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第三部 宰相閣下の婚約者
611 依頼人ですよ(中)
「まあ、さすがに各公爵家の法律顧問とは高等法院で顔を合わせることも多いので」
カール商会長代理に問われたヤンネはそんな風に答えを返したけれど、実際にはそのセサル・ユディタ青年の兄、次期ユディタ侯爵となるシピ・ユディタ侯爵令息と王都学園の同期と言う、ちょっとした接点を彼は持っていた。
元から家が法律顧問だったワケでもなんでもなく、政変で先代スヴェンテ公爵の失脚に、あわや巻き込まれそうになったところを回避すべく、兄弟で頭をひねった結果の、シピの弟・セサルによる法律事務所開業だったそうだ。
どうやらヤンネがクヴィスト公爵家からの圧力に負けず、裁判をしてのけた一連の騒動を当時参考にしていたらしい。
元の法律顧問は、先代スヴェンテ公爵の死に連座してしまったこともあって、今のスヴェンテ老公爵が、領の立て直しの為に、ユディタ侯爵令息による勉強や開業を密かに援助したんだとか。
祖父である先代ユディタ侯爵が、毒殺処刑された筈のカミル・スヴェンテを密かに逃がすのに手を貸したらしい為人を考えると、ユディタ家そのものが、義に厚い家なのかも知れなかった。
そんなユディタ法律事務所の現所長であるセサル・ユディタ侯爵令息は、ヨアキム・オルセン侯爵令息の学園同期だと、誰に言うでもなくヤンネが呟いた。
多分、あれはあれで私への情報提供のつもりなんだろう。
「その『歩行補助器具』とやらの話も初耳なんだが」
「そうですね、これはユングベリ商会からラヴォリ商会への挨拶料と言う形で、既に今開発されていらっしゃる器具の改良案をお渡しした――と言うのが正しくて、イデオン公のご許可もいただいていた話ですから」
ユングベリ商会としての特許権は考えていなかった、と私が答えると、ヤンネは微かに眉根を寄せていた。
「既に開発中の器具とやらは、ユディタの手で特許権申請がされている……か」
「私の改良案も預ける、と今後の為に堂々と恩を売っておくのもイイかも知れませんけど、そのあたりはこの事務所の有利になるようにして貰ったら、それで良いですよ」
「分かった。ならば近いうちに、こちらからセサルに連絡を取る」
よしよし、とオトナ対応をした自分を内心で自画自賛していると、そうとは知らずカール商会長代理が、それならばヤンネも歩行補助器具の改良品が出来た時に見に来れば良いと誘いをかけていた。
スヴェンテ公爵邸で試乗して貰うにあたっては、公爵邸を借りつつ、セサル・ユディタ侯爵令息も招くことになるだろうからとのことで、確かに実物を見ながら話が出来ると言う点では、それが一番なのかも知れなかった。
「では、そちらはいずれ改めて連絡を入れさせていただきます。――申し訳ございません、話が逸れまして」
そう言って頭を下げたカール商会長代理に、皆がそこで、本題がそこになかったことを思い出していた。
「ラヴォリ商会の商会長代理は……今の話で来られたのではない、と?」
「歩行補助器具の話は、たまたま話の流れでそうなっただけで……」
ヤンネを見ながら苦笑するカール商会長代理に、脱線させた記憶のある私もふいと顔を逸らす。
「……本題は?」
私とヤンネとの間に、世間話などと言うものは存在しない。
だから私も、スパッと要点を言っておくことにした。
「――投資詐欺」
「「⁉」」
ヤンネ、そしてユセフが、同時に息を呑んだ。
「新たに開発された〝ジェイ〟の漁場があって、今ならそこの開発に投資をすれば、将来的に必ずもうかるとかどうとか……?」
わざとらしく小首を傾げれば、舌打ちしそうな程に不機嫌な視線が向けられた。
