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第7話 勇者、探偵業に手を伸ばす
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課長に案内されて、俺とニーアは庁舎内の書庫に向かった。
薄暗い倉庫に文書ファイルが詰め込まれているのを想像していたが、事件があったのは役所の資料が詰まっている書庫とは別の閲覧専用書庫。観光客が庁舎に保存されている貴重な文書が見れるように、庁舎の真ん中にある一室だった。
書庫の重そうな白い扉の前に立っていた女性職員が、俺とニーアに気付いて頭を下げる。
「はじめまして……フェリシアです」
疲れ切って口から魂が抜け出そうになっている彼女が、事件があった時に観光客に付き添った職員らしい。
「昨日、終業時間近く、男性の、観光客が来て、ゼロ番街の営業許可証を見たいと……そんな許可、信じられないとか、かなり懐疑的でした……でも、変な所は無かったと思います……」
元からテンションが低いキャラなのか、それとも夜通しの取り調べで疲れているのか、フェリシアは何度も聞かれたであろう言葉を途切れ途切れに吐き出した。
目の下に黒々と隈が浮かんでいて、元はぴっちり結ばれていたはずの三つ編みのお下げにも乱れが見える。そして、両手で抱えるほどの巨大な鍵を持っていた。
「……閲覧専用書庫に入るのには職員証が必要、です」
フェリシアが白い扉の横にある小さなボックスに首から下げた職員証を差し込むと、ぽん、と小さな音がして、扉がゆっくりと開いた。
フェリシアに続いて、俺とニーアは書庫の中に入る。
中は扉からは想像できないくらい狭い、中に何も無い白い正方形の部屋だった。
課長が入って来なかった理由がわかる。俺とニーアはともかく、中年の脂肪が腹に付いている課長が入って来たら暑苦しいくらい狭さで、誰かが隠れられそうな場所は無い。
正面の奥に、俺の身長くらいの細長い両開きの黒い扉があった。フェリシアは入って来た白い扉が閉まったのを確認してから、抱えていた巨大な鍵を黒い扉の鍵穴に差し込む。
「この鍵は、庁舎の受付に飾ってあります……誰でも見える所なので、なくなったら、すぐ気付きます」
フェリシアが鍵を半回転させると、扉に番号が書かれたパネルが浮かび上がった。ピピピピピピピピと目にも止まらぬ速さでフェリシアは何かを打ち込む。
「ここで管理番号とパスワードを、入力、します……」
ゴゴゴゴゴと、床の下で何かが動く僅かな振動と音がする。フェリシアが入力した番号で地下にしまってある文書が呼び出されて、扉の向こうに上がって来る仕組みらしい。
音が黒い扉の向こうで止まってから、フェリシアは扉に両手を掛けて重そうに開ける。扉の中には人がギリギリ入れそうな空間があり、黒い布張りの台が設置されていてその上にクリアケースが乗っていた。
「空っぽ、ですね。今打ち込んだ管理番号が間違っているとか、ありませんか?」
「一晩かけて、全部調べた……でも、許可証が入っているケースはない」
重厚なカラクリの書庫を見ていると、俺は前世で見た何かをうっすらと思い出していた。
あの、骨を入れておく、なんと言ったか、そう、自動搬送式の納骨堂に似ている。
こんな言葉だけはすぐに出て来るのが、ぱっとしなかった俺の前世らしい。
前世で死ぬ前に、永代供養付きのを買おうと給料をコツコツ貯めていた。資料請求をしたのは覚えている。結局、死ぬ前に買ったか?いや、買ってないな。
「もしかして、無いって気付いたのが昨日なだけで、ずっと前に盗まれてた可能性もありますよね」
「そう、かも……でも、何の騒ぎも起こさずに盗むのは、無理……だと思う」
「書庫の中に入るだけなら、職員証を盗めば誰でも入れそうですけど。黒い扉の方に強い魔術がかけられているからですか?」
