地獄の番人

「ぁ、ああ...ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

一人、誰の侵入も許さない不可侵の領域で、彼は泣いていた。
暗闇は体を侵食するも、彼は気にしない。そんな余計なことに気を使うほど、彼に余裕はなかった。

「どうして、どうしてどうして...どう、して......」

弱々しく、女々しく喚く彼の姿はどこまでも惨めで救いようがなかった。
背中を丸め、胎児が如く小さくなる。

「俺が......僕の方が、頑張ってたのに!僕の方が誰よりも疲れてるのに!僕の方が──誰よりも苦しんでいるのに」

──どうして誰も僕のことを見てくれない。
──どうして皆彼のことばかり認める。
──どうして誰も僕のことを分かってくれない。

少年は、孤独であった。

両の肉親を己が魔法で焼き殺し、許嫁も勇者に取られ。
何も、生きることに意味を持てなかった──持つことを許されなかった少年は、ついぞ死ぬことさえ赦されることはなくなった。

あの日、自分が未だに思いを寄せている少女と勇者が本契約を果たすのを見たとき。
少年の中で......何か決定的なものが崩れ落ちる音がした。

人間として生きる上で、最も大切なものは何か。

──それは、目標だ。

『生きている』と、『死んでいない』は決してイコールではない。
人間は、明確な目標があるから、明日に希望を持てる。

随分昔に、少年は夢を見た。

絶望に彩られた人生の価値観を変えてくれた、少女の夢。
少年は......彼は、少女を守りたくて力を欲した。誰にも負けることない、絶対の力を。

そして、いつか自分の隣に少女がいると信じて必死に努力を重ねた。

「それがこのザマだ」

彼は荒々しく吐き捨てる。

彼は、勇者と違って味方を持たない。
......否。
何度欲しいと思っても、出来ない。

悲しいとき、背中を擦ってくれる人がいない。
辛いとき、胸の内を曝せる人がいない。
苦しいとき、気持ちを共有する人がいない。

誰か一人でも彼の側に居てあげたなら...もしかしたら、もう少し違う結末を辿ったかもしれない。

──だが、もう、遅い。
もうじき約束の刻だ。

『世界を救え』

そう言って彼に呪いを掛けた。
世界の『抑止力』として存在するという呪いを。

誰が自分を呪ったのかすら彼は分からない。

思考を、行動を、未来を。
全てを凌辱された少年は運命に抗う術を持たない。

存在を否定され、何もかも失った少年は『抑止力』に成り果てる。

────
表紙の素敵な絵は別のサイトで活動していた時に『渢月さん』という方に書いてもらいました。主人公です。
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