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頭イカれたやばいやつ!
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しばらくし、彼はふ、と笑った。
「やはり。あんた、すごいな」
「へ、へ!? 」
「陽の気の塊。ここまで凄ければ、そりゃ不運も増える」
突然発せられた言葉にぎょっとして目を見開いた。私の不運の連続を、なぜ知っているのだろうか?
「な、何で知ってるんですか私が不運続きなのを……!」
「あんたが毎日私に願ったんだろう。不運続きの体質を何とかしてくださいって」
「……はあ?」
「そこ」
男は長い人差し指を出し、後ろにある寂れた祠を指さした。やはり腐りかけの祠は今にも朽ちてしまいそうなビジュアルだ。
そして彼は、キッパリととんでもないことを言い放った。
「私はあそこにいた神だよ」
…………いけない。
やっぱり頭がイカれてるやつだった。
額に一気に汗をかく。とんでもないヤバいやつに捕まってしまっている。自分を神と信じきっている男、いくら顔が良くてもヤバすぎるではないか。
これはあれだろうか、宗教のお誘いだろうか。それとも詐欺? 変なツボを買わされたりとかかな。
ああ、神様(本物の)! このピンチをどう切り抜ければ!
顔面に言いたい事が現れてしまっていたのか、男は私を見て笑った。
「信じてない顔だな」
「……ははは……」
「ま、それが普通だよなぁ。んーどうしようか、何か信じさせる方法は……」
「いえいえ結構でございますよ、その、私今すごーく急いでおりまして。あは、今日はこの辺で……」
そそくさとその場から逃げようとする私の肩を、男が掴む。どこかひんやりした体温にひゃっとマヌケな声が自分から出た。
「まあ待て」
「い、今貯金無くてですね!?」
「見てろ。多分、これぐらいなら出来る」
男は私の肩をしっかり掴んだまま、もう片方の手をすっと伸ばした。反射的にそちらを見れば、祠周りの木々たちに向かって伸ばされていた。
その瞬間、辺りが無音になる。木々たちはピタリと動きを止め、僅かな音も漏らさなかった。映画を途中で静止したかのように目の前の光景が止まる。
間違いなく存在しているはずの景色が絵画のように感じ、ぐらりと眩暈を起こしそうになった。上手く表現出来ないが、自分がどこか夢の中へ飛んでいってしまったような感覚なのだ。
声が、
でない。
瞬きすら忘れてただ彼の白い指先を見ていた。その指はゆっくりと動き、何かを撫でる様に少し円を描く。スローモーションみたいな動きだった。
すると動きのなかった木々たちに変化が訪れた。
モゾモゾと何かがうごめく。緑色の葉たちの間に白い物が多数出現した。点のような物はすぐに肥大し、その存在感を大きくしていく。
ただ口をぽかんと開けてその光景を見つめていた。
ほんの数十秒の間に、白い点が何なのか理解した。それは花のつぼみだった。みるみる大きく成長するつぼみたちは膨大な数で、あっという間に緑の葉の存在感を打ち破る。花の成長を早送りしているかのような景色だ。
「う、わ……」
無意識にため息が漏れた。白い花が次々と開花したのだ。それは幻想的で厳かな光景だった。神秘的で胸が締め付けるような感覚に陥る。
花の香りがふわりと流れてくる。
ただの緑だった木は、今は真っ白な花達が咲き誇った美しい木々へと変身したのだ。
「凄い……なにこれ……」
一面に広がる花たちにため息を漏らす。私の心に応える様に風が吹き、花が揺れる。いくらか白い花びらが舞い落ちてきた。それは偽物などではなく、花たちが本物であることを示していた。
私はようやく男の方を見る。彼は手でこめかみを抑え、少しだけ眉をひそめていた。
「これ如きで限界だな、今は」
「す、凄い……! どうやったんですか、手品!?」
「こんな大規模な手品をする人間がいるならお目にかかりたいもんだな」
男は呆れたように私を見る。ぐ、っと押し黙る。
そりゃ、確かに手品とは思えない。だってただの木だったのに蕾が出来て一瞬で開花した。花だって造花じゃない。
……嘘でしょう?
私が怪しむ様に見上げると、男はふふんと鼻を鳴らした。
「素直に信じたほうがいい」
「い、いやだって……」
「私にもう少し力があればな。もっと大きな事をやってみせるのだが……これが今は限界だ」
少し寂しげに彼は言った。私は感じた疑問をそのままぶつけた。
「神様なのに力が弱いんですか?」
未だこの男を神だなんて信じきれていない自分の素直な感想だ。だって神様って、あの神様でしょう?
しかし彼は気分を害する様子もなく頷いた。
「ああ、私は今まで存在自体埋められていたからな」
「え?」
「はるか昔、ちょっと禁忌を犯して上の神から罰を与えられた。力を奪われてあの汚い祠に閉じ込められたんだ」
「なんか小説みたい……」
「そこに現れたのがあんただ、藍川沙希」
彼は白い歯を出して笑う。突然名前を呼ばれてキョトンとした。
「やはり。あんた、すごいな」
「へ、へ!? 」
「陽の気の塊。ここまで凄ければ、そりゃ不運も増える」
突然発せられた言葉にぎょっとして目を見開いた。私の不運の連続を、なぜ知っているのだろうか?