「それ以外にも、仕掛けがある、から。前に鍵穴の修理した時、魔術を解いても、開けるのに半日かかったって……それに、使用中のケースは、一定時間上げておくと、警報が鳴る……」
「あ!じゃあ、魔法で警報の音を消して、半日かけて盗むっていうのはどうでしょう?」
「難しい、かな……観光客が、一日に10人くらい見に来るから」
俺は前世では天涯孤独で親類が誰もいなかったから、そのまま死んだら自動的に無縁仏として共同墓地に埋葬される。
死んだ後の事などどうでもいいけれど、せめて墓くらいは好きなのを準備しようと思っていた。
参拝してくれる人なんて誰もいないけれど、少し見栄を張ってお墓のマンションと言われる自動搬送式納骨堂にしようと決めていたのに。良い感じの所をいくつか候補に挙げていたのに。そうか、間に合わなかったか。
「やっぱり、職員証と鍵をつかって職員が隙を見て盗んだ、ということでしょうか」
「鍵の使用は、帳簿で管理されているし、書庫に入る時の職員証も記録されてるけど……」
「いつ無くなったか分からないと、調べようがないですね……ウラガノさんが入った記録はありましたか?」
「無いけど……彼、鍵がかかっていても、入れる、でしょ」
「そうですね……ウラガノさん、魔術もですけど、その辺の金庫ならヘアピンとドライバーで開けられるそうですから」
勇者は、死んだ後は壮大に葬式が行われ、所縁の地に墓が作られる。
街付の勇者だと、一番長く務めた街や、最後に担当した街に作られる事が多い。俺はいつか首都アウビリスに栄転する予定だから、今のところは首都の中央公園の真ん中がいいと考えている。
自己顕示欲の強い勇者は墓の代わりに自分の姿を模した銅像を建てるけれど、どうせ鳥の休憩所になって糞まみれになるだけだ。
俺は自分の見た目に自信が無いわけではないが、シックな感じの記念碑がいいと養成校を卒業する時に教師に言い残して来た。
卒業が決まっただけで最期まで勇者として勤め上げられるかわからないのに気が早過ぎると呆れられた。しかし、俺は一度死んでいるから、その辺りに抜かりは無い。
「あー、でも、書庫に入って許可証が出て来ても、盗むにはケースを開けなきゃいけないんですよね」
「これも、魔術。開けるには……許可証の場合、書類に記載された3人のサインが必要」
「3人、と言いますと?」
「ホーリア市長とゼロ番街支配人と……ネイピアス市長。支配人は、当然、サインなんてしてないって……」
記念碑に彫る言葉は、本人が決められるが、それ専門のゴーストライターがいて考えてくれるらしい。死後も言い伝えられる言葉を決めるのは荷が重いから、俺は外注する予定だ。
だた、注意しなくてはならないのは、生前に一度も言った事がない言葉を突然記念碑に彫るわけにはいかないから、生きている間、何かの節目とか決め所とかで言わなくてはならない点だ。
格言や名言は、言った本人が死んでから重みが出る。
生きてる時に度々言っていたら、決め台詞にするつもりかな?と察されてしまうし、余りにもクサい言葉だったら口に出すのをためらってしまう。
いい塩梅の言葉を作ってもらうために、値が張るライターに注文しなくてはならない。戒名のようなものだから、必要経費だと割り切っている。
立派な墓を作ってもらうというのも、難しいものだ。
+++++
閲覧専用書庫に一定時間以上入っていると白い方の扉が閉まって閉じ込められてしまうらしい。フェリシアがすぐにケースを下げて扉を閉めて、俺達は書庫を出た。
ニーアは白い扉を見つめながら、難しい顔をして唸っている。ウラガノが無実の証拠やリコリスと交渉する材料が見つけられなかったらしい。
「なんだか、盗むのが不可能な気がしてきました。勇者様、何か分かりましたか?」
「は?」
突然話を振られたせいで気の抜けた返事をしてしまい、ニーアは「もしかして寝てました?」と鋭く睨んで来る。ニーアの探偵の勘が、早くも冴え渡っているようだ。
