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第32話 勇者、候補者を支援する
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縄張り意識の強い獣人は、選挙の時でも獣人以外の人間が関わることを酷く嫌う。
だから、オグオンを筆頭に勇者が3人も出て来ると、今がチャンスとばかりにアルルカ大臣が選挙の不正を訴えて来るかもしれない。
しかし、コルダは50年振りに現れたアルルカ大臣の敵対候補。アルルカ大臣の過激な支持者に命を狙われる可能性がある。
だから、勇者3人が護衛に付いてもおかしくないし、偶然にも首都で一番セキュリティが強固な宿泊施設が勇者養成校のゲストルームだからそこに泊まるのも当然。
苦しい言い訳のような気がするが、政界ではそれが通ってしまう。
「しかし、これから候補者集めだの広報活動だのを俺とポテコが手伝うと、ホーリアに勇者がいなくなる」
コルダは候補者の登録をしただけで疲れ切ったようで、尻尾も耳も項垂れたままゲストルームに入って行った。
落ち込んでいたから誰か傍に付いた方がいいように思うが、養成校のゲストルームは護衛の必要もないから俺とポテコは高級ホテルのようなゲストルームの廊下で手持ち無沙汰に立っていた。
「いや、とりあえず必要なのは今日だけだ」
ご苦労だった、とオグオンはさっさと俺達を帰らせようとしている。候補者登録は単なる事務手続きなのに付き添っていて、もしかして珍しくオグオンは暇なのかと思ったがやはり忙しいらしい。
「票集めはしないのか?」
俺は出馬の経験がないけれど、選挙に出るというのは大変なんだろう。
市議の候補者の親が近所の人に片っ端から頭を下げて投票をお願いするという地獄のような話を聞いたことがある。だから、これから10日後の選挙に向けて、コルダは国内の獣人のコミュニティやら会議体やらを回って顔を売りに行くのかとうんざりしていた。
それに、選挙に出るには何らかの公約というか志のような物が必要なはずだ。コルダはラジオで音楽番組しか聞いていないし、新聞は巨大な折り紙だと思っているけれど、その辺りはオグオンが考えてくれるのだろうか。
オグオンが答える前に、ポテコが俺の横でぽつりと呟いた。
「ああ、もう終わってるってことか」
「どういう意味だ?」
「コルダとアルルカ大臣以外に候補者がいなかったから、何もしなくてもアルルカ大臣が嫌いな人はコルダに投票してくれるってこと」
それはつまり、コルダの味方ではなくてアルルカ大臣の敵が消去法でコルダに票を入れるということだ。
そんな適当なやり方で当選したとしても、大臣になった後にコルダが辛い思いをするだけだ。しかし、オグオンが何も言わないということは、ポテコが言う事が正解なのだろう。
「当選させるだけならそれでもいいと思うけど……」
「問題無い。コルダは『養殖』だ」
オグオンの言葉の意味が理解できなかったが、少し考えて卑怯な思考にすぐに気付く。
見た目は白銀種のコルダに、普通の獣人たちは従うだろう。しかし、白銀種が見ればコルダが養殖だとすぐに見抜かれる。
獣人たちの上に立ち、白銀種の言いなりになる。アルルカ大臣よりも使い勝手のよい、白銀種にとって便利な大臣という訳だ。
「先輩」
コルダが察して呼びかけたが、俺は無視した。
オグオンが否定することを期待して待っていたが、オグオンは俺と視線を合わせないまま一度頷く。
「コルダには、全て話してある」
ふざけるのも大概にしろ、とオグオンに詰め寄ろうとした瞬間、ポテコの裏拳が俺の顔面に炸裂した。
俺の勢いと日頃ケンカをしないせいで加減がわからないポテコの力はなかなかの威力だ。俺が顔面を抑えて呻いている間に、オグオンが次の仕事に立ち去ろうとする。
