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変な男のとの出会い

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 有名な寺などを連れまわされ効果が出ずに今に至る。気休めのお札は家にいくらかあるし、持ち歩いてるお守りもそこそこかさむ。これ、持ちすぎじゃないかしら。神様同士で喧嘩したりして。だから全然効果ないのかもね。

 そんなことを考えながらアパートを目指し住宅街に入る。一気に人通りがなくなり静かになった。

 細い小道は車2台通るのにもギリギリの狭さだ。夜になれば暗くてやや不気味な道なのだが、基本静かで住み心地がよいので自分は気に入っている。駅近は家賃が高いので、少し離れたところにアパートを借りた。歩けばそれなりに栄えているので穴場だと私は思っている。

 自分一人の足音だけが響いている。そこにふと、右手にある小さな祠が目に入った。

 半年前引っ越して来たときから気付いていた。こんな住宅街に一角、木が何本も生い茂ってより一層暗くなっている場所を。

 そしてそこにはひっそりと、寂れた祠があることを。

 絶対誰も手入れをしていないと断言出来るほどのボロボロさ。一体どれほど前からここに存在し、人々を見守ってきたのだろうか。木々の枯れ葉が祠に落ちて積み上がっている。木造のそれは腐っているようで今にも崩れ落ちそうだ。

 果たして、何でこんなところに祠なんてあるのか分からなかった。

 何が祀っているのかも知らないし、てゆうかオンボロだからご利益も何もなさそうだけど。

 私はそこに近寄り、しっかりと手を合わせた。

 それは引っ越して来てからの習慣。この事故体質を何とかしてくれと、気休めだが祈り続けてきた。実際まるで変化は無いので、この祠の神様はあまり力がないらしい。

 でもでも、継続は力なり、ってね!

(この不運体質が治ります様に、ついでに彼氏ができます様に! イケメンの!)

 欲張りすぎたか。まあいい。

 私は合わせていた手を下ろす。今日の日課も終わり、さてアパートへ帰ろうかと足を踏み出したとき、突風が吹いた。

 木々が揺れて大きなさざめきを作る。獣が鳴いているかのような大きな音だった。

「わ……っぷ」

 長い髪が風に吹かれて前を隠す。反射的に目を閉じた。

 長い長い風だった。生温く、どこか懐かしい匂いのする風が吹き荒れる。私は履いていたスカートの裾を必死に握り、もう片方の手で乱れる髪を押さえていた。これまでの人生で経験したことのないほどの突風だった。

 台風か? そんな、雲一つなかったのに。異常気象か?

 しばらくしてようやく無音が訪れる。ふうと目を開き、とんでもなく乱れた髪を手櫛でまとめた。

「なんか目にごみ入っちゃったじゃないか、もう」

 右目に僅かな痛みを覚えて一人小さく呟いた時、背後から声が聞こえた。

「それは悪い事をした」

 驚いて振り返る。そばに人などいなかったはずだ。だがそこに立つ人を見た瞬間、私は息をするのも忘れるほど更に驚いた。

 サラリと揺れる黒髪は美しく乱れがない。肩につきそうな長さがあるも、長髪は好みじゃない私ですらうっとりとする滑らかさ。

 そして何より白い肌に長い睫毛、高い鼻。見惚れずにはいられないほど、綺麗な男性が立っていた。

 眩しいほどの真っ白なシャツには皺ひとつない。黒いパンツを履いている足はサラッと長かった。

 滅びそうな祠を背景に、彼は優しく微笑んで立っていた。

「……え? あ、の?」

「久々の外は気分がいい」

「はあ……?」

 辺りを見回すがほかに人がいない。どうやら私に話しかけている事は間違いないようだ。

 彼はどこか神秘的なオーラすら漂わせながら、私に言う。

「藍川沙希。あんたのおかげだな」

「!?」

 突然フルネームを呼ばれてギョッとする。初対面のはず、こんな絶世美男子見たら忘れるわけがない。

 なぜ私の名前を? どこで?

 目の前の美男子が一気に怪しい人へと変貌を遂げた。もしやストーカーとかかもしれない。いくらイケメンでもストーカーを彼氏にするつもりはないぞ。

 なるべく相手を刺激しない様に、恐る恐る尋ねた。

「あのう……どこかでお会いしましたっけ……?」

「会って……はないな。私が一方的に知っていたが」

「!?」

「毎日私に祈りを捧げていた。その力が溜まってようやく出られた」

「??」
 
 なんだか言っている事がよく分からない。私は小さく首を傾げた。もしかして、会話もままならないほど頭がイカれちゃった人だろうか。だとすれば、どうしよう、走って逃げ切れるのか。

 男は私を見、すっとその目を細めた。そんな些細な動作すら美しく、こんな時だと言うのに私はどきりとする。これまで出会ってきた人間の中で、圧倒的に完成された人だ。

 数歩、私に歩み寄る。逃げなくては、と心で自分に命令するが、その瞳に囚われた様に足が動かなかった。金縛りにあっているようにも思えた。どこか不思議な力を感じられるほど、彼は美しすぎる。

 彼は私の目の前に立つと、じっと無言で私を見下ろした。ドキドキしながらそれを見上げ、彼の憎らしいほど綺麗な髪に見惚れる。
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