「これだけのセキュリティだが……ウラガノなら盗めるかもな」
書庫の外で待っていた課長が、腕を組んで深く頷きながら言った。課長はどちらかと言うとウラガノを犯人にすることに賛成らしい。
同期を犯人扱いされて、ニーアは流石にムッとした顔で課長に詰め寄った。
「そんなはずないです!ウラガノさん、ゼロ番街の女の子に貢ぎすぎて私に借金してるんですよ!店が営業停止になるような事、するはずないじゃないですか!」
「女の子が振り向いてくれなくて、自暴自棄になって……という事はあり得ないか?」
課長に言われて、ニーアは言葉に詰まった。いくら貢いでも相手にしてもらえなかったら、働けなくなった女の子が頼って来る事を期待して、店を営業停止に追い込むという強行手段に出る可能性もあるだろう。
しかし、俺はウラガノをよく知らないけれど、彼がそんな策略を巡らせる程の知恵があるとは思えなかった。
「どうせ……どうせ、私が悪いって言いたいんでしょー!!」
死んだ瞳で課長とニーアの言い合いを眺めていたフェリシアが、突然叫んで膝から崩れ落ちた。両手で顔を覆って声を上げて泣き出す。
昨日の夕方から、ずっと犯人だと疑われて、事件を責められて、とうとう限界が来たようだ。倒れかけたフェリシアをニーアが抱き締めて支えた。
「フェリシアさん、休んだ方がいいですよ。大丈夫です。勇者様が絶対に犯人を見つけて、取り返してくれますから。ね!勇者様」
ニーアにマントを引かれて、俺はズレて顔に被って来るマントを抑えながら、静かに額に指を当てる。話にあんまり付いて行けてないが、真剣に考えているポーズだけは見せておこう。
「犯人は別として、無いなら仕方ない。再発行すればいい」
「あの、勇者様……それが出来るなら、最初からそうしてると思いますよ」
ニーアの言葉に、課長が苦虫を噛み潰したような顔で頷いていた。事件が発生してから職員が一晩遊んでいたと言うつもりはないが、勇者でなければ出来ない事がこの世には多々ある。例えば公文書の再発行とか。
しかし、勇者に不可能はない。
薄暗い倉庫に文書ファイルが詰め込まれているのを想像していたが、事件があったのは役所の資料が詰まっている書庫とは別の閲覧専用書庫。観光客が庁舎に保存されている貴重な文書が見れるように、庁舎の真ん中にある一室だった。
書庫の重そうな白い扉の前に立っていた女性職員が、俺とニーアに気付いて頭を下げる。
「はじめまして……フェリシアです」
疲れ切って口から魂が抜け出そうになっている彼女が、事件があった時に観光客に付き添った職員らしい。
「昨日、終業時間近く、男性の、観光客が来て、ゼロ番街の営業許可証を見たいと……そんな許可、信じられないとか、かなり懐疑的でした……でも、変な所は無かったと思います……」
元からテンションが低いキャラなのか、それとも夜通しの取り調べで疲れているのか、フェリシアは何度も聞かれたであろう言葉を途切れ途切れに吐き出した。
目の下に黒々と隈が浮かんでいて、元はぴっちり結ばれていたはずの三つ編みのお下げにも乱れが見える。そして、両手で抱えるほどの巨大な鍵を持っていた。
「……閲覧専用書庫に入るのには職員証が必要、です」
フェリシアが白い扉の横にある小さなボックスに首から下げた職員証を差し込むと、ぽん、と小さな音がして、扉がゆっくりと開いた。
フェリシアに続いて、俺とニーアは書庫の中に入る。
中は扉からは想像できないくらい狭い、中に何も無い白い正方形の部屋だった。
課長が入って来なかった理由がわかる。俺とニーアはともかく、中年の脂肪が腹に付いている課長が入って来たら暑苦しいくらい狭さで、誰かが隠れられそうな場所は無い。
正面の奥に、俺の身長くらいの細長い両開きの黒い扉があった。フェリシアは入って来た白い扉が閉まったのを確認してから、抱えていた巨大な鍵を黒い扉の鍵穴に差し込む。
