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しなるワイヤーホイップ
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空気を変えたのは本元の元凶であるベネディクトだった。
ダンダンと大きな音をさせ、ホール内の視線を一気に集めたベネディクトは事もあろうか壇上の玉座に座り、王笏で床を打ち鳴らしたのだ。
「国王と王妃には蟄居して頂く。それでいいだろう?」
ベネディクトの言葉にデモステネスとオデッセアスは壇上に駆け上がり、ベネディクトの前に立った。
「何を言ってる。兄上は間もなく廃嫡の身ではないか」
「全ての原因を作っておいて、更に混乱をさせるのはやめてくれないか」
「くくくっ」
ベネディクトは不敵に笑った。
立ち上がり、王笏でデモステネスとオデッセアスを1発づつ打つと高らかに告げた。
「この場で私とブロスカキ公爵令嬢ディアセーラは婚姻をすると宣言をする。どうだこれでガラッシ侯爵も問題なく事業が出来る。ブロスカキ公爵とて娘を憂う事もない。そう、私が原因を作った。だから元に戻し収束をする。年だけを取った者は柔軟さが足りないんだ。元に戻せば全てが収まる。簡単な事が出来ないのは年寄りの悪い癖だ」
ベネディクトの言葉にブロスカキ公爵の後ろから出てきたのはディアセーラだった。
ディアセーラの姿を見てベネディクトの表情が緩んだが、直ぐに怪訝な顔つきになった。ディアセーラの纏っている色がペルセスの色である事に気が付いたからである。
「いい加減になさったらどうですの。王太子殿下」
「セーラ。こんな所まで意地を張らなくていい。これからは2人で手を取って歩んで行けばいいだけだ。それにその品のないドレスはなんだ?宝飾品も似合っていない。私がいつも贈っていた物を何故身につけないのだ」
「可愛くも無ければ要領も悪いからですわ。殿下に何時も言われてわたくし、己を見つめ直しましたの。おかげで人生の全てを捧げて悔いのない相手と巡り合えました。出会いのきっかけを作ってくださった王太子殿下には心から感謝しておりますわ」
「その人生の全てを捧げる相手は私だろう。そうか。傷心なのだな。私もセーラの心を痛めるような愚かな行為をしてしまった。それは素直に悪いと思っている。だから許そう。もういない相手に張り合っても仕方がない事だからね」
「妙な事を仰いますわね。夫はただ一人。それは貴方ではありません」
「夫?夫だと?」
「先程父の言葉を聞かれませんでしたの?娘婿と父は言ったのですけども。お祝いのお言葉でしたら有難く頂戴してその場に捨てさせて頂きますが、わたくしここに来る前に教会に届けを出して参りました。立派に人妻ですのよ?重婚はジェラティッド王国では犯罪ですわ。貴方が国王だろうと愚王だろうとご自由なさってくださって結構です。ただ国王には王妃側妃という妻が複数ですが、仮に王妃となったとして国王の他に夫と呼ぶ男性がいる王妃など聞いた事も御座いませんが?」
「本当にお前という女は私を苛立たせる。だがそれも可愛いと思えるのはセーラ。君だからだ。御託はいい。隣に来るんだ。死んだ者を弔うのは許してやろう。何時までも引きずられても困るがな」
「勝手に苛ついてくださいませ。但し見えない所で。男の未練ほど見苦しいものは御座いません。それから勝手にわたくしの夫を殺さないでくださいませね?わたくしと夫は生まれた時は違っても死ぬときは同じ。それくらい強い絆が御座いますの。わたくしが生きている以上、夫が儚くなる事は御座いませんわ」
ディアセーラはゆっくりと壇上に向かって歩きながら口元だけに微笑を浮かべた。
近寄ってくるディアセーラにベネディクトは数歩前に出て両手を差し出した。
バっとドレスのウエストから下をマントのように真上に靡かせると「ドゴン!!」不気味な音が響いた。
「どうです?次は外しません」
ベネディクトのつま先まで厚さが20シャンチはある壇上の石板に細長い穴が開いている。
壇上の床下は空洞になっているため、穴から風が吹き上げてくる。
ベネディクトが足元からゆっくりとディアセーラを見る。
騎士のようないでたちのディアセーラは鉄製の鞭だが、紐になっている部分に幾つもの小さなスコップの先に似た金属板がついていた。
