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第17話 修行の意味

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「……そういえば師匠はなんでこの三つの修行を始めたんだろう?」


リンはマリアが考案した朝昼夕の稽古を思い出し、毎日同じ修行を繰り返し行わせている事に不思議に思う。朝の稽古は魔鎧を瞬時に発動させて行う防御の訓練、昼は大岩を破壊するための攻撃の訓練、夕方は吸魔水晶に魔力を吸収させる訓練、まずはこれらの訓練の意味を考えた。

朝の稽古に関してはリンに身を守る術を身に着けさせるため、昼の稽古はリンが攻撃の術を学ぶため、夕方の訓練はリンの魔力を伸ばすためだと言えば納得できる。しかし、どうしてもリンはそれだけの理由で訓練を続けているようには思えない。


(夕方の訓練はともかく、朝と昼の稽古は防御と攻撃の練習……だけじゃない気がする。特に攻撃の練習をさせるならわざわざ大岩だけを攻撃させる必要なんてないはず)


昼の稽古の大岩を破壊するための訓練の場合、リンに攻撃の方法を覚えさせるだけならば別に大岩を壊す事を強要する必要はない。攻撃の訓練ならば手っ取り早くリンに武芸を教えればいい。

マリアは棒術の心得の他にも色々な武芸を覚えていると本人が語った事があり、それなのに彼女はリンには武術の類は教えていない。正確には防御の稽古の時は身の守り方を教えてはくれるが、肝心の攻撃の手段は一度も教わった事がない。


「この大岩を破壊する事に何か意味があるのかな……」


リンは自分がいつも訓練に使っている大岩に視線を向け、この大岩はただの岩ではない。何か月もリンが光剣や魔鎧で殴り続けているのに傷をつける事ができたのが今日が初めてだった。

マリアによればこの森の中で最も硬い岩だと言っていたが、それにしては異常なまでに硬すぎる。普通の岩ぐらいならば今のリンでも壊す事ができるが、こちらの岩はあまりにも硬すぎて今のままでは一生砕けない。


「せめて魔鎧を発動した状態で身体強化ができればな……」


右手に魔鎧を発動させ、腕手甲に模した魔力を纏いながらリンは大岩に押し付ける。この状態で身体強化を行い、限界まで身体能力を強化した状態で打ち込めば強烈な一撃を与えられるかもしれない。

しかし、身体強化と魔鎧を同時に発動する事は不可能であり、どちらか片方しか発動はできない。魔鎧を纏った部分は身体強化は発動できず、だからといって身体強化を発動した状態では魔鎧は作り出せない。


「どうにか二つを両立できないかな……」


右手に発動した魔鎧を見つめながらリンは考え込み、目を閉じて考え込む。身体強化と魔鎧を発動させる方法を考えていると、後ろから物音が聞えた。


「グルルルッ……!!」
「あれ、ハク?戻ってき……えっ!?」


狼の唸り声を聞いたのでリンは最初はハクが戻って来たのかと思ったが、振り返るとそこには灰色の毛皮の狼が立っていた。以前にも遭遇した事がある「ファング」という名前の魔獣であり、しかも1匹ではなかった。

何時の間にかリンはファングの群れに取り囲まれ、逃げ場を失っていた。数匹のファングに取り囲まれたリンは冷や汗を流し、顔色を青くしながら後退る。


(しまった……こいつら、ハクと師匠がここに居たから現れなかったのか!?)


先ほどまではハクとマリアがリンの傍に居たので隠れていたらしいが、彼一人になった途端に邪魔者はいなくなって彼の命を狙いに来たらしい。リンはファングに取り囲まれて完全に退路を断たれ、どうするべきか悩む。


(落ち着け!!前の時とは違うんだ……今の僕なら戦えられる!!)