「もう少し、周りを信頼してみてもいいんじゃないかな」
「ああ、肝に銘じておく」
ポテコの嫌味に珍しく皮肉を含んだ口調でオグオンがそう言って姿を消す。それを見送ってから、俺はやっと痛みが引いて話せるようになった。
涙目で睨んで来た俺を見て、加害者のポテコは迷惑そうに溜息を吐く。
「先輩は、すぐ怒る」
「当然だろ。コルダはまだ子どもなんだぞ」
「教官だけじゃなくて先輩も。もっと人を信じてもいいんじゃないの」
「信じる?誰を?」
「先輩、鼻血」
誰のせいだと思ってるんだと顔を抑えた隙に、ポテコは移動魔術で消えていた。
鼻血程度、治癒魔術ですぐに治せたが、そんな簡単にポテコにやられた怪我を無かったことにしてやるのも気分が悪い。俺はティッシュで鼻を抑えたまま、養成校の奥をうろうろしていた。
ゲストルームは事務室よりも奥にあり、在籍している間も入ったことがなかった。ゲストルームの来客向けの雰囲気から、徐々に薄暗い殺風景な廊下に変わっていた。
出口もわからないし鼻血も止まったし、そろそろ移動魔術でわかる所まで戻ろうかと考えた時、廊下の角から大量の本を抱えた青年がふらふらと姿を現した。
積み上げた本で前が見えていないようで、そのまま壁に激突して本と一緒に床に倒れた。
「あぁーー……!」
情けない声を上げて転がって、眼鏡が外れて俺の足元に飛んで来る。そして、床に座ったまま眼鏡、眼鏡、と床を撫でて探していた。
ついさっきまで鼻血を出していた俺はその哀れさに親近感を覚えて、分厚いレンズが嵌った眼鏡を拾い上げてその青年に近付いた。
「これだろう」
「ひぃッ!あ……、ありがとうございます……ッ」
青年はビクリと怯えつつも俺から眼鏡を受け取って顔にかけた。そして、俺の顔を見ると「ああッッ!」と廊下に響くような声を上げた。驚き過ぎて声量の調整が出来ていない。
「ホ、ホーリア様ですか?」
養成校の後輩かと思ったけれど、事務室の職員と同じ服を着ているから生徒ではない。俺は誰だか思い出せないが、事務室の職員には度々迷惑を掛けているから顔も覚えていないと知られるのは今後の関係に悪影響だ。
「ああ、久しぶりだな。ウルラスの退任式以来か?」
「いいえ、ホーリア様とは初対面です」
要らぬ見栄を張って余計な恥をかいた所で、俺は改めて青年の顔を眺めた。
見た事がある気がするけれど、誰だか思い出せない。初対面ということは、不人気投票で3位になってしまったから無駄に顔だけ売れてしまったのかと思ったけど、しばらく眺めていると、頬に肌と同じ色の大きな絆創膏を付けているのに気付く。
俺が変装したノーラの彼氏のトルヴァルだ。
「そうか、今は養成校にいるのか」
「はい、ここの職員として研究を続けています」
オグオンが持っていた写真は、余所行きの顔だったらしい。薄汚れた白衣を着て、ぐしゃぐしゃの髪と隈の浮かんだ顔は2、3日は風呂や睡眠といった人間としてまともな生活をしていない様子だった。
多分食事もしていないんだろうと、試しにポケットに入れていたパイを差し出してみると相当お腹を空かせていたのか無意識の内に受け取って食べ始める。
あのパーティーに潜入するために俺は養成校で鍛えた変装を披露したが、その瓶底のような眼鏡だけ付けておけば誰にも怪しまれなかったと思う。
「トルヴァルの研究分野は?」
「人体に影響のない程度の着衣可能魔術です。例えば勇者のマント。これにも我が一族の開発した術式が織り込まれています」
「それはすごいな」
俺はコート兼部屋着兼寝巻きになっている自分のマントを見下ろした。
正装として全ての勇者に支給されている。ただの布のように見えて、普通のナイフは通さないし大抵の魔術は跳ね返すことができる。あと、俺の考えでは洗濯をしなくても綺麗なままだ。