「ワイヤーホイップと言いますのよ?王太子殿下はわたくしの夫を鞭で打ち据えました。司法に問いそれが正しい行為であったか諮問してもよろしいのですが、怒りで我を忘れてしまい、法などどうでもよろしいわ。夫には何度も鞭を与えたようですがわたくし、非力ですので1発で決めさせて頂きます。お覚悟よろしくて?」
ディアセーラが床に向かってワイヤーホイップをしならせ打ち付けると、当たった部分の床がごっそりと抉れていく。
ベネディクトは兵を呼んだ。大声でディアセーラを捕縛しろと叫ぶ。
しかし兵士たちは顔を見合わせ、どうしたものかと考えその場を動かなかった。
「何をしてるんだ!次期国王!現王太子の私が危機なのだ!それでも王家を守る兵士か!」
なおもベネディクトは叫ぶが兵士は誰一人として動かない。
小さく舌打ちをしたベネディクトは王笏を振り下ろした事でおそらく腕の骨が折れたであろうオデッセアスの帯剣していた剣を抜いた。
カチャリと音を立てて剣の先をディアセーラに向けた。
「セーラ。我慢には限界と言うものがある。これまでの無礼な物言い。その場に跪き許しを乞うなら許してやろう。愛情の裏返しというっ言葉もある。裏返ったのならまたひっくり返せばいいだけだ」
「うだうだと。男の未練ほどみっともない物はないのよ!」
ディアセーラがしならせたワイヤーホイップは蛇のようにうねりながらまず剣を折り、次のうねりでベネディクトの手首を打ち据えた。さらに次のうねりは倒れ込んだベネディクトの脇腹、足を打っていく。
「アガァッ!!ウガァッ!!アァー!」
「大丈夫ですわ。貴方のようにただ意味なく鞭の類は使いません。手首と足は適切な治療を受ければ日常生活には困りませんし、肋骨は5,6本砕いただけです。生きる事に支障は御座いませんわ。これも王太子妃教育の賜物ですわね。俗に襲われた時に首謀者が誰なのか吐かせるために血が出ないように訓練して急所も狙いませんのよ?お約束通り1発のみですがご希望であれば‥‥聞こえてませんわね?」
壇上で転げまわるベネディクトの捕縛を命じたのは王妃だった。
そしてベネディクトの次は国王。茫然としたまま国王は連行されていく。
兵士は負傷したデモステネス、オデッセアスそして最後に王妃も連行した。
王家はまず議会で次に司法院で裁判が決定した。
☆彡☆彡☆彡
次回 10時40分公開です (*^-^*)
ダンダンと大きな音をさせ、ホール内の視線を一気に集めたベネディクトは事もあろうか壇上の玉座に座り、王笏で床を打ち鳴らしたのだ。
「国王と王妃には蟄居して頂く。それでいいだろう?」
ベネディクトの言葉にデモステネスとオデッセアスは壇上に駆け上がり、ベネディクトの前に立った。
「何を言ってる。兄上は間もなく廃嫡の身ではないか」
「全ての原因を作っておいて、更に混乱をさせるのはやめてくれないか」
「くくくっ」
ベネディクトは不敵に笑った。
立ち上がり、王笏でデモステネスとオデッセアスを1発づつ打つと高らかに告げた。
「この場で私とブロスカキ公爵令嬢ディアセーラは婚姻をすると宣言をする。どうだこれでガラッシ侯爵も問題なく事業が出来る。ブロスカキ公爵とて娘を憂う事もない。そう、私が原因を作った。だから元に戻し収束をする。年だけを取った者は柔軟さが足りないんだ。元に戻せば全てが収まる。簡単な事が出来ないのは年寄りの悪い癖だ」
ベネディクトの言葉にブロスカキ公爵の後ろから出てきたのはディアセーラだった。
ディアセーラの姿を見てベネディクトの表情が緩んだが、直ぐに怪訝な顔つきになった。ディアセーラの纏っている色がペルセスの色である事に気が付いたからである。
「いい加減になさったらどうですの。王太子殿下」
「セーラ。こんな所まで意地を張らなくていい。これからは2人で手を取って歩んで行けばいいだけだ。それにその品のないドレスはなんだ?宝飾品も似合っていない。私がいつも贈っていた物を何故身につけないのだ」
「可愛くも無ければ要領も悪いからですわ。殿下に何時も言われてわたくし、己を見つめ直しましたの。おかげで人生の全てを捧げて悔いのない相手と巡り合えました。出会いのきっかけを作ってくださった王太子殿下には心から感謝しておりますわ」
「その人生の全てを捧げる相手は私だろう。そうか。傷心なのだな。私もセーラの心を痛めるような愚かな行為をしてしまった。それは素直に悪いと思っている。だから許そう。もういない相手に張り合っても仕方がない事だからね」
