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第三十話 期待感

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「いよいよだな、アントン、スティング、ダーナ……」

「うむっ、テッドよ、遂にこの日がやってきのお……」

「ボスウウゥッ、ワイは楽しみだあああああっ!」

「……あはっ、なんだかあたいまでそわそわしてきちまったよ――」

「――おい、囚人ども、とっとと出発すっぞ! いつまでもべらべら喋ってんじゃねえっ!」

「「「「っ!?」」」」

 あくる日の早朝、俺たちは何故かご機嫌斜めの様子の看守のキルキルに連れられ、異次元の監獄のEエリアへと出発することになった。ちょうど食堂とは反対方向に大きな扉があって、そこから行けるみたいだ。

 その間、俺たちは左右の檻から絡みつくような恨めしい視線を感じながら、扉のほうへと長い通路を歩いていく。その中にはモヒカン頭のジャックの姿もあった。あとで知ったことだが、一度でも喧嘩で負けるとそのエリアで勝った回数がリセットされるみたいで、あれから後遺症もあって苦労してるらしい。

 ちなみに、三回勝った囚人が次のエリアに行く際は仲間を連れていける仕組みで、その場合は一つのエリアにつき最大で三人までになってるみたいだ。

「おいっ! 囚人番号121(俺)、97(アントン)、84(スティング)、65(ダーナ)! もう二度と、死んでも戻って来るなよ、もし約束破ったらぶっ殺してやるからな、おめーら!」

 キルキルが耳を塞ぎたくなるくらいの大声で叫んでくる。なんでこれだけ不機嫌なのかと思ったら、その目は鬼のように赤かった上、目元には涙が浮かんでいた。

 そうか……俺たちと別れるからだったのか。彼女はとにかく色々と荒っぽいし、恐ろしいなんてもんじゃないけど、心は温かい女性みたいだ。

 ただ、いつまでも別れを惜しんでたら本当にぶっ殺されそうってことで、俺たちは振り返ることもなく足早にEエリアへと入っていった。

 扉の向こうも左右に檻が並ぶ通路が続いていて、当然その中には凶悪そうな囚人たちがおり、いずれも俺たちに向かって鉄格子の間から睨みつけながら唾を吐きかけたり、ニヤニヤしながら卑猥な仕草をしたりと、挑発的な言動を繰り返していた。

「おらあっ、新人ども! こっちに来い、来やがれ、今すぐ、一瞬でバラバラに刻んでやっからよおっ!」

「誰でもいいから、ここに早く、来なさい! 私の◇△〇をてめえのアツアツの〇×△にたっぷり注いでやりますからっ! げひゃひゃひゃあっ!」

「たのちーっ! こっちはたのちーよおおっ! みんなああぁ、たのちーからこっちへおいでえぇぇっ!」

「うおおおおぉぉっ! 〇×▽! 〇×▽! ◇△×ーッ!」

「「「「……」」」」

 なんか、前のエリアより環境がヤバくなってるように見えるのは気のせいだろうか? いや、気のせいなんかじゃないな。大体、こっちには喧嘩で勝ちあがった連中がいるわけで、異次元の監獄で囚人王を目指すなんて、相当に頭がいかれてるか、あるいは滅茶苦茶強いかのどっちかしかないだろうしな……。

「なんていうかああぁ……ワイはワクワクしてきたぞおおおぉっ! チミたちってなんかすんごく楽しいなああああぁっ!?」

「「「「「……」」」」」

 目を輝かせたスティングの思わぬ返答に対し、Eエリアの囚人どもはいずれも困惑した様子。そうだった。このワニ頭も相当にクレイジーなやつだってことを忘れていた……。

 やがて、通路の突き当りに差し掛かろうとしていたとき、俺は自分たちの番号札が飾られてある檻を見つけた。これから最低でも三日間はここで暮らすわけだな。さっきは落ち着いて見ることができなかったが、Fエリアの檻と比べると一回り広いのがわかる。これなら四人でもそこまで窮屈じゃなさそうだ。

 俺たちはキルキルによって渡された鍵を使って中に入ったわけだが、檻の中だっていうのに開放感が凄くあって笑えてきた。

「結構広いじゃないか、なあ、アントン、スティング、ダーナ」

「うむ! ここならお茶の味も少しは上等になりそうじゃ。ふぉっふぉっふぉ」

「マジ、広いなあああっ! ボスについてきてよかったあぁ。ワイのお城、さいこおおおおおっ!」

「だねえ。中々いい部屋じゃないか。これならゆっくり寛げそうだよ」

 ここでみんなと一緒に新たな生活が始まると思うと、俺は期待感で胸がいっぱいになってきて、自分でも不思議な気持ちになる。Eエリアの囚人たちの様子を見た上でこう思うのは、頭がいかれたっていうより、それだけ監獄生活に馴染んできた証拠なのかもしれない。

 この先、どんな生活、戦いが待ち受けているのか、それはまったくわからないが、必ずや囚人王へと成り上がってみせるつもりだ。

 異次元の監獄での、俺たちの真の戦いはこれから始まる……。
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