「な、何で知ってるんですか私が不運続きなのを……!」
「あんたが毎日私に願ったんだろう。不運続きの体質を何とかしてくださいって」
「……はあ?」
「そこ」
男は長い人差し指を出し、後ろにある寂れた祠を指さした。やはり腐りかけの祠は今にも朽ちてしまいそうなビジュアルだ。
そして彼は、キッパリととんでもないことを言い放った。
「私はあそこにいた神だよ」
…………いけない。
やっぱり頭がイカれてるやつだった。
額に一気に汗をかく。とんでもないヤバいやつに捕まってしまっている。自分を神と信じきっている男、いくら顔が良くてもヤバすぎるではないか。
これはあれだろうか、宗教のお誘いだろうか。それとも詐欺? 変なツボを買わされたりとかかな。
ああ、神様(本物の)! このピンチをどう切り抜ければ!
顔面に言いたい事が現れてしまっていたのか、男は私を見て笑った。
「信じてない顔だな」
「……ははは……」
「ま、それが普通だよなぁ。んーどうしようか、何か信じさせる方法は……」
「いえいえ結構でございますよ、その、私今すごーく急いでおりまして。あは、今日はこの辺で……」
そそくさとその場から逃げようとする私の肩を、男が掴む。どこかひんやりした体温にひゃっとマヌケな声が自分から出た。
「まあ待て」
「い、今貯金無くてですね!?」
「見てろ。多分、これぐらいなら出来る」
男は私の肩をしっかり掴んだまま、もう片方の手をすっと伸ばした。反射的にそちらを見れば、祠周りの木々たちに向かって伸ばされていた。
その瞬間、辺りが無音になる。木々たちはピタリと動きを止め、僅かな音も漏らさなかった。映画を途中で静止したかのように目の前の光景が止まる。
間違いなく存在しているはずの景色が絵画のように感じ、ぐらりと眩暈を起こしそうになった。上手く表現出来ないが、自分がどこか夢の中へ飛んでいってしまったような感覚なのだ。
声が、
でない。
瞬きすら忘れてただ彼の白い指先を見ていた。その指はゆっくりと動き、何かを撫でる様に少し円を描く。スローモーションみたいな動きだった。
すると動きのなかった木々たちに変化が訪れた。
モゾモゾと何かがうごめく。緑色の葉たちの間に白い物が多数出現した。点のような物はすぐに肥大し、その存在感を大きくしていく。
ただ口をぽかんと開けてその光景を見つめていた。
ほんの数十秒の間に、白い点が何なのか理解した。それは花のつぼみだった。みるみる大きく成長するつぼみたちは膨大な数で、あっという間に緑の葉の存在感を打ち破る。花の成長を早送りしているかのような景色だ。
「う、わ……」
無意識にため息が漏れた。白い花が次々と開花したのだ。それは幻想的で厳かな光景だった。神秘的で胸が締め付けるような感覚に陥る。
花の香りがふわりと流れてくる。
ただの緑だった木は、今は真っ白な花達が咲き誇った美しい木々へと変身したのだ。
「凄い……なにこれ……」
一面に広がる花たちにため息を漏らす。私の心に応える様に風が吹き、花が揺れる。いくらか白い花びらが舞い落ちてきた。それは偽物などではなく、花たちが本物であることを示していた。
私はようやく男の方を見る。彼は手でこめかみを抑え、少しだけ眉をひそめていた。
「これ如きで限界だな、今は」
「す、凄い……! どうやったんですか、手品!?」
「こんな大規模な手品をする人間がいるならお目にかかりたいもんだな」
男は呆れたように私を見る。ぐ、っと押し黙る。
そりゃ、確かに手品とは思えない。だってただの木だったのに蕾が出来て一瞬で開花した。花だって造花じゃない。
……嘘でしょう?
私が怪しむ様に見上げると、男はふふんと鼻を鳴らした。
「素直に信じたほうがいい」
「い、いやだって……」
「私にもう少し力があればな。もっと大きな事をやってみせるのだが……これが今は限界だ」
少し寂しげに彼は言った。私は感じた疑問をそのままぶつけた。
「神様なのに力が弱いんですか?」
未だこの男を神だなんて信じきれていない自分の素直な感想だ。だって神様って、あの神様でしょう?
しかし彼は気分を害する様子もなく頷いた。
「ああ、私は今まで存在自体埋められていたからな」
「え?」
「はるか昔、ちょっと禁忌を犯して上の神から罰を与えられた。力を奪われてあの汚い祠に閉じ込められたんだ」
「なんか小説みたい……」
「そこに現れたのがあんただ、藍川沙希」
彼は白い歯を出して笑う。突然名前を呼ばれてキョトンとした。
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