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ヴガッティ城の殺人

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 ──あいつが犯人だったのか……。
 
 ──崖に追いつめられ、自殺したな……。
 
 ──でも、これで事件は解決だ……。
 
 ──ムバッペ警部、ご令嬢はどうしますか?
 
 ──ヴガッティ城に連れていく。運ぶのを手伝え!




٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。٭•。❁。.*・゚ .゚・*.❁。.*・٭•。




「ううっ……」

 どうやら私は、眠ってしまったようですね。
 うっすら目を開けると、ここは?
 
「はっ!」

 飛び起きると私は、ふかふかのベッドにいます。
 窓に射し込む明るい太陽の光り、清潔な白いシーツ、柔らかい枕、スーとした消毒の匂いが鼻につく。
 
 ここは、どこ? もう朝なの?
 時計の針は、六時にさしかかるところ。

「よかった! マイラさん!」

 懐かしい声がして振り向くと、愛しい顔があります。
 あ、ここはヴガッティ城……。
 心配させてしまったようですね。彼が私の左手をにぎってる。
 え? まさか……私が眠っている間、ずっと、ずっとこうしていたのですか?
 
「レオ!」
「マイラさん! すぐに医者を連れてきますっ!」

 椅子から立とうとするレオ。
 その手が私の手から離れていく。
 やだ……もっとこうしていたい。
 
「待ってください!」
「……!?」
「大丈夫です。眠っていただけですから……」
「でも、右腕を怪我しています」
「え? あ……眠くなって倒れたときに怪我したようですね。探偵なのに不覚にも昏睡こんすいするなんて、私もまだまだ……」
「なんでそんな危険なところに行ったのですかっ!」
「……」

 レオが本気になって怒っています。
 眉間にしわがより、私のことを真剣な瞳で見つめて、叱ってくれているようですね。
 
「ご、ごめんさない……」
「めちゃくちゃ心配したんですよ! このまま起きなかったらどうしようって……」
「もう平気です。睡眠ガスにやられてしまいました……えへへ」

 えへへ、じゃない! と怒鳴るレオ。
 彼の手は、さらにしっかりと、ぎゅっと、私の手を握っています。
 い、痛い……けど、なに? この感情は?
 ドキドキして、胸まで痛い……。

 ち、ちかっ……。

 レオは、そのカッコイイ眉目秀麗な顔を、もっと私に近づけて言います。
 
「やっぱり俺もレベッカ婦人のように城から抜け出して、マイラさんを追えばよかったんだ」
「……レオ? その話、詳しく聞かせて」
「ああ、レベッカ婦人はこっそり城から抜け出したんだ。それで港町で殺されてしまった……やっぱり狙われていたんだ、ハーランド族に」
「まって……レベッカが抜け出した方法は?」
「なぜか不思議なことに、婦人を警備していた警察官が眠ってしまったんだ。その隙に婦人は抜け出した」
「……なるほど、城に残っていた警察官は三人。そこまで厳重な監視ではないから、レベッカ婦人でも抜け出せたのでしょう」
「これもヴィルの仕業でしょうか? 警察官を眠らせ、婦人を外出させた。そして、あとから自分も城から抜け出した」
「……えっ!? 今、誰の仕業だと言いました?」

 ヴィルですけど、とレオは言います。
 
 は? ヴィル? 
 
 ガッ! と私はレオの肩を両手でつかんで尋ねます。
 
「ヴィルって近衛兵の?」
「ちょ、ちょっとマイラさん落ち着いてください!」
「犯人はケビンじゃないの?」
「ケビンはずっと城にいました。二階の部屋の前にはずっと警察官が警備していたので間違いありません」
「……ということは、ハーランド族の衣装を着て、崖から飛び降り自殺したのは?」
「ヴィルです」

 そ、そんな……と私は言って、瞳を大きく開けます。
 
「し、信じられない……」
「警察の話によると、崖の下で死んでいたのはヴィルで、レベッカを殺害した凶器である吹き矢を持っていました。そして驚くべきことに彼の自宅からは、なんと行方不明になっていた奴隷少女たちが見つかったそうです」
「え? ヴィルが誘拐犯だったの?」
「そうみたいですね。でも、幸いなことに少女たちに怪我はなく、みんな元気だったらしいです。ヴィルがどんは目的で少女を監禁していたのかは、詳しく聞いていませんが……」
「あ、そう……まぁ、聞きたくもないけど」

 でも、と私は付け足して言います。
 
「ヴィルがヴガッティ家へ復讐するなんて……ありえるのかな?」
「警察が、『ヴィルはハーランドの末裔だ』そう言っていましたよ」
「え? そうなんですか?」
「ヴィルにもハーランドの血が流れているんです。僕や母さんみたいに……」
「……!? ヴィルもハーランド族?」
「はい。でも考えて見ると実際にハーランドの血筋がある人って、実は街にはたくさんいるんですよね」
「た、たしかに……いても不思議はないですね」
「はい。自分から言わないだけで、ハーランド族はいるんです。歴史的には抹殺された部族だから、自分から『ハーランド族です』なんていう人はいないんですよ」

 しかし、と反論した私は、ボフッと拳を枕に叩きつけて言います。

「脳筋のヴィルにあのような手紙や毒殺トリックができたとは思えません!」
「マイラさん……?」
「何かトリックがあるはず……」

 私が、ひとり憤慨ふんがいしていると、ガチャと扉が開きます。
 部屋に入ってきたのは、青い髪をした警察官ムバッペ。
 
「やぁ、お姫様。王子のキスでお目覚めだね」
「ねぇ、どういうこと! ヴィルが犯人だって?」
「はいはい、自殺してくれたおかげで事件解決ですよぉ」
「はぁ!?」
「崖の下で死んでいたのはヴィル。
 出身、住まいはハーランド。年齢は十八歳。両親は不明。
 城の近衛兵になりヴガッティ家の暗殺を計画して実行に移す。
 そして警察に追いつめられ崖から転落して死亡。
 その動機は、“ヴガッティ家への復讐”
 かつてハーランド族を虐殺した総督に怒りを覚え、
 今回の殺人事件を起こした……。

 以上です」
「あ、ありえない……」
「これが、我々警察の報告書です。ふぅ、これにて一件落着ですね~ふぅ、疲れた疲れた」

 淡々と言葉を吐いたムバッペは、「マイラさんまたね」と言って踵を返す。
 私は、すぐにベッドから起き上がって彼に近づく。これで事件解決なんて、絶対にありえないんだから!
 
「ちょっと待ちなさい、ムバッペ!」
「ん?」
「ヴィルの家に毒はあったの? 睡眠ガスは? 民族衣装は?」
「え? なかったよ。処分したんじゃない?」
「ケビンがまだ死んでいないのに? 復讐は完成されていないじゃない! それなのに自殺するなんて、変だと思わない?」
「諦めたんじゃない。ヴィルを崖まで追いつめた我々警察の勝利だ!」

 ちがう、ちがう、と私は言って首を横に振ります。
 隣にきたレオが、「マイラさん……」と言いますが、私はムバッペを見つめます。
 
「ケビンの部屋を捜査させて!」
「え、また?」
「もう一度、捜査させて!」

 私は、さらに真剣な眼差しを向ける。
 ふぅーとため息を吐くムバッペは、目を細めて言います。
 
「事件はもう終わったんですよ。探偵のお嬢さん……」
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