「今どきそんな都合の良い話はない。そもそもひとつの開発に、どれほどの人や領地の利権が絡むと思う」
「だから言ってるじゃないですか、詐欺だって」
「――――」
黙り込むヤンネを、ユセフとアストリッド少年が不安げに見つめている。
さすがに〝ジェイ〟の水揚げ高が、どこの領地に絡むのかまでは、すぐには出てこなかったのだろう。
海産物は、複数の領地に渡って漁をしている場合が多いからだ。
しかも私がいて、エリィ義母様がいて、コンティオラ公爵夫人がいて、ラヴォリ商会の商会長代理がいるとなれば、どこの領地の話でもあり得そうだからだ。
「ざっくり言えば、コデルリーエ男爵領内で起業した商会が、エモニエ侯爵家の名前をチラつかせて、コンティオラ公爵領内の商会をこの話で複数引っかけた。……と言ったところですね」
「それは……」
「更に言えば、鉱山での採掘難にあえいでいたコデルリーエ男爵領の頬をぺしぺしと現金で叩いて領内で起業させたのが、ナルディーニ侯爵家の息がかかっていた、エモニエ侯爵家の関係者。一方が貴族、一方が商会と言う一般市民。あら、大変!」
私はわざと茶化すように言って、軽く両手を合わせてみたけれど、ヤンネはそこにはつられなかった。
黙ったまま、カール商会長代理、エリィ義母様、コンティオラ公爵夫人を視線で見比べていた。
「なるほど、だからこの事務所へきた――か。今ならお誂え向きにユセフもいる」
「コデルリーエ男爵領はフォルシアン公爵領、エモニエ侯爵領やナルディーニ侯爵領はコンティオラ公爵領にある領ですしね?私はフォルシアン公爵家の養女になったばかりですけど、詐欺にあった商会はラヴォリ商会と提携している商会もあって、私はたまたま王都商業ギルドでギルド長と会って、相談を受けた――――んです」
「高等法院も絡むと言うワケだな」
私の視線に合わせて、ヤンネもユセフへと視線を投げた。
カール商会長代理に問われたヤンネはそんな風に答えを返したけれど、実際にはそのセサル・ユディタ青年の兄、次期ユディタ侯爵となるシピ・ユディタ侯爵令息と王都学園の同期と言う、ちょっとした接点を彼は持っていた。
元から家が法律顧問だったワケでもなんでもなく、政変で先代スヴェンテ公爵の失脚に、あわや巻き込まれそうになったところを回避すべく、兄弟で頭をひねった結果の、シピの弟・セサルによる法律事務所開業だったそうだ。
どうやらヤンネがクヴィスト公爵家からの圧力に負けず、裁判をしてのけた一連の騒動を当時参考にしていたらしい。
元の法律顧問は、先代スヴェンテ公爵の死に連座してしまったこともあって、今のスヴェンテ老公爵が、領の立て直しの為に、ユディタ侯爵令息による勉強や開業を密かに援助したんだとか。
祖父である先代ユディタ侯爵が、毒殺処刑された筈のカミル・スヴェンテを密かに逃がすのに手を貸したらしい為人を考えると、ユディタ家そのものが、義に厚い家なのかも知れなかった。
そんなユディタ法律事務所の現所長であるセサル・ユディタ侯爵令息は、ヨアキム・オルセン侯爵令息の学園同期だと、誰に言うでもなくヤンネが呟いた。
多分、あれはあれで私への情報提供のつもりなんだろう。
「その『歩行補助器具』とやらの話も初耳なんだが」
「そうですね、これはユングベリ商会からラヴォリ商会への挨拶料と言う形で、既に今開発されていらっしゃる器具の改良案をお渡しした――と言うのが正しくて、イデオン公のご許可もいただいていた話ですから」
ユングベリ商会としての特許権は考えていなかった、と私が答えると、ヤンネは微かに眉根を寄せていた。
「既に開発中の器具とやらは、ユディタの手で特許権申請がされている……か」