毎日の修行を思い出してリンは勇気を奮い立たせ、マリアが厳しい修行を課したのはこんな状況に追い込まれた時を想定して自分を強くしてくれたのだと信じる。リンは息を整えると、マリアとの稽古を思い出しながら身構えた。


「か、かかってこい!!」
「ガアアッ!!」
「ガウッ!!」


リンが声を上げると左右に立っていたファングが飛び掛かり、彼の左腕と右足に噛みつこうとしてきた。それに対してリンは瞬時に左足と右足に魔鎧を纏わせ、ファングの繰り出した牙を防ぐ。


「喰らうかそんなのっ!!」
「「アガァッ!?」」


噛み付こうとしてきた2匹のファングは魔鎧によって牙を阻まれ、逆に頑強な魔鎧に噛み付いたせいで自分達の牙が折れてしまう。訓練のお陰でリンの魔鎧の硬度は上昇しており、今では鋼鉄以上の強度を誇る。

リンは左腕に噛みついてきたファングを振り払い、右足に噛みついたファングを蹴飛ばす。2匹は牙が砕けた影響で怯み、口元を震わせながら動けなかった。その様子を見た他のファングは驚愕し、一方でリンは魔鎧の防御法が上手く言った事に興奮していた。


(ふ、防ぐ事ができた!!師匠の稽古のお陰だ!!)


攻撃を防ぐ事に成功したリンは嬉しく思い、だが喜んでばかりはいられなかった。状況は好転したとはいえず、むしろ仲間を傷つけた事にファングの群れは怒りを抱く。


『ガアアアッ!!』
「うわっ!?」


今度は数匹のファングが一斉にリンに飛び掛かり、全身に噛みつこうとしてきた。それを見たリンは咄嗟に魔鎧を発動させようとしたが、朝のマリアから言われた言葉を思い出す。

魔鎧を発動させるのは相手の攻撃を避け切れない時に限り、回避できる攻撃は魔鎧に頼らずに自力で回避するように注意された。リンはその言葉を思い出して不用意に防御するのではなく、敵の攻撃を見抜いて行動を行う。


(ここは避けるんだ!!)


左右に立っていたファングは先ほどの攻防で牙が砕けて動けず、リンは今ならば場所を移動する事ができた。他のファングの群れが到達する前にリンは右に避けると、丁度彼の後ろに存在した大岩に何体かのファングが頭をぶつける。


『ギャインッ!?』
「こっちだ!!」


攻撃を躱したリンは身体強化を発動させ、限界まで身体能力を強化すると跳躍を行う。人間離れした跳躍力でリンはファングの群れから距離を取ると、逃げ出した彼を見てファングの群れは慌てて追いかけようとした。


『ガアアッ!!』
「そうだ、こっちに来い……喰らえっ!!」


身体強化は長く発動する事はできないため、このまま逃げても追いつかれると思ったリンは迫りくるファングの群れに向き合う。彼は落ちていた石を拾い上げ、全力で投げつけた。


「ギャウッ!?」
「まだまだっ!!」
「ギャインッ!?」


リンが全力で投げつけた石が先頭を走っていたファングに的中し、続けて二番目に走っていたファングにも当たる。投石の技術はリンも自信があり、狩猟を行う際は石を投げつけて獲物を仕留めた事が何度か経験があった。

石が当たったファングは怯んで足を止めてしまうが、他のファングはリンの元に目掛けて駆けつける。流石に投石だけでは仕留めきれず、身体強化が切れる前にリンは次の手を打つ。


(何か使えそうな物は……あった!!)


周囲を見渡してリンは手ごろな大きさの枝が生えている樹木を見つけ、彼は枝に手を伸ばすと力ずくで折る。折った枝に生えている葉を引き剥がした後、手にした枝に魔力を注ぎ込んで光剣を作り出す。


「ガアアッ!!」
「このぉっ!!」


一番最初に飛び掛かってきたファングに対してリンは木の枝を利用して作り出した光剣を振り払うと、空中にてファングの身体が真っ二つに切り裂かれた。光剣の切れ味も以前とは比べ物にならず、一撃でリンはファングを倒す。


(何だこの切れ味……まさか、修行の成果か!?)


リン自身も光剣のあまりの切れ味に戸惑い、以前よりも格段に貢献を構築する魔力の密度が高まっていた。そのお陰で硬度が増して切れ味も鋭くなり、子供のリンでもファングを切り裂ける程の武器と化していた。
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