そんなに小まめに洗濯をしなくてもいいよな、と開発者に尋ねようとしたが、トルヴァルはパイを食べつつ俺のマントを捲って眺めていた。
「通常の服は完成後に術をかけていますが、それでは短時間しかもたないので、織りの段階で術式を入れるんです。しかし、繊維に術式を入れると着用者の負荷が大きくなるので、布の状態で完成するように調整して……ただ、服としての完成度を考えると術式の構成が難しいのです。例えば裾の辺りは動きが多いですが術の消耗は少ないので今でも十分魔力を維持していますが、特に袖の辺りは消耗しやすくて。布としての消耗と魔力の消耗とは別物なので調整が必要なんです。勇者のマントは1色なのは楽ですが、デザインが固まっているのが難しい所ですね。着用者の身長で作るのでその度に術式と織りの構成を変えて……」
トルヴァルが早口で語り出し、最初は聞いていたが徐々に専門用語が混じって来てついて行くのに諦めた。
勇者の制服で使われているくらいの魔術なら、由緒正しい魔術師の家の人間のはずだ。それなのに退魔の子とは、色々と苦労があっただろう。
しばらく語っていたトルヴァルは、ふと思い出したように「ところで、」と一息吐いた。
「ノーラはどうしていますか?」
「……ああ、元気にしている」
違う事を考えていた俺は、反応が遅れたがすぐに答えた。
ノーラはアムジュネマニスで上手くやっているようで、この前の手紙には暇な貴族を集めて料理サークルを立ち上げたら飲食業界の株価が変動したとかいう話が書かれていた。
「よかった」
俺がそれを教えると、トルヴァルは力の抜けた笑顔を見せる。そして、また研究者の顔に戻って俺のマントを弄りながらつらつらと俺が付いて行けない話を再開させた。
ノーラは、トルヴァルが可哀想だから付き合っていただけで、一般的な恋人同士とは違っていた。しかし、研究分野の話を中断してまで尋ねて来るのだから、きっとそれなりに想い合った仲なんだろう。
ノーラは自己犠牲の精神が過ぎると心配していたが、彼女のしたことは無駄ではなかったんだ、とトルヴァルの話を聞き流しながら考えていた。
だから、オグオンを筆頭に勇者が3人も出て来ると、今がチャンスとばかりにアルルカ大臣が選挙の不正を訴えて来るかもしれない。
しかし、コルダは50年振りに現れたアルルカ大臣の敵対候補。アルルカ大臣の過激な支持者に命を狙われる可能性がある。
だから、勇者3人が護衛に付いてもおかしくないし、偶然にも首都で一番セキュリティが強固な宿泊施設が勇者養成校のゲストルームだからそこに泊まるのも当然。
苦しい言い訳のような気がするが、政界ではそれが通ってしまう。
「しかし、これから候補者集めだの広報活動だのを俺とポテコが手伝うと、ホーリアに勇者がいなくなる」
コルダは候補者の登録をしただけで疲れ切ったようで、尻尾も耳も項垂れたままゲストルームに入って行った。
落ち込んでいたから誰か傍に付いた方がいいように思うが、養成校のゲストルームは護衛の必要もないから俺とポテコは高級ホテルのようなゲストルームの廊下で手持ち無沙汰に立っていた。
「いや、とりあえず必要なのは今日だけだ」
ご苦労だった、とオグオンはさっさと俺達を帰らせようとしている。候補者登録は単なる事務手続きなのに付き添っていて、もしかして珍しくオグオンは暇なのかと思ったがやはり忙しいらしい。
「票集めはしないのか?」
俺は出馬の経験がないけれど、選挙に出るというのは大変なんだろう。
市議の候補者の親が近所の人に片っ端から頭を下げて投票をお願いするという地獄のような話を聞いたことがある。だから、これから10日後の選挙に向けて、コルダは国内の獣人のコミュニティやら会議体やらを回って顔を売りに行くのかとうんざりしていた。
それに、選挙に出るには何らかの公約というか志のような物が必要なはずだ。コルダはラジオで音楽番組しか聞いていないし、新聞は巨大な折り紙だと思っているけれど、その辺りはオグオンが考えてくれるのだろうか。
