速さにはちょっと自信があるんだぞ」
カリナが胸を張る。走るにはその胸は邪魔だろうに。そんな言葉をのみこむ。そういう爆弾発言は間違っても口に出してはならないのだ。
一瞬迷って口にした言葉は、もっと別のものだった。
「そうか。今後は方角や距離で話す事が増えると思う。意味がわからなかったら、その都度言ってくれ」
「了解!んで、魔物の反応はどう?」
「距離は縮まっていない。俺達の向かう方向と同じ向きに、少しずつ進んでいるようだな」
「そっか。まあマンティコレが本当に出たんなら、小物は近寄ってはこないと思うけど」
「そのマンティコレってのはそんなに強力な魔物なのか?魔物界最強!みたいな?」
「う~ん。最強ってわけじゃないと思う。他にも強い魔物はいるよ。矢も剣も効かないトローとか、地中に潜むグサーノ、海に棲むティボラーン、あとは何といってもDragón antiguo!これが出てきたら人間界の終わりだって言われてるよ」
ドラゴと言ったか。ドラゴという名詞に何かの形容詞が付いている。アンティークォ?
「そのドラゴってのはどんな魔物なんだ?」
「火を吐く大きなトカゲだよ。“その巨体は城よりも大きく、吐き出す炎は岩をも溶かす。その尻尾の一撃は山をも砕く”ってね。まあ実際見たことがある人はいないみたいだけど」
その表現だけを聞けばヨーロッパの伝説に出てくるサラマンドルのようだが、きっと巨大な火龍のことなのだろう。
そうか。ドラゴンがいるのか。
もしドラゴンに出くわしたら、いったい俺に何ができるだろう。少なくとも手持ちのBB弾ごときで歯が立つ相手ではなさそうだ。
少し小高くなった丘を見つけ、その頂上からノレステ村があるであろう方角を確認する。
件の村らしき集落が、確かに前方にあった。
距離はおよそ1kmほどか。
念入りにレーダーを放つが、魔力の反応はない。先ほどレーダーに映る小さな反応は、いつのまにか消えていた。
「あれがノレステ村かな?なんか静まりかえっている気がするけど」
「地図には他に集落や集落跡の記載はないな?」
「ないね。じゃあ、やっぱりあれがノレステ村か」
「そうだろうな。魔物が潜んでいる気配はなさそうだ。行ってみよう」
「了解!そうと決まれば急ぐよ!」
そう言ってカリナが走り出した。
別に惚気話が悪いわけではないし、リベカとブラーボの関係が秘密だったわけでもない。むしろ夫婦でこの街の防衛を担っているという点において、街の人々からの評判は上々らしい。
だが、“普段は顰めっ面なのに家に帰ると目尻が下がるのぉ”なんて情報は、少なくとも俺達には必要ないのである。
もちろん今回の依頼内容と成功報酬が記された羊皮紙を受け取るのは忘れてはいないし、ついでにこの地域の詳細な地図も借りてきた。
そういえば、リベカがカリナの母親であるデボラから受け取っていた紹介状には、カリナの将来の事も書かれていたらしい。
俺の出立に便乗してカリナも村を出奔することを、デボラはとうに予想していたのだ。
昨夜カリナは“結局母さんの手の平の上にいる気がする”と嘆いていたが、こうなる事もデボラの思惑どおりだったという事か。
「たまんないわねえ……」
天井を仰ぎ見たカリナの想いは、いったいどのようなものだろう。
「でもまあ、これで私の事は一件落着よね。大手を振ってアルカンダラに行けるってもんよ。まずはノレステ村の様子を見に行って、当面の活動資金を稼ぐのが目標よ!」
気持ちの切り替えが早い女性は、実に頼もしく素敵なのである。
◇◇◇
衛兵と狩人が慌ただしく動き回る街の門を抜け、街道に出る。
エルレエラからは南北に街道が伸びている。
南に向かえばスー村、北に向かえば低い山地を突っ切ってアステドーラへと至るらしい。
俺達が向かうのはエルレエラから北東方向に位置するノレステ村だから、まずは北に向かい、山地に入る手前で東に向かえばいい。
俺には読めないが、連絡所から借りてきた地図にはざっくりとした道順と目標物が記されているようだ。道案内はカリナに任せておけば問題ないだろう。