「妙な事を仰いますわね。夫はただ一人。それは貴方ではありません」
「夫?夫だと?」
「先程父の言葉を聞かれませんでしたの?娘婿と父は言ったのですけども。お祝いのお言葉でしたら有難く頂戴してその場に捨てさせて頂きますが、わたくしここに来る前に教会に届けを出して参りました。立派に人妻ですのよ?重婚はジェラティッド王国では犯罪ですわ。貴方が国王だろうと愚王だろうとご自由なさってくださって結構です。ただ国王には王妃側妃という妻が複数ですが、仮に王妃となったとして国王の他に夫と呼ぶ男性がいる王妃など聞いた事も御座いませんが?」
「本当にお前という女は私を苛立たせる。だがそれも可愛いと思えるのはセーラ。君だからだ。御託はいい。隣に来るんだ。死んだ者を弔うのは許してやろう。何時までも引きずられても困るがな」
「勝手に苛ついてくださいませ。但し見えない所で。男の未練ほど見苦しいものは御座いません。それから勝手にわたくしの夫を殺さないでくださいませね?わたくしと夫は生まれた時は違っても死ぬときは同じ。それくらい強い絆が御座いますの。わたくしが生きている以上、夫が儚くなる事は御座いませんわ」
ディアセーラはゆっくりと壇上に向かって歩きながら口元だけに微笑を浮かべた。
近寄ってくるディアセーラにベネディクトは数歩前に出て両手を差し出した。
バっとドレスのウエストから下をマントのように真上に靡かせると「ドゴン!!」不気味な音が響いた。
「どうです?次は外しません」
ベネディクトのつま先まで厚さが20シャンチはある壇上の石板に細長い穴が開いている。
壇上の床下は空洞になっているため、穴から風が吹き上げてくる。
ベネディクトが足元からゆっくりとディアセーラを見る。
騎士のようないでたちのディアセーラは鉄製の鞭だが、紐になっている部分に幾つもの小さなスコップの先に似た金属板がついていた。
「ワイヤーホイップと言いますのよ?王太子殿下はわたくしの夫を鞭で打ち据えました。司法に問いそれが正しい行為であったか諮問してもよろしいのですが、怒りで我を忘れてしまい、法などどうでもよろしいわ。夫には何度も鞭を与えたようですがわたくし、非力ですので1発で決めさせて頂きます。お覚悟よろしくて?」
ディアセーラが床に向かってワイヤーホイップをしならせ打ち付けると、当たった部分の床がごっそりと抉れていく。
ベネディクトは兵を呼んだ。大声でディアセーラを捕縛しろと叫ぶ。
しかし兵士たちは顔を見合わせ、どうしたものかと考えその場を動かなかった。
「何をしてるんだ!次期国王!現王太子の私が危機なのだ!それでも王家を守る兵士か!」
なおもベネディクトは叫ぶが兵士は誰一人として動かない。
小さく舌打ちをしたベネディクトは王笏を振り下ろした事でおそらく腕の骨が折れたであろうオデッセアスの帯剣していた剣を抜いた。
カチャリと音を立てて剣の先をディアセーラに向けた。
「セーラ。我慢には限界と言うものがある。これまでの無礼な物言い。その場に跪き許しを乞うなら許してやろう。愛情の裏返しというっ言葉もある。裏返ったのならまたひっくり返せばいいだけだ」
「うだうだと。男の未練ほどみっともない物はないのよ!」
ディアセーラがしならせたワイヤーホイップは蛇のようにうねりながらまず剣を折り、次のうねりでベネディクトの手首を打ち据えた。さらに次のうねりは倒れ込んだベネディクトの脇腹、足を打っていく。
「アガァッ!!ウガァッ!!アァー!」
「大丈夫ですわ。貴方のようにただ意味なく鞭の類は使いません。手首と足は適切な治療を受ければ日常生活には困りませんし、肋骨は5,6本砕いただけです。生きる事に支障は御座いませんわ。これも王太子妃教育の賜物ですわね。俗に襲われた時に首謀者が誰なのか吐かせるために血が出ないように訓練して急所も狙いませんのよ?お約束通り1発のみですがご希望であれば‥‥聞こえてませんわね?」
壇上で転げまわるベネディクトの捕縛を命じたのは王妃だった。
そしてベネディクトの次は国王。茫然としたまま国王は連行されていく。
兵士は負傷したデモステネス、オデッセアスそして最後に王妃も連行した。
王家はまず議会で次に司法院で裁判が決定した。
☆彡☆彡☆彡
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