「私の改良案も預ける、と今後の為に堂々と恩を売っておくのもイイかも知れませんけど、そのあたりはこの事務所の有利になるようにして貰ったら、それで良いですよ」
「分かった。ならば近いうちに、こちらからセサルに連絡を取る」
よしよし、とオトナ対応をした自分を内心で自画自賛していると、そうとは知らずカール商会長代理が、それならばヤンネも歩行補助器具の改良品が出来た時に見に来れば良いと誘いをかけていた。
スヴェンテ公爵邸で試乗して貰うにあたっては、公爵邸を借りつつ、セサル・ユディタ侯爵令息も招くことになるだろうからとのことで、確かに実物を見ながら話が出来ると言う点では、それが一番なのかも知れなかった。
「では、そちらはいずれ改めて連絡を入れさせていただきます。――申し訳ございません、話が逸れまして」
そう言って頭を下げたカール商会長代理に、皆がそこで、本題がそこになかったことを思い出していた。
「ラヴォリ商会の商会長代理は……今の話で来られたのではない、と?」
「歩行補助器具の話は、たまたま話の流れでそうなっただけで……」
ヤンネを見ながら苦笑するカール商会長代理に、脱線させた記憶のある私もふいと顔を逸らす。
「……本題は?」
私とヤンネとの間に、世間話などと言うものは存在しない。
だから私も、スパッと要点を言っておくことにした。
「――投資詐欺」
「「⁉」」
ヤンネ、そしてユセフが、同時に息を呑んだ。
「新たに開発された〝ジェイ〟の漁場があって、今ならそこの開発に投資をすれば、将来的に必ずもうかるとかどうとか……?」
わざとらしく小首を傾げれば、舌打ちしそうな程に不機嫌な視線が向けられた。
「今どきそんな都合の良い話はない。そもそもひとつの開発に、どれほどの人や領地の利権が絡むと思う」
「だから言ってるじゃないですか、詐欺だって」
「――――」
黙り込むヤンネを、ユセフとアストリッド少年が不安げに見つめている。
さすがに〝ジェイ〟の水揚げ高が、どこの領地に絡むのかまでは、すぐには出てこなかったのだろう。
海産物は、複数の領地に渡って漁をしている場合が多いからだ。
しかも私がいて、エリィ義母様がいて、コンティオラ公爵夫人がいて、ラヴォリ商会の商会長代理がいるとなれば、どこの領地の話でもあり得そうだからだ。
「ざっくり言えば、コデルリーエ男爵領内で起業した商会が、エモニエ侯爵家の名前をチラつかせて、コンティオラ公爵領内の商会をこの話で複数引っかけた。……と言ったところですね」
「それは……」
「更に言えば、鉱山での採掘難にあえいでいたコデルリーエ男爵領の頬をぺしぺしと現金で叩いて領内で起業させたのが、ナルディーニ侯爵家の息がかかっていた、エモニエ侯爵家の関係者。一方が貴族、一方が商会と言う一般市民。あら、大変!」
私はわざと茶化すように言って、軽く両手を合わせてみたけれど、ヤンネはそこにはつられなかった。
黙ったまま、カール商会長代理、エリィ義母様、コンティオラ公爵夫人を視線で見比べていた。
「なるほど、だからこの事務所へきた――か。今ならお誂え向きにユセフもいる」
「コデルリーエ男爵領はフォルシアン公爵領、エモニエ侯爵領やナルディーニ侯爵領はコンティオラ公爵領にある領ですしね?私はフォルシアン公爵家の養女になったばかりですけど、詐欺にあった商会はラヴォリ商会と提携している商会もあって、私はたまたま王都商業ギルドでギルド長と会って、相談を受けた――――んです」
「高等法院も絡むと言うワケだな」
私の視線に合わせて、ヤンネもユセフへと視線を投げた。
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