それにしても、この世界の文字が読み書きできないのは恐ろしく不便だ。なまじ言葉が通じているからこそ、そのうち足元を掬われることになるかもしれない。事情を知っているカリナと行動を共にしている間に、読み書きは教えてもらう事にしよう。
街を振り返ると、まさに門が閉ざされ臨戦態勢が整いつつある瞬間だった。
街道を行く人もおらず、急に疎外感を覚える。
だがそんな俺の心情を他所に、カリナは実にのびのびと俺の左隣を歩いている。
彼女は弓と矢筒を背負い腰には剣を帯びてはいるが、その足取りはピクニックにでも向かうようだ。アルカンダラの魔物狩人養成所への入所をいかに母親に切り出すか、その悩ましい問題が霧散してしまったのだから足取りも軽くなるというものか。
街道沿いの草地には色とりどりの野の花が咲き乱れ、小川のせせらぎと鳥達の囀りが耳を癒す。
今から向かう先には地獄絵図が待っているかもしれない。だからこそ、せめて今日ぐらいは穏やかな日であって欲しい。そう願う。
◇◇◇
エルレエラを出たのは中天よりも少し前だった。
リベカの話では、目的地のノレステ村までは徒歩で半日。
現代日本でなら、正確には“不動産の表示に関する公正競争規約施行規則”に則れば、1時間の歩行距離はおよそ5km弱。舗装されていないこの世界の道でも、健脚ならば同じぐらいの速度は出せるだろう。
その速度で半日歩くとすれば、ノレステ村までの距離は15kmほどと想定できる。“半日”が24時間単位を基準にしていればその倍ということになるが、とすると“馬車で2時間”という表現と齟齬が出る。ここは3~4時間で着くものだと考えたほうがいいだろう。
現時点では実に平和な道のりである。
だがどこに魔物が潜んでいるやもしれない。四方八方にレーダーとスキャンを張り巡らせながらの道中は、それなりに疲れるものだ。
◇◇◇
「カズヤは疲れてない?」
突然カリナが体をぶつけるようにして聞いてきた。歩き始めて1時間ぐらいは経っただろうか。
「いや。大丈夫だが、カリナは疲れてきたか?」
「全然平気。カズヤったらなんか緊張してるみたいだから、もしかして女の子と2人で出かけるの初めてなのかなって思ったり!」
失礼なことを言うやつだ。こんな俺でも若い頃はデートの1度や2度は経験している。最近は縁遠い話になってはいたが、それはもう年齢的なものだ。
俺は憮然とした表情を浮かべていたのだろう。カリナは軽く笑うと、腰に下げたポーチから何かを摘み出して俺の口元に突き出した。
「食べる?エルレエラで買っておいた!」
薄い茶色の物体からはドライフルーツ特有の芳醇な香りが立ち上る。
カリナが俺の口の中に、その物体を放り込んだ。
これは……干したイチジクか。
「他のもあるよ。こっちは干し葡萄、炒ったアーモンドとクルミ。干し肉も持ってきてるけど、あんまり食べると顎が疲れちゃうから気をつけないとね!」
食欲が旺盛なのはいいことだ。さっきから体をぶつけられる度に当たってくる一部も、そうやって成長したのだろう。
それはさておき、生野菜を食べる習慣がないこの世界においてはドライフルーツは貴重なビタミン源のようだ。ありがたく戴いておこう。
◇◇◇
そんなこんなで行程の2/3ほどを過ぎ、あと1時間も歩けば件のノレステ村に辿り着くという場所で異変は起きた。
四方八方に放射していたレーダーが、魔力の反応を検知したのである。
「カリナ。前方4kmに魔力の反応がある。小さな反応が4つだ」
思わず距離の単位を口にしてしまったが、カリナは訝しげな顔もせずに返事を返した。
「まだだいぶ遠いね。小さな反応ってのは、探知魔法の反応が弱いってこと?」
「ああ。感覚的には小鬼か大鬼のようだが、今まで接敵した群れの規模に比べると少ないな。奴らは単独行動するのか?」
「大鬼ならあり得るかな。小鬼は必ず小さな群れで移動するよ。群れからはぐれた小鬼なんて、他の魔物からしたら餌でしかないからね」
餌か。
ゴブリンを喰らう魔物からすれば、人間のほうがもっと旨そうな餌に見えるのだろうな。
それよりもだ。大事な事をスルーしかけている。
