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第33話 落ちこぼれの治癒魔術師

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――馬車に乗ってイチノまで連れて行ってもらう事になり、街に着くまでの間にリンはハルカに色々な事を教わる。彼女はウルを気に入ったらしく、移動中の間も彼の身体を撫でながらリンの質問に応えてくれた。


「ハルカさんがさっき僕を治してくれた魔法……あれが回復魔法なの?」
「うん、そうだよ?私こう見えても治癒魔術師なんだよ~」
「クゥ~ンッ」


ウルの尻尾をもふもふしながらハルカはリンの質問に応え、先ほど彼女から回復魔法を施された時の事をリンは思い出す。


(あれが回復魔法か……僕の再生よりもずっと早く怪我が治った。やっぱり、本物の魔術師の魔法は凄いな)


リンも肉体の再生機能を強化して怪我を治す事はできるが、彼の場合は怪我を治すには時間が掛かり過ぎる。例えば身体強化を発動させた後に起きる筋肉痛を治す場合、少なくとも自力で治す場合は数十秒は掛かる。最低限に動けるまでに回復するだけならもっと短い時間でも大丈夫だが、完全に回復するには数十秒の時を要する。

再生を行う場合は魔力の消費量も大きく、怪我が酷いほどに完全に治るまでに時間と魔力を消費する。しかし、ハルカの回復魔法は数秒ほどでリンの筋肉痛と骨折などの大怪我も治した。

もしもリンがハルカの回復魔法無しで自力で肉体を治す場合、少なくとも彼女の回復魔法の何倍もの時間を要するし大量の魔力も失う。しかし、ハルカはリンを治療した後でも平気そうにしていた。


「あの、ハルカは疲れてないの?あんなに酷い怪我を治してくれたのに……」
「え?ううん、全然疲れてないよ?」
「そ、そう……」


ハルカはリンの言葉に不思議そうな表情を浮かべ、本当に疲れている様子には見えない。マリア以外の魔術師と出会ったのはリンも初めてだが、治癒魔術師というのは骨折程度の怪我を治しても平気なのかと考える。


「ハルカは治癒魔術師だって言ってたよね?それって普通の魔術師と違うの?」
「え?どういう意味?」
「えっと……なんて言えばいいかな、どういう魔法を使えるの?」


リンの質問にハルカは首を傾げ、質問の仕方が悪かったのかと考えたリンはハルカが扱える魔法を尋ねると、彼女は答えてくれた。


「私が今扱えるのは初級魔法のヒールだけだよ」
「初級魔法?」
「え?初級魔法を知らないの!?一番最初に覚える魔法の事だよ?」
「そ、そうなんだ……ちなみに初級魔法以外に魔法はあるの?」
「うん、初級魔法の次が中級魔法、その次が上級魔法、最後が最上級魔法だよ」


ハルカによれば魔法には段階が存在するらしく、彼女が覚えている魔法は初級魔法の「ヒール」だけだという。この魔法は治癒魔術師ならば誰もが覚える魔法らしく、彼女はあからさまに落ち込む。


「私、落ちこぼれだからまだ初級魔法しか扱えないんだ……同い年の治癒魔術師はもう中級魔法ぐらい覚えてるのに」
「え?落ちこぼれ!?あんなに凄い魔法なのに!?」
「凄くないよ、あれぐらいの事なら治癒魔術師なら誰だってできるよ……」
「ハルカ、そんなに自分を卑下するな。お前は才能は母親譲り、必ず一人前の治癒魔導士になれる」
「……治癒魔導士?」


話を聞いていたカイは落ち込むハルカを励まし、この時にリンはカイが「治癒魔師」ではなくて「治癒魔士」と呼んだ事に気付く。


「魔導士とは上級魔法まで習得した人間だけが名乗る事を許される名前です。ハルカはまだ未熟なので治癒魔術師としか名乗れませんが、その子の母親はイチノで一番の腕を誇る治癒魔導士でした」
「え、凄い!!」
「でも、私はお母さんと違って上手く魔法を扱えないんだ。初級魔法のヒールだって最近になってようやくできるようになった魔法だし……」
「ハルカ、何度も言っただろう。お前の魔力量は普通の魔術師とは比べられない程に多い。だから魔力の制御が難しく、上手く魔法の力に変換する事ができないと母親から言った事を忘れたか?」
「ううっ……」


