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VOL:2 金蔓令嬢
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帰る道すがら、レイニーは「礼拝の日だったわ」と御者に教会に寄るように伝える。
「神様なんているのかしら。いるとすれば怠慢な神様だわ」
神様だけでなく、どうして祖父がフェリッツを選んだのだろうと考えても見るが、その答えなど直ぐに出る。
婚約をしたのはお互い10歳の時。
フェリッツはヘゼル伯爵家の三男坊なのだが、ヘゼル伯爵家はパウゼン家から婚約=結婚が条件で融資を受けていた。婚約は10歳当時なのでレイニーが言い出した事ではない。
正直言ってその当時の婚約者は容貌はそれなりに整った美少年だったが、頭の方がサッパリ。何故婚約となったかと言えばアンブレッラ王国では「入り婿」は恥ずかしい事とされていた。
入り婿を取るくらいなら養子を迎え入れて、どこかの令嬢に嫁いで来てもらう方が良い。
他国から見れば偏見にも似た男性至上主義の国がアンブレッラ王国だった。
しかし爵位で言えば侯爵家のパウゼン家では子供はレイニー1人だけ。
レイニーが3歳になる前に神の御許に召された両親。恥だのと言っていては家が途絶えてしまう。
ヘゼル家でも長男には婚約者はいるし、スペアとなる次男にも婚約者はいる。
そちらに金がかかるので三男までは手が回らない上に無利子で融資が受けられて、婿入りさせれば事実上の帳消し。こんな旨い話は二度と来ないと大歓迎だった。
「入り婿」を望むパウゼン侯爵家、金が欲しかったヘゼル伯爵家。
利害の一致を見たのがフェリッツとの婚約だった。
教会に行くといつもの子供達が待っている。
子供達は家が貧しく、街角で花屋では売れない花を売って生活をしている。
花びらが千切れていたり、茎が折れたりで萎れてしまった花なので見栄えも悪く買うのは酔っ払いくらい。
子供達から花を買い取る事になったのは、夜遅くまでフェリッツに連れ回されていた時に繁華街で見かけて声を掛けたことによる。
「全部売らないと父ちゃんに殴られるんだ」
本当か嘘かはレイニーには判らない。ただ買えるだけの金は持っているので銅貨1枚で全て買い取れるのに子供たちを気の毒に思ってしまい金貨1枚で買った。
いつしか教会の礼拝に行く日にはその時から言えば数倍の子供達がレイニーを待つようになった。
「こんな萎れた花ばかり・・・お嬢様、どうするつもりなんです?」
きっと屋敷に戻れば侍女のキャロルが目を三角にして呆れる事だろうが、ここでもレイニーはいつものように子供達から花を買い取った。
「お姉さん、もうちょっと・・・高く買い取れない?」
「どうして?いつも金貨1枚でいいって・・・」
「母ちゃんが病気なんだ。医者に診せたいけどお金が足らなくて」
「病気なの・・・そう。じゃぁ今日は特別よ?」
子供の手に金貨をもう1枚握らせると、それを見た周りの子も「婆ちゃんが病気」「兄ちゃんが足を折った」と言い出し、結局レイニーは手持ちの金貨を全て子供たちに渡してしまった。
何となく「嘘」だとは思っているのだが、「もし本当だったら」と出し渋る事でこの子の親が取り返しのつかない事になったらと考えてしまう。
(結局、私は責任逃れをしたいだけなのかも)
そんな事を思いつつ、礼拝を済ませて馬車に乗り込もうとすると、フェリッツに暫く貸していた馬車なのでレイニーが乗って来たとは思わなかったのだろう。
子供達の声が聞こえた。
「な?適当なことを言えば金くれるだろ?」
「めっちゃ上客じゃん。だからお前、金回り良かったんだ?」
「もっと早く教えてくれよ。これなら礼拝の日に来るだけで働かなくていいじゃん」
