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第1部

第3話 チュートリアルは蛇、そして脱出

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 血の跡のついた一本道を歩いていく。
 もしも今目の前から大蛇とかが飛び出してきたら私は一巻の終わりだ。

 なんて、流石にチュートリアルでそんなのないよね。

 道を抜けると少しだけ開けた環状の空間で、通路が何本も伸びている。

「どれか一つが正解の道…的な?」

 通路はどれも変わらない形状で、パッと見どれがどれだか分からない。なら適当に選ぶしかない。

「ど、れ、に、し、よ、う、か、な!」

 日本に代々伝わる取捨選択の言葉遊びを使用し、通路の一つを選んでズンズン進んで行く。そろそろ見飽きてきた岩肌に手を伝わせて歩く。

 すると奥から唐揚げのような香ばしい匂いが漂ってきた。

「まさかっ、ご飯が!?」

 それなりにお腹も空いていたため、特に考えもせず走り出す。
 通路は幾路にも分かれていたが、とにかく匂いのする方へとひた走る。走って行った突き当りで曲がり、曲がってすぐ目の前には、

「ぎゃわーーー!?」

 大蛇がいた。

 ぐるぐると蜷局を巻いて顔をだらりとこちらに垂らし、驚きのあまりすぐには気付かなかったが、何やら苦しそうな表情で唸っていた。
 よく見れば、全身が傷だらけで血塗れになっている。

「そ、そっか。唐揚げの匂いはこの蛇の血から来てたんだ………」

 まあそれはいいとして、怪我は大丈夫なんだろうか。

 そんなあたふたしている私に気付いたのか、大蛇はゆっくりと口を開いた。

「ひ、人の子か………?何故私たちの巣にいる…?」

「あ、えーと、目が覚めたらいつの間にか…みたいな?」

「なんだそれは。それよりも、私が怖くないのか?何故攻撃してこない」

「いやー、最初に見た時はびっくり驚いたけど、よく考えたら私って爬虫類好きだって思い出して。それに、蛇さん優しそうな顔してるから大丈夫かなって………それよりその怪我!大丈夫なの!?」

 私がそう言うと、大蛇は一瞬虚をつかれたような顔をした後、大きな口を開けて笑い出した。

「ハッハッハッハ!!ごほっ、ごほっ!いやなに、面白い人の子もいたものだ。そうだな、私がこうなったのはドジを踏んで人間の罠にかかってしまった故だが、死ぬ前に面白い人間に出会えて良かった。一度は助けられた恩のある人間を恨んだまま死ぬのは死に心地が悪いからな………ごほっ!」

「え!?死んじゃうの!?わ、私に何かできることは!!」

「………いいんだ。聖魔法でも持っていれば回復できたかもしれないがそんな都合よく持ってる訳が「え?持ってるよ?」ない…って、は?」

「聖魔法使えるよ?これがあれば蛇さん回復できるの?」

「あ、あぁ、まあ、持ってるなら出来るだろうが…」

「やったぁ!えーと、回復と言えば『ヒール』!!」

 ゲームにありがちな回復魔法のスキル名を叫びながら大蛇の傷口に手を当てる。傷が治っていく様子を強く思い浮かべると、全身から何かが蛇の方へ向かって流れだして行く感覚がする。

 体からどんどん力が抜けていくが、代わりに大蛇の傷口はみるみる内に治っていく。しばらくすると、ほぼ完璧に大蛇の体の傷は塞がった。

「やった!良かった!蛇さんを助けら…れ……あ、あれ?」

 体から力が抜けていく感覚に襲われ、意識が遠のいていく。

 目が覚めると、フカフカのぬくぬくの上に寝転んでいた。

「こ、ここは…?」

「うむ。目が覚めたか、人の子よ」

「あ、蛇さん」

 どうやら私は大蛇の体の上で眠っていたみたいだ。

「私は一体?」

「そなたは魔力の使い過ぎで倒れたのだ。まったく、私がその気が無かったからいいものの、私の仲間には人間を食べるやつもいると言うのに、私を完治させて、あんなにも無防備に気絶してしまうとは…ホントに面白いやつだ」

 あ、思い出してきた。

「完治したんだ!良かったー。会ったばかりだけど、助けられなかったら目覚めが悪くなるもん」

「フフフ…私は一度そなたの頭の中を覗いて見たい気分だ。どういう感性をしていたら見ず知らずの大蛇の命を救おうと思うのだろうか」

「うーん…なんでだろうね。私もわかんない」

「まあいい。ともかく礼を言おう。命を救ってくれて、心から感謝する。私の名前はイムナー、そなたは?」

「私はアカリ・トモサト。アカリって呼んで」

 とりあえずステータスに出ていた表記で名乗ってみた。

「アカリか。フフ…何故だろうな。私は蛇、そなたは人であり、全く別の種族だと言うのに、不思議とそなたに触れてると胸の奥が熱くなってくる。まるで恋をしてしまったみたいにな」

「ふぇ!?こ、恋!?」

 そういえば、『百合神の導き』に種族関係なしに恋愛感情を持つようになる、みたいなこと書いてた気がするけど、こういうことか。
 相手は蛇だけど、何と言うか、悪い気はしない。

「それはそれは、えへへ、嬉しい!」

「フフ。ホントに変わってるな。だが、そんなアカリだからこそ惹かれたのかもな。それより、助けてくれた礼がしたい。大したことはしてやれないが、出来ることなら返したい」

「え、えーと、じゃあ、お腹空いたからご飯食べたいなーとか言ってみたり」

「ふむ、人間の飯は流石に置いてないが………そうだ、少しそこで待っていろ」

「え?うん、分かった」

 そう言ってイムナーは通路の奥の方へと行ってしまったが、ほんの数分程度で帰ってきた。口に何か小さな袋を咥えている。その袋を私の前に落とした。

「お帰り。これは何?」

「それは人間が扱っている『金』と言うやつだ。頻繁に人間を襲っている仲間からもらったが私に光物を集める趣味はないしやり場に困っていたが、アカリにとっては有用なものだろう。飯を食うのにも使えるはずだ。礼に渡すものが私にとって不要になったものと言うのは何とも味気ないが、ここにはアカリの口に合うようなものがなさそうなのでな、一先ずはそれを贈ろう」

 袋を開くと、色とりどりの丸い硬貨が沢山入っていた。知識がないためこれがどのくらいの価値なのかわからないが、金なんてあればあるだけいい。

 袋に付いていた紐を腰に巻き付ける。

「ありがとう!すっごく嬉しい!!大事に使うね!」

「ぬっ…何だか照れるな」

 笑顔を向けるとイムナーは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
 なんだこれ、可愛いな。

「それで、なんでアカリはこんな所で彷徨っているのだ?何か目的があったりするのか?」

「あー、それが話すと長いんだけどー…とにかくここから出たいなーとは思ってる」

「そうか。なら私が出口まで運んで行ってやろう。ここは無駄に入り組んでいて私でさえたまに迷うからな。ささやかだが、これも礼の一つと受け取ってくれ」

「ホント!?すっごい助かる!!」

 そうして、なんだかんだ私は蛇の巣から脱出することに成功した。
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