「この鍵は、庁舎の受付に飾ってあります……誰でも見える所なので、なくなったら、すぐ気付きます」
フェリシアが鍵を半回転させると、扉に番号が書かれたパネルが浮かび上がった。ピピピピピピピピと目にも止まらぬ速さでフェリシアは何かを打ち込む。
「ここで管理番号とパスワードを、入力、します……」
ゴゴゴゴゴと、床の下で何かが動く僅かな振動と音がする。フェリシアが入力した番号で地下にしまってある文書が呼び出されて、扉の向こうに上がって来る仕組みらしい。
音が黒い扉の向こうで止まってから、フェリシアは扉に両手を掛けて重そうに開ける。扉の中には人がギリギリ入れそうな空間があり、黒い布張りの台が設置されていてその上にクリアケースが乗っていた。
「空っぽ、ですね。今打ち込んだ管理番号が間違っているとか、ありませんか?」
「一晩かけて、全部調べた……でも、許可証が入っているケースはない」
重厚なカラクリの書庫を見ていると、俺は前世で見た何かをうっすらと思い出していた。
あの、骨を入れておく、なんと言ったか、そう、自動搬送式の納骨堂に似ている。
こんな言葉だけはすぐに出て来るのが、ぱっとしなかった俺の前世らしい。
前世で死ぬ前に、永代供養付きのを買おうと給料をコツコツ貯めていた。資料請求をしたのは覚えている。結局、死ぬ前に買ったか?いや、買ってないな。
「もしかして、無いって気付いたのが昨日なだけで、ずっと前に盗まれてた可能性もありますよね」
「そう、かも……でも、何の騒ぎも起こさずに盗むのは、無理……だと思う」
「書庫の中に入るだけなら、職員証を盗めば誰でも入れそうですけど。黒い扉の方に強い魔術がかけられているからですか?」
「それ以外にも、仕掛けがある、から。前に鍵穴の修理した時、魔術を解いても、開けるのに半日かかったって……それに、使用中のケースは、一定時間上げておくと、警報が鳴る……」
「あ!じゃあ、魔法で警報の音を消して、半日かけて盗むっていうのはどうでしょう?」
「難しい、かな……観光客が、一日に10人くらい見に来るから」
俺は前世では天涯孤独で親類が誰もいなかったから、そのまま死んだら自動的に無縁仏として共同墓地に埋葬される。
死んだ後の事などどうでもいいけれど、せめて墓くらいは好きなのを準備しようと思っていた。
参拝してくれる人なんて誰もいないけれど、少し見栄を張ってお墓のマンションと言われる自動搬送式納骨堂にしようと決めていたのに。良い感じの所をいくつか候補に挙げていたのに。そうか、間に合わなかったか。
「やっぱり、職員証と鍵をつかって職員が隙を見て盗んだ、ということでしょうか」
「鍵の使用は、帳簿で管理されているし、書庫に入る時の職員証も記録されてるけど……」
「いつ無くなったか分からないと、調べようがないですね……ウラガノさんが入った記録はありましたか?」
「無いけど……彼、鍵がかかっていても、入れる、でしょ」
「そうですね……ウラガノさん、魔術もですけど、その辺の金庫ならヘアピンとドライバーで開けられるそうですから」
勇者は、死んだ後は壮大に葬式が行われ、所縁の地に墓が作られる。
街付の勇者だと、一番長く務めた街や、最後に担当した街に作られる事が多い。俺はいつか首都アウビリスに栄転する予定だから、今のところは首都の中央公園の真ん中がいいと考えている。
自己顕示欲の強い勇者は墓の代わりに自分の姿を模した銅像を建てるけれど、どうせ鳥の休憩所になって糞まみれになるだけだ。
俺は自分の見た目に自信が無いわけではないが、シックな感じの記念碑がいいと養成校を卒業する時に教師に言い残して来た。
卒業が決まっただけで最期まで勇者として勤め上げられるかわからないのに気が早過ぎると呆れられた。しかし、俺は一度死んでいるから、その辺りに抜かりは無い。
「あー、でも、書庫に入って許可証が出て来ても、盗むにはケースを開けなきゃいけないんですよね」