金貨1枚あればその月は4人家族が毎食外食をしてもお釣りがくる。
確かに医者に診てもらうとなれば流感の薬を出して貰うだけで金貨1枚は必要だが、子供たちの会話に「やはり騙されていた」と感じつつも「誰かひとりは本当に病気だったかも」と自分に言い聞かせレイニーは馬車に乗り込んだ。
屋敷に戻れば思った通り侍女のキャロルが萎れた花束に溜息を漏らす。
「あのですね、こんなの・・・捨ててる花ですよ?」
「そうかもね…。でもこれで子供たちは今夜はお腹いっぱい食べられるわ」
「今夜どころか。豪遊したって何日も遊べますよ」
「あっ!!」
「どうされました?」
屋敷に戻ってから気が付いたのだが、ジュディスが選んだという帽子が馬車の中に見当たらない。趣味の悪い帽子だったがいつ何時フェリッツがジュディスを連れてやって来るかも判らない。
以前に店の人に「これの色違いがいい」と勇気を出して言ってみた事があった。
ジュディスがその時選んだのは12色の布をパッチワークのようにしたジャケットでとても着られるものではなく、防寒の部屋着にしても落ち着かない色合いだったのでモスグリーンのジャケットに替えてもらった。
だが、突然先触れも無くやって来たフェリッツとジュディスに「人の好意を無駄にして」と文句を言われたのだ。
着たくもない服を自分の金で買わされている感もレイニーを落ち込ませるが、文句を言われるほうがレイニーにとっては辛い事。
「忘れ物をしたみたい。お店かな…出る時はあったから教会かしら」
「今から行かれるのですか?仕方ありませんね」
「ごめんね。キャロル」
「いいんですよ。使用人に謝っちゃいけません。お供しますよ。どうせまた趣味の悪い小物でしょう?」
「ありがとう。趣味が悪いかは・・・人それぞれかな?」
「悪いに決まってます」
「でも作った人は一生懸命作ったと思うのよ?」
神様は怠慢。
そう思ったレイニーだったが、あの趣味の悪い帽子を探すために教会に向かった事で人生が大きく変わる出来事に遭遇するとは思いもよらなかった。
「神様なんているのかしら。いるとすれば怠慢な神様だわ」
神様だけでなく、どうして祖父がフェリッツを選んだのだろうと考えても見るが、その答えなど直ぐに出る。
婚約をしたのはお互い10歳の時。
フェリッツはヘゼル伯爵家の三男坊なのだが、ヘゼル伯爵家はパウゼン家から婚約=結婚が条件で融資を受けていた。婚約は10歳当時なのでレイニーが言い出した事ではない。
正直言ってその当時の婚約者は容貌はそれなりに整った美少年だったが、頭の方がサッパリ。何故婚約となったかと言えばアンブレッラ王国では「入り婿」は恥ずかしい事とされていた。
入り婿を取るくらいなら養子を迎え入れて、どこかの令嬢に嫁いで来てもらう方が良い。
他国から見れば偏見にも似た男性至上主義の国がアンブレッラ王国だった。
しかし爵位で言えば侯爵家のパウゼン家では子供はレイニー1人だけ。
レイニーが3歳になる前に神の御許に召された両親。恥だのと言っていては家が途絶えてしまう。
ヘゼル家でも長男には婚約者はいるし、スペアとなる次男にも婚約者はいる。
そちらに金がかかるので三男までは手が回らない上に無利子で融資が受けられて、婿入りさせれば事実上の帳消し。こんな旨い話は二度と来ないと大歓迎だった。
「入り婿」を望むパウゼン侯爵家、金が欲しかったヘゼル伯爵家。
利害の一致を見たのがフェリッツとの婚約だった。
教会に行くといつもの子供達が待っている。
子供達は家が貧しく、街角で花屋では売れない花を売って生活をしている。
花びらが千切れていたり、茎が折れたりで萎れてしまった花なので見栄えも悪く買うのは酔っ払いくらい。
子供達から花を買い取る事になったのは、夜遅くまでフェリッツに連れ回されていた時に繁華街で見かけて声を掛けたことによる。