オグオンが答える前に、ポテコが俺の横でぽつりと呟いた。
「ああ、もう終わってるってことか」
「どういう意味だ?」
「コルダとアルルカ大臣以外に候補者がいなかったから、何もしなくてもアルルカ大臣が嫌いな人はコルダに投票してくれるってこと」
それはつまり、コルダの味方ではなくてアルルカ大臣の敵が消去法でコルダに票を入れるということだ。
そんな適当なやり方で当選したとしても、大臣になった後にコルダが辛い思いをするだけだ。しかし、オグオンが何も言わないということは、ポテコが言う事が正解なのだろう。
「当選させるだけならそれでもいいと思うけど……」
「問題無い。コルダは『養殖』だ」
オグオンの言葉の意味が理解できなかったが、少し考えて卑怯な思考にすぐに気付く。
見た目は白銀種のコルダに、普通の獣人たちは従うだろう。しかし、白銀種が見ればコルダが養殖だとすぐに見抜かれる。
獣人たちの上に立ち、白銀種の言いなりになる。アルルカ大臣よりも使い勝手のよい、白銀種にとって便利な大臣という訳だ。
「先輩」
コルダが察して呼びかけたが、俺は無視した。
オグオンが否定することを期待して待っていたが、オグオンは俺と視線を合わせないまま一度頷く。
「コルダには、全て話してある」
ふざけるのも大概にしろ、とオグオンに詰め寄ろうとした瞬間、ポテコの裏拳が俺の顔面に炸裂した。
俺の勢いと日頃ケンカをしないせいで加減がわからないポテコの力はなかなかの威力だ。俺が顔面を抑えて呻いている間に、オグオンが次の仕事に立ち去ろうとする。
「もう少し、周りを信頼してみてもいいんじゃないかな」
「ああ、肝に銘じておく」
ポテコの嫌味に珍しく皮肉を含んだ口調でオグオンがそう言って姿を消す。それを見送ってから、俺はやっと痛みが引いて話せるようになった。
涙目で睨んで来た俺を見て、加害者のポテコは迷惑そうに溜息を吐く。
「先輩は、すぐ怒る」
「当然だろ。コルダはまだ子どもなんだぞ」
「教官だけじゃなくて先輩も。もっと人を信じてもいいんじゃないの」
「信じる?誰を?」
「先輩、鼻血」
誰のせいだと思ってるんだと顔を抑えた隙に、ポテコは移動魔術で消えていた。
鼻血程度、治癒魔術ですぐに治せたが、そんな簡単にポテコにやられた怪我を無かったことにしてやるのも気分が悪い。俺はティッシュで鼻を抑えたまま、養成校の奥をうろうろしていた。
ゲストルームは事務室よりも奥にあり、在籍している間も入ったことがなかった。ゲストルームの来客向けの雰囲気から、徐々に薄暗い殺風景な廊下に変わっていた。
出口もわからないし鼻血も止まったし、そろそろ移動魔術でわかる所まで戻ろうかと考えた時、廊下の角から大量の本を抱えた青年がふらふらと姿を現した。
積み上げた本で前が見えていないようで、そのまま壁に激突して本と一緒に床に倒れた。
「あぁーー……!」
情けない声を上げて転がって、眼鏡が外れて俺の足元に飛んで来る。そして、床に座ったまま眼鏡、眼鏡、と床を撫でて探していた。
ついさっきまで鼻血を出していた俺はその哀れさに親近感を覚えて、分厚いレンズが嵌った眼鏡を拾い上げてその青年に近付いた。
「これだろう」
「ひぃッ!あ……、ありがとうございます……ッ」
青年はビクリと怯えつつも俺から眼鏡を受け取って顔にかけた。そして、俺の顔を見ると「ああッッ!」と廊下に響くような声を上げた。驚き過ぎて声量の調整が出来ていない。
「ホ、ホーリア様ですか?」
養成校の後輩かと思ったけれど、事務室の職員と同じ服を着ているから生徒ではない。俺は誰だか思い出せないが、事務室の職員には度々迷惑を掛けているから顔も覚えていないと知られるのは今後の関係に悪影響だ。
「ああ、久しぶりだな。ウルラスの退任式以来か?」
