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84.騎士団襲来⑥

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 私とリルフは、墓地の近くでナルジャーと対峙していた。
 誇り高き騎士である彼は、ここに来るまで一切手出しをしてこなかった。そういう部分は、終末を望む会とは大きく違う点である。

「さて……悪いが、一瞬で決着をつけさせてもらうぞ」
「何?」
「俺はかつて、自らのとある技術を封印した。それはあまりにも恐ろしく強大だったからだ。だが、この任務を命じられた際、それを再び開放するべきだと思った。世界を滅ぼす力を持った竜に対抗するためには、それ程の覚悟がいると思ったからだ」

 ナルジャーは、懐から筒状の何かを取り出した。それが何かはさっぱりわからないが、どう考えてもいいものではないことはわかる。

「ふん!」
「な、何……」

 取り出した筒状のものを、ナルジャーは自らの腕に突き刺した。あの形状であの使い方をするということは、あれは注射器なのだろう。
 こんな所で摂取する薬。それがまともなものであるとは考えられない。何か、非常に危険なものを、彼は摂取したのではないだろうか。

「ドーピングという言葉を知っているか?」
「ドーピング……確か、薬を使って身体能力を高めること……まさか!」
「そう、これはドーピングの一種だ。ただ、普通のドーピングではない。俺が自ら調合して作り上げた至高のドーピングだ」
「なっ……!」

 ナルジャーは、私の方に駆け出してきた。その挙動を見ただけでわかる。明らかに、常人のものではない。とても速いのだ。
 だが、私は同時に違和感を覚えていた。ナルジャーは、腰に携帯している剣を抜かないのだ。
 徒手空拳で攻めてくる可能性はない訳ではない。しかし、それなら剣を携帯している意味がないだろう。一体、彼は何をするつもりなのだろうか。
 そう思いながら、私は剣を抜く。相手が何をしてくるつもりでも、こちらは応戦するしかないのだ。

「あれ?」

 構えた私の目の前で、ナルジャーは突如消え去った。どこにいったか、それがわからない程に、彼は速かったのだ。

「お母さん! 後ろ!」
「後ろ……うっ!」

 リルフの言葉の直後、私は首元に痛みを覚えた。その痛みがなんであるかは、大体わかる。
 先程までの状況を考えて、これは注射器の痛みだろう。戦いの中、注射器で何かを投与される。それは、まず間違いなくいいことではない。

「うぐぅ……」

 ただ、私もただで攻撃を受けた訳ではなかった。注射器を刺されるのとほぼ同時に、相手の顔面にエルボーを叩き込んでやったのだ。
 流石に、顔にそんな攻撃を受ければ、ナルジャーもただでは済まない。彼は、私から距離を取り、鼻の辺りを押さえている。
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