「全部売らないと父ちゃんに殴られるんだ」
本当か嘘かはレイニーには判らない。ただ買えるだけの金は持っているので銅貨1枚で全て買い取れるのに子供たちを気の毒に思ってしまい金貨1枚で買った。
いつしか教会の礼拝に行く日にはその時から言えば数倍の子供達がレイニーを待つようになった。
「こんな萎れた花ばかり・・・お嬢様、どうするつもりなんです?」
きっと屋敷に戻れば侍女のキャロルが目を三角にして呆れる事だろうが、ここでもレイニーはいつものように子供達から花を買い取った。
「お姉さん、もうちょっと・・・高く買い取れない?」
「どうして?いつも金貨1枚でいいって・・・」
「母ちゃんが病気なんだ。医者に診せたいけどお金が足らなくて」
「病気なの・・・そう。じゃぁ今日は特別よ?」
子供の手に金貨をもう1枚握らせると、それを見た周りの子も「婆ちゃんが病気」「兄ちゃんが足を折った」と言い出し、結局レイニーは手持ちの金貨を全て子供たちに渡してしまった。
何となく「嘘」だとは思っているのだが、「もし本当だったら」と出し渋る事でこの子の親が取り返しのつかない事になったらと考えてしまう。
(結局、私は責任逃れをしたいだけなのかも)
そんな事を思いつつ、礼拝を済ませて馬車に乗り込もうとすると、フェリッツに暫く貸していた馬車なのでレイニーが乗って来たとは思わなかったのだろう。
子供達の声が聞こえた。
「な?適当なことを言えば金くれるだろ?」
「めっちゃ上客じゃん。だからお前、金回り良かったんだ?」
「もっと早く教えてくれよ。これなら礼拝の日に来るだけで働かなくていいじゃん」
金貨1枚あればその月は4人家族が毎食外食をしてもお釣りがくる。
確かに医者に診てもらうとなれば流感の薬を出して貰うだけで金貨1枚は必要だが、子供たちの会話に「やはり騙されていた」と感じつつも「誰かひとりは本当に病気だったかも」と自分に言い聞かせレイニーは馬車に乗り込んだ。
屋敷に戻れば思った通り侍女のキャロルが萎れた花束に溜息を漏らす。
「あのですね、こんなの・・・捨ててる花ですよ?」
「そうかもね…。でもこれで子供たちは今夜はお腹いっぱい食べられるわ」
「今夜どころか。豪遊したって何日も遊べますよ」
「あっ!!」
「どうされました?」
屋敷に戻ってから気が付いたのだが、ジュディスが選んだという帽子が馬車の中に見当たらない。趣味の悪い帽子だったがいつ何時フェリッツがジュディスを連れてやって来るかも判らない。
以前に店の人に「これの色違いがいい」と勇気を出して言ってみた事があった。
ジュディスがその時選んだのは12色の布をパッチワークのようにしたジャケットでとても着られるものではなく、防寒の部屋着にしても落ち着かない色合いだったのでモスグリーンのジャケットに替えてもらった。
だが、突然先触れも無くやって来たフェリッツとジュディスに「人の好意を無駄にして」と文句を言われたのだ。
着たくもない服を自分の金で買わされている感もレイニーを落ち込ませるが、文句を言われるほうがレイニーにとっては辛い事。
「忘れ物をしたみたい。お店かな…出る時はあったから教会かしら」
「今から行かれるのですか?仕方ありませんね」
「ごめんね。キャロル」
「いいんですよ。使用人に謝っちゃいけません。お供しますよ。どうせまた趣味の悪い小物でしょう?」
「ありがとう。趣味が悪いかは・・・人それぞれかな?」
「悪いに決まってます」
「でも作った人は一生懸命作ったと思うのよ?」
神様は怠慢。
そう思ったレイニーだったが、あの趣味の悪い帽子を探すために教会に向かった事で人生が大きく変わる出来事に遭遇するとは思いもよらなかった。
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