話を聞く限りではハルカは母親譲りの才能を持ち合わせており、彼女は生まれた時から他の魔術師と比べても桁違いの魔力量を誇るらしい。リンの場合は魔力量は少なく、長年の鍛錬を費やした事で増やしてきたが、ハルカの場合は鍛錬無しでも膨大な魔力を持って生まれたらしい。

しかし、魔力を多く持って生まれた者が必ずしも恵まれているわけではなく、生まれた時から膨大な魔力を持つ人間の場合、魔力の制御が非常に難しくなる。ハルカは魔術師としての才能は申し分ないのだが、それを上手く生かし切れていない。


「お母さんは私ぐらいの年の頃から上級魔法も使えたのに……やっぱり、私は落ちこぼれだよ」
「……でも、ハルカさんのお陰で僕は助かった。怪我をした時にハルカさんが掛けてくれた回復魔法、温かくて気持ちよかった」
「え?」
「初級魔法だろうと関係ない、ハルカさんのお陰で僕は助かった。あんなに凄い魔法を使えるハルカさんが落ちこぼれなはずがないよ」
「そ、そう?なんだかそう言われると照れちゃうな……」
「ウォンッ」


リンの言葉にハルカは嬉しそうに頬を赤らめ、他人から魔法の事を褒められるのには慣れていない様子だった。その一方でリンの方はハルカの気持ちが痛いほどよく分かった。


(落ちこぼれ、か……僕も魔法使いになれないという点では似たような物か)


魔法使いを目指してリンは修行をし続けたが、結局は彼は魔法使いになる事はできないと悟った。どれだけ魔力を制御できるようになってもリンは魔法使いになる条件を満たせず、そういう意味では彼はハルカよりもかもしれない。

自分や他者を回復させる方法はリンも持ち合わせているが、落ちこぼれを自称するハルカの回復魔法と比べても格段に性能は劣る。しかし、だからといってリンは不貞腐れる事などなく、むしろ向上心を抱く。


(ハルカの回復魔法のように瞬時に怪我を回復させるようになればあんな目に遭わずに済んだ……もっと頑張ろう)


今よりもリンは魔力操作の技術を極め、何時の日かハルカの回復魔法に匹敵するぐらいのを身に付けると心の中に誓う。そのため、この機会にハルカが扱う回復魔法の事を詳しく教えてもらう。


「ハルカさん」
「あっ……さっきから気になってたけど、ハルカでいいよ?それに敬語じゃなくて普通に話していいよ?」
「え?じゃあ、えっと……ハ、ハルカ?」
「うん、何々?」


女子を呼び捨てにするのはリンも初めてのため、少し緊張気味に応えるとハルカは嬉しそうに笑顔を浮かべる。そんな彼女にリンはどぎまぎしながらも回復魔法の事を教えてもらう事にした。


「ハルカは回復魔法を扱う時、どんな風にやるの?」
「え?どんな風にって……リン君も治癒魔術師じゃないの?だから回復魔法が使えるんでしょ?」


リンの言葉にハルカは首を傾げ、彼女はリンがウルの治療を行ったのを見て彼も自分と同じ治癒魔術師だと思い込んでいた。しかし、実際にはリンは治癒魔術師どころか魔法使いですらない。


「……ハルカもやっぱり生まれた時に紋様を刻まれたの?」
「紋様?ああ、これの事?」
「ちょっ!?」


ハルカはリンの言葉を聞いていきなり胸元をはだけると、大きな胸を大胆に露出したハルカの行動にリンは慌てふためくが、ハルカは恥ずかしげもなく胸元を指差す。
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