蝉時雨〜雪空の下。夏、さんざんと

自らの誕生日を目前に控えた、12月。初雪混じりの朔風が吹き荒ぶ街で、五十嵐 庄司(28)は、一回り年下の一ノ瀬 碧(16)と出逢った。

人生にただ一枚、奇跡の一枚を撮影できたなら、自分のどう仕様もない人生にもケジメがつくのにと、街を彷徨う、プロカメラマンの端くれの庄司。

自殺志願者さながらに、桟橋の縁に佇んでいた碧。

庄司は知る。今までの人生の全ては、この少年に出逢うまでの、長い長い序章に過ぎなかったのだと。

季節外れの蜃気楼や陽炎の様に、ゆらゆらと。


「ねぇ、君」


雪空の下。
夏、さんざんと。


「この川、底が意外と深いから、飛び降りても簡単には死ねないと思うよ」


蝉時雨の音を聞く。


「……死なない」

「そっか。なら、危ないから、もうちょっとこっち来ようか。知らない人に、警察とか呼ばれちゃうよ」


俺の夏は。


「あのさ、いま暇?」


まだ、始まってもいなかった。


「モデルとか興味ない?」


*こちらの作品は、歌手 笹川美和様の『蝉時雨』という楽曲にインスパイアされた作品となっております。没入感が得られる為、是非、楽曲である『蝉時雨』にも親しんでみて下さい。
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