「いいえ、ホーリア様とは初対面です」
要らぬ見栄を張って余計な恥をかいた所で、俺は改めて青年の顔を眺めた。
見た事がある気がするけれど、誰だか思い出せない。初対面ということは、不人気投票で3位になってしまったから無駄に顔だけ売れてしまったのかと思ったけど、しばらく眺めていると、頬に肌と同じ色の大きな絆創膏を付けているのに気付く。
俺が変装したノーラの彼氏のトルヴァルだ。
「そうか、今は養成校にいるのか」
「はい、ここの職員として研究を続けています」
オグオンが持っていた写真は、余所行きの顔だったらしい。薄汚れた白衣を着て、ぐしゃぐしゃの髪と隈の浮かんだ顔は2、3日は風呂や睡眠といった人間としてまともな生活をしていない様子だった。
多分食事もしていないんだろうと、試しにポケットに入れていたパイを差し出してみると相当お腹を空かせていたのか無意識の内に受け取って食べ始める。
あのパーティーに潜入するために俺は養成校で鍛えた変装を披露したが、その瓶底のような眼鏡だけ付けておけば誰にも怪しまれなかったと思う。
「トルヴァルの研究分野は?」
「人体に影響のない程度の着衣可能魔術です。例えば勇者のマント。これにも我が一族の開発した術式が織り込まれています」
「それはすごいな」
俺はコート兼部屋着兼寝巻きになっている自分のマントを見下ろした。
正装として全ての勇者に支給されている。ただの布のように見えて、普通のナイフは通さないし大抵の魔術は跳ね返すことができる。あと、俺の考えでは洗濯をしなくても綺麗なままだ。
そんなに小まめに洗濯をしなくてもいいよな、と開発者に尋ねようとしたが、トルヴァルはパイを食べつつ俺のマントを捲って眺めていた。
「通常の服は完成後に術をかけていますが、それでは短時間しかもたないので、織りの段階で術式を入れるんです。しかし、繊維に術式を入れると着用者の負荷が大きくなるので、布の状態で完成するように調整して……ただ、服としての完成度を考えると術式の構成が難しいのです。例えば裾の辺りは動きが多いですが術の消耗は少ないので今でも十分魔力を維持していますが、特に袖の辺りは消耗しやすくて。布としての消耗と魔力の消耗とは別物なので調整が必要なんです。勇者のマントは1色なのは楽ですが、デザインが固まっているのが難しい所ですね。着用者の身長で作るのでその度に術式と織りの構成を変えて……」
トルヴァルが早口で語り出し、最初は聞いていたが徐々に専門用語が混じって来てついて行くのに諦めた。
勇者の制服で使われているくらいの魔術なら、由緒正しい魔術師の家の人間のはずだ。それなのに退魔の子とは、色々と苦労があっただろう。
しばらく語っていたトルヴァルは、ふと思い出したように「ところで、」と一息吐いた。
「ノーラはどうしていますか?」
「……ああ、元気にしている」
違う事を考えていた俺は、反応が遅れたがすぐに答えた。
ノーラはアムジュネマニスで上手くやっているようで、この前の手紙には暇な貴族を集めて料理サークルを立ち上げたら飲食業界の株価が変動したとかいう話が書かれていた。
「よかった」
俺がそれを教えると、トルヴァルは力の抜けた笑顔を見せる。そして、また研究者の顔に戻って俺のマントを弄りながらつらつらと俺が付いて行けない話を再開させた。
ノーラは、トルヴァルが可哀想だから付き合っていただけで、一般的な恋人同士とは違っていた。しかし、研究分野の話を中断してまで尋ねて来るのだから、きっとそれなりに想い合った仲なんだろう。
ノーラは自己犠牲の精神が過ぎると心配していたが、彼女のしたことは無駄ではなかったんだ、とトルヴァルの話を聞き流しながら考えていた。
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