「これも、魔術。開けるには……許可証の場合、書類に記載された3人のサインが必要」
「3人、と言いますと?」
「ホーリア市長とゼロ番街支配人と……ネイピアス市長。支配人は、当然、サインなんてしてないって……」
記念碑に彫る言葉は、本人が決められるが、それ専門のゴーストライターがいて考えてくれるらしい。死後も言い伝えられる言葉を決めるのは荷が重いから、俺は外注する予定だ。
だた、注意しなくてはならないのは、生前に一度も言った事がない言葉を突然記念碑に彫るわけにはいかないから、生きている間、何かの節目とか決め所とかで言わなくてはならない点だ。
格言や名言は、言った本人が死んでから重みが出る。
生きてる時に度々言っていたら、決め台詞にするつもりかな?と察されてしまうし、余りにもクサい言葉だったら口に出すのをためらってしまう。
いい塩梅の言葉を作ってもらうために、値が張るライターに注文しなくてはならない。戒名のようなものだから、必要経費だと割り切っている。
立派な墓を作ってもらうというのも、難しいものだ。
+++++
閲覧専用書庫に一定時間以上入っていると白い方の扉が閉まって閉じ込められてしまうらしい。フェリシアがすぐにケースを下げて扉を閉めて、俺達は書庫を出た。
ニーアは白い扉を見つめながら、難しい顔をして唸っている。ウラガノが無実の証拠やリコリスと交渉する材料が見つけられなかったらしい。
「なんだか、盗むのが不可能な気がしてきました。勇者様、何か分かりましたか?」
「は?」
突然話を振られたせいで気の抜けた返事をしてしまい、ニーアは「もしかして寝てました?」と鋭く睨んで来る。ニーアの探偵の勘が、早くも冴え渡っているようだ。
「これだけのセキュリティだが……ウラガノなら盗めるかもな」
書庫の外で待っていた課長が、腕を組んで深く頷きながら言った。課長はどちらかと言うとウラガノを犯人にすることに賛成らしい。
同期を犯人扱いされて、ニーアは流石にムッとした顔で課長に詰め寄った。
「そんなはずないです!ウラガノさん、ゼロ番街の女の子に貢ぎすぎて私に借金してるんですよ!店が営業停止になるような事、するはずないじゃないですか!」
「女の子が振り向いてくれなくて、自暴自棄になって……という事はあり得ないか?」
課長に言われて、ニーアは言葉に詰まった。いくら貢いでも相手にしてもらえなかったら、働けなくなった女の子が頼って来る事を期待して、店を営業停止に追い込むという強行手段に出る可能性もあるだろう。
しかし、俺はウラガノをよく知らないけれど、彼がそんな策略を巡らせる程の知恵があるとは思えなかった。
「どうせ……どうせ、私が悪いって言いたいんでしょー!!」
死んだ瞳で課長とニーアの言い合いを眺めていたフェリシアが、突然叫んで膝から崩れ落ちた。両手で顔を覆って声を上げて泣き出す。
昨日の夕方から、ずっと犯人だと疑われて、事件を責められて、とうとう限界が来たようだ。倒れかけたフェリシアをニーアが抱き締めて支えた。
「フェリシアさん、休んだ方がいいですよ。大丈夫です。勇者様が絶対に犯人を見つけて、取り返してくれますから。ね!勇者様」
ニーアにマントを引かれて、俺はズレて顔に被って来るマントを抑えながら、静かに額に指を当てる。話にあんまり付いて行けてないが、真剣に考えているポーズだけは見せておこう。
「犯人は別として、無いなら仕方ない。再発行すればいい」
「あの、勇者様……それが出来るなら、最初からそうしてると思いますよ」
ニーアの言葉に、課長が苦虫を噛み潰したような顔で頷いていた。事件が発生してから職員が一晩遊んでいたと言うつもりはないが、勇者でなければ出来ない事がこの世には多々ある。例えば公文書の再発行とか。
しかし、勇者に不可能はない。
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