悪の策士のうまくいかなかった計画

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
16 / 85

16.なんだこいつ!

しおりを挟む

 怒鳴りつけてやると、ゲキファは、そう言う意味じゃないんだけど、とつぶやいた。

 相手の話したいことが、表立って言えないようなことであることくらい、俺だって承知の上だ。だから、わざわざこうしてこんな人通りの少ない路地へ来てやったんだ。

 俺がこれだけ気を遣ってやってるのに、何をもたもたしているんだ!!

 どうせ父親に恨みを持つ俺を排除しに来たんだろう。喧嘩がしたいなら早く言え! 俺が満足するまで付き合ってやる。

 けれどそいつは、俺から目をそらして、気まずそうに言った。

「……ごめん。強引な真似して……」
「謝る暇があるなら話せ。どういうつもりだ?」
「……俺…………ヴァデスのこと、ずっと好きだったんだ」
「そんなことか」

 だろうと思った。

 やはり喧嘩か。悪いがここで引き下がってやるつもりはない。俺は貴様らをいいように利用して研究所とツナ缶を……

 …………いや、待て。何て言った? 俺の予想とは、まるで違うことを言わなかったか?

 俺はてっきり、父のためお前を排除する、とか言い出すのかと思ったのに。

 好き??

 そいつは、俺の手を取り、ぎゅーーっと握る。

「そ、そんなことじゃないっ……! 俺、ずっと、ヴァデスが好きだった」
「……何を言っているんだ? 俺を好き?? たいして話したこともないのに?」
「話したことなくないんだけど……俺が話しても、ヴァデスはあんまり聞いてなかっただけで……」
「お前が俺のツナ缶をジロジロ見ていたからだ。そんなに俺のツナ缶が羨ましかったのか?」
「……俺はツナ缶なんて見てないよ。ヴァデスを見ていたんだ」
「……さっきから何を言っているんだ? 俺は男だぞ。男が好きなら、他へ行け。俺は恋愛など、全く興味がない。あるのはツナ缶と旨いフライドチキンだけだ」
「…………知ってる。ヴァデスが、学園に入り込もうとしていたのも」
「……なぜそれを知っている??」

 おかしいぞ。俺は俺の計画を、誰にも話したことがないのに。この男が知っているはずがない。

 追求すると、ゲキファは顔をそむけてしまう。

 こいつ……

「貴様……俺を見張っていたな!?」
「えっ……!? ち、違う! ヴァデスが父を恨んでるみたいだったから……声をかけづらくて……」
「やはりか……そんなことを言って油断させ、父親の敵である俺を排除する気だろう!」
「違うっっ!! 本当にっ……俺はヴァデスを」
「しつこいぞ!! 貴様のような未熟なものが、俺を騙せると思うな!!」

 俺は、自らの体に魔法をかけて、夜空に飛び上がった。付き合っていられるか!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結済】「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

ふつつかものですが鬼上司に溺愛されてます

松本尚生
BL
「お早うございます!」 「何だ、その斬新な髪型は!」 翔太の席の向こうから鋭い声が飛んできた。係長の西川行人だ。 慌てん坊でうっかりミスの多い「俺」は、今日も時間ギリギリに職場に滑り込むと、寝グセが跳ねているのを鬼上司に厳しく叱責されてーー。新人営業をビシビシしごき倒す係長は、ひと足先に事務所を出ると、俺の部屋で飯を作って俺の帰りを待っている。鬼上司に甘々に溺愛される日々。「俺」は幸せになれるのか!? 俺―翔太と、鬼上司―ユキさんと、彼らを取り巻くクセの強い面々。斜陽企業の生き残りを賭けて駆け回る、「俺」たちの働きぶりにも注目してください。

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

処理中です...