あやめ祭り~再び逢うことが叶うなら~

柿崎まつる

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第三章

65.消毒(1)※

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「消毒?」

 溪蓀シースンの問いには答えず、浩海ハオハイは彼女を寝台のへりに座らせ、自らは片膝をついた。 

「白豚に触れられたのは、どっちの足?」 
「……右よ。だけど、それがどうしたの?」

 彼は細い足首を持ちあげるや、その甲に接吻をおとした。

「ごめんね、溪蓀シースン。僕のせいで」

 薄い唇で親指の爪と皮膚のあいだをなぞり、爪の生え際を舐める。溪蓀シースンはとっさに足を引きぬこうとしたが、男の腕はビクともしなかった。目の覚めるような美貌の男性が膝をおって、彼女の足を舐めているのだ。その視覚的衝撃たるや、言葉にならない。

浩海ハオハイさん……っ!」

 念入りに舌で愛撫された親指は、艶やかな光沢をおびている。浩海ハオハイは、それだけでは飽きたらず足先を口にふくんだ。男の湿った腔内は温かく、吸いあげられると下腹がさらに切なく熱をおびる。リップ音が薄暗い部屋に響き渡り、溪蓀シースンは羞恥と混乱の極みにとらわれた。

「それやめて……っ」

 願いどおり口をはなされたものの、彼女は唇と指を伝う銀糸のような唾液を見せつけられ、頭がくらくらする。人差し指のきわを舌先でつつかれ、はからずも女の大切なところが潤った。次第に身体に力が入らなくなり、後ろ手についた腕が震える。

「やぁ……っ、はなして……」
「まだだよ。全然消毒できてない」

 上体を倒され足首を持ちあげられると、白い着物が膝までめくれた。浩海ハオハイは動揺する彼女を見下ろしながら、人差し指から小指までも丹念にしゃぶる。

「ん……っ! そんなに、しつこく……、舐められて、ないわ」

 浩海ハオハイの瞳は、橙色のロウソクの灯りに妖しく淫靡いんびに浮きでていた。
  
「白豚にされたことを覚えているうちは、消毒が済んでないってことだよ」

 足の指先はしとどに濡れ、テカった爪が艶めかしい。足裏にも舌を這わせられ、くすぐったさにきゅっと目をつむった。

「あんっ!」

――わたし、こんな声を出して……っ。

 慌てて口を押えた溪蓀シースン浩海ハオハイは、その土踏まずに自分の頬をすりよせる。

「初雪みたいに白くて綺麗だね。君がこの脚で後宮を颯爽さっそうと歩いて、妃嬪ひひんや女官たちを鼓舞していたかと思うと誇らしいよ」
「側室のわたしが、さしでがましく、鼓舞なんて、……してないわ」
千花チェンファの話のなかでは、君は英雄だ。あの子と同衾どうきんしたそうだね。義妹いもうとに先を越されて、僕はずっと妬きっぱなしだよ」

 そもそも千花チェンファは同性で、文字通り同じ布団で寝ただけだ。そんなことにまで目くじらを立てないでほしい。
 浩海ハオハイが笑った。

「足、舐められて気持ちよくなっちゃった? 膝、こすりあわせちゃって可愛いね」
「ばか……こんなの、消毒じゃないわ……」

 羞恥心と背徳感にはさまれて、心のタガがはずれそうで怖い。身体の芯がとろけるようで、股のあいだが湿ってむずがゆく感じた。この快感から逃れたいのか、未知なる続きへ進みたいのか分からない。
 いきなり、浩海ハオハイが彼女の膝を割った。着物のすそが脚の付け根までめくりあがり、股のあいだを男の身体に陣取られた。

浩海ハオハイさん……っ」
「声を聞かせて? 顔を見せて?」
「……みっともないから、だめ……っ」
「分かってないね、溪蓀シースン。男は好きな子がそういう風になっちゃうの、全部見たいんだよ」

 口許を抑えていた両手を開かれる。ゆっくりと降りてくる男の眼が、溪蓀シースンを渇望していた。口腔の熱を確かめるような執拗な舌の絡まりに圧倒されて、されるがまま。

「んっ、……あぁっ……」
「かわいい」

 互いの唾液を擦りつけあう行為は動物的で、とても官能的だ。彼女が翻弄され何も考えられなくなったころ、たっぷりと余韻をもって解放された。チュッと鳴る水音が艶めかしい。
 浩海ハオハイは、熱い息をもらした。

「僕の本気はこれからだよ。君の言いつけ通り、清く正しく生きてきたんだから、ご褒美をちょうだい」

 接吻の雨はひたいから始まり、眉間、まぶた、頬へと降りていく。唇には軽く二回。あごと首筋を通って、鎖骨へと流れる。溪蓀シースンは男の降り積もった熱情に押し流されて、抵抗する気力は残っていなかった。帯を解かれほっそりとした肢体をあらわにされても、潤んだ瞳で見あげるしかできない。
  
「……は……、はぁっ」
 
 熱い息を吐く度に胸が上下して、見おろす男の視線が絡みつく。後宮の隅で秘匿されてきた乳房は大きすぎず小さすぎず、桜色の先端が小さな蕾を形づくっている。白磁のような美しさに、浩海ハオハイがゴクッとのどを鳴らした。
 
「きれいだね。まるで天女をあばいてるみたいだ。背徳感でぞくぞくするよ」
「何を言ってるの……っ、恥ずかしいから、あんまり見ないで……っ」

 浩海ハオハイは恍惚とした表情を浮かべると、両の乳房に手を置く。椀型の曲線を確かめるようになぞり、そっと揉みしだいた。何度も揺らされると、硬くなった乳頭が甘いうずきをうったえてくる。

「あっ、……んんっ、あっ」
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