度量衡の概念だ。これを合わせておかないと今後絶対に苦労する。
「カリナ。ちょっと質問だが、これぐらいの長さを何と表現する?」
俺は両手を胸の前で広げて、ちょうど1mぐらいの幅を示した。
「え?なになに?」
今度こそ訝しげな顔を見せるカリナだが、それでも自分の肩と腕を使って何やら長さを測ってくれた。
「えっと、だいたい1メートルぐらいかな?」
俺の耳には確かに“いちめーとる”という音が聞こえている。だがカリナの口元を見ると、そうは発音していない。もっと短い濁音と撥音が混じったような……バッルとかバールに近い音を発しているようだ。
つまりだ。カリナが表現している長さの単位が俺の耳で音として認識される前に、なんらかの作用で俺が理解できる単位に変換されているという事だ。これもいわゆる異世界物のご都合主義というやつか。
そのバッルという単位が何を意味しているのか、メートルとの関係性も気になるところだが、それはいつか暇な時に考察しよう。
「じゃあ、あの茂みまでの距離はどれぐらいかわかるか?」
俺は前方の灌木を指差す。ちょうどウサギやきじキジが潜んでいそうな、草原に生える低木の茂みだ。
「もう!何なのよ。100メートルぐらいじゃない?全力で走れば10秒ってところね」
俺の目測でも100m弱だ。
100mを10秒で走り抜けると言い切ったカリナの脚力も驚くべきところだが、少なくとも長さの概念はそのまま通じるようだ。
今後この世界でどれだけの時間を過ごし、どんな体験をするのか定かではないが、とりあえず度量衡の概念に齟齬が出ないのは助かる。
「そうか。俺なら15秒はかかるだろうな」
「へへん。駆けっこしてみる?足の速さにはちょっと自信があるんだぞ」
カリナが胸を張る。走るにはその胸は邪魔だろうに。そんな言葉をのみこむ。そういう爆弾発言は間違っても口に出してはならないのだ。
一瞬迷って口にした言葉は、もっと別のものだった。
「そうか。今後は方角や距離で話す事が増えると思う。意味がわからなかったら、その都度言ってくれ」
「了解!んで、魔物の反応はどう?」
「距離は縮まっていない。俺達の向かう方向と同じ向きに、少しずつ進んでいるようだな」
「そっか。まあマンティコレが本当に出たんなら、小物は近寄ってはこないと思うけど」
「そのマンティコレってのはそんなに強力な魔物なのか?魔物界最強!みたいな?」
「う~ん。最強ってわけじゃないと思う。他にも強い魔物はいるよ。矢も剣も効かないトローとか、地中に潜むグサーノ、海に棲むティボラーン、あとは何といってもDragón antiguo!これが出てきたら人間界の終わりだって言われてるよ」
ドラゴと言ったか。ドラゴという名詞に何かの形容詞が付いている。アンティークォ?
「そのドラゴってのはどんな魔物なんだ?」
「火を吐く大きなトカゲだよ。“その巨体は城よりも大きく、吐き出す炎は岩をも溶かす。その尻尾の一撃は山をも砕く”ってね。まあ実際見たことがある人はいないみたいだけど」
その表現だけを聞けばヨーロッパの伝説に出てくるサラマンドルのようだが、きっと巨大な火龍のことなのだろう。
そうか。ドラゴンがいるのか。
もしドラゴンに出くわしたら、いったい俺に何ができるだろう。少なくとも手持ちのBB弾ごときで歯が立つ相手ではなさそうだ。
少し小高くなった丘を見つけ、その頂上からノレステ村があるであろう方角を確認する。
件の村らしき集落が、確かに前方にあった。
距離はおよそ1kmほどか。
念入りにレーダーを放つが、魔力の反応はない。先ほどレーダーに映る小さな反応は、いつのまにか消えていた。
「あれがノレステ村かな?なんか静まりかえっている気がするけど」
「地図には他に集落や集落跡の記載はないな?」
「ないね。じゃあ、やっぱりあれがノレステ村か」
「そうだろうな。魔物が潜んでいる気配はなさそうだ。行ってみよう」
「了解!そうと決まれば急ぐよ!」
そう言ってカリナが走り出した。
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