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「何を丸めこまれてる! ここまで馬鹿だと救いようがない!」
その声はすぐ背後から聞こえてきた。私は振り返る。厳しい目で私を見下ろしているその顔に見覚えがあった。
「ソ……!」
ソウスケ!!
声にならないまま名前を叫ぶ。もう会うことがないかもしれないと思っていた彼は、何も変わらない姿でそこに立っていた。
驚きでパクパクと口を開いている私を、彼は腕を掴んで立たせてくれた。力の入らない私の体を支えながら周りを見渡している。
「そ、ソウスケ……?」
「あんた本当に阿呆だな。呆れて物も言えない」
「ど、どうしてここに?」
「そんなこと今説明してる場合か」
彼はそう言うと、一つ舌打ちをした。そして無言で背後にあるベランダの扉を勢いよく開けたのだ。
「ここではいけない。沙希、来い」
来い、と呼んだくせに、彼は私の動きなどまるで無視して突然私を肩に担ぎ上げた。ギョッとして上からソウスケの名前を叫ぶ。
「え!? そ、ソウスケ、ちょっと!」
「黙ってろ」
そういうと彼は、ベランダに飛び出し軽々と手すりに飛び乗った。それを見て自分の顔が真っ青になる。嘘でしょう、まさか!
「ちょっと……待ってえええ!」
私の叫び声も虚しく、ソウスケは動きを止めなかった。私を肩に担いだまま空中に足を踏み出し、ふわりと三階から下に落下していったのである。
が、無論衝撃などなかった。一瞬の浮遊感を感じたが、その後はゆっくりとした速度に変わりゆるやかに着地する。空に浮かぶことができるソウスケが落ちるわけなんてないってわかってた。
いやでも、心の準備ってものが。こっちは普通の人間なんだから、三階から下に降りるなんて心臓に悪い。しかも何よこの格好! こう言う時普通はお姫様抱っこなんじゃないの??
「そ、ソウスケ下ろし」
「いくぞ」
「まま、待ってよなんでええ」
「うるさい鼓膜が破れる」
悲痛な叫びは届かない。ソウスケはそのまま今度は信じられない速度で移動し始めたのだ。
未だ彼に担がれたままの私は、背後を振り返りながら不満をぶつける。ソウスケの顔は見えない。
「ねえ、突然何!? 何が起きてるの?」
「あんたは騙されてるんだ。どこであんなもの拾ってきた、今の私の力では消しきれんぞ」
「あんなもの? って、あの白い神様のこと? あの人は神様と人間の主従契約を結んで私を守ってくれるって」
「あれを神だと思ったのか、見る目がないな。主従契約? そんなもの存在しない」
「上の立場の神様じゃないと知らない制度だって……」
「忘れたのか。今はアルバイトでも昔はそれなりに上の階位にいたと説明したはずだ」
「あ」
ソウスケは淡々と私に説明しながらどんどん道を進んでいく。まるで早送りをしているかのような目まぐるしい景色に圧倒された。一体どこへ行くつもりなのか、彼の思惑がわからない。
いや、わからないのはそれだけじゃない。私の脳内は未だにクエスチョンマークで埋め尽くされているのだ。私はソウスケに担がれたまま質問を続けた。
「じゃ、じゃああの白い人はなんなの? なんのためにあんな嘘を?」
「なかなか力の強い妖だ。説明しなきゃ分からないか? 都合のいいことを言って沙希を騙し、油断させたところであんたの首を食いちぎるつもりだったんだ。そして陽の気を貰う」
ゾッとする話を聞かされ、思わず自分の首を触った。さっきあの人にとらわれた後身動きできなかった。もしかしてソウスケが来てくれなかったら、あのまま首を……?
あの人は神様でもなんでもない、ただ私の命を狙ってきただけの存在。ソウスケが強いと言ってるなら今まで出会ってきたものたちとはレベルが違うんだろう。後一歩で自分が死んでいたんだと思うと呆然としてしまう。
「そ、それであの人はどうしちゃったの、ソウスケが倒してくれたの?」
「言ったはずだ、今の私の力では消しきれない」
ソウスケの焦ったような声が聞こえた直後だった、彼の「来た」という低い声がした。はっとして顔を上げると、何やら遠くから白い塊がこちらに向かってくるのが目に入る。
ソウスケはすぐそばにあった角を曲がった。苦しそうに言う。
「人気のないところで沙希に力を貰う。もしかしたら周りを巻き込みかねない」
「え……力、って、だって春奈は?」
春奈とソウスケが抱き合っている映像を思い出す。春奈だって陽の気が強いって言ってたし、たっぷりもらったんじゃないの? それに、付き合ってる人がいるのにキスするなんて。例え愛が無くてもそれってどうなのかな。
ソウスケはそのまま近くの公園に入り込んだ。広さはあるが寂れたブランコと鉄棒があるだけの手入れのされていない広場だった。人気はなく、周りを木々が生い茂って囲っている。雑草がそこらじゅうに伸びていた。
公園の隅にある木の陰に移動する。太い幹に隠れるように立ったソウスケは私を下ろす。ようやく解放された私はよろめきながら地面に立った。ソウスケを見上げると、彼は憮然とした顔で言う。
「春奈のところになんか行ってない」
その声はすぐ背後から聞こえてきた。私は振り返る。厳しい目で私を見下ろしているその顔に見覚えがあった。
「ソ……!」
ソウスケ!!
声にならないまま名前を叫ぶ。もう会うことがないかもしれないと思っていた彼は、何も変わらない姿でそこに立っていた。
驚きでパクパクと口を開いている私を、彼は腕を掴んで立たせてくれた。力の入らない私の体を支えながら周りを見渡している。
「そ、ソウスケ……?」
「あんた本当に阿呆だな。呆れて物も言えない」
「ど、どうしてここに?」
「そんなこと今説明してる場合か」
彼はそう言うと、一つ舌打ちをした。そして無言で背後にあるベランダの扉を勢いよく開けたのだ。
「ここではいけない。沙希、来い」
来い、と呼んだくせに、彼は私の動きなどまるで無視して突然私を肩に担ぎ上げた。ギョッとして上からソウスケの名前を叫ぶ。
「え!? そ、ソウスケ、ちょっと!」
「黙ってろ」
そういうと彼は、ベランダに飛び出し軽々と手すりに飛び乗った。それを見て自分の顔が真っ青になる。嘘でしょう、まさか!
「ちょっと……待ってえええ!」
私の叫び声も虚しく、ソウスケは動きを止めなかった。私を肩に担いだまま空中に足を踏み出し、ふわりと三階から下に落下していったのである。
が、無論衝撃などなかった。一瞬の浮遊感を感じたが、その後はゆっくりとした速度に変わりゆるやかに着地する。空に浮かぶことができるソウスケが落ちるわけなんてないってわかってた。
いやでも、心の準備ってものが。こっちは普通の人間なんだから、三階から下に降りるなんて心臓に悪い。しかも何よこの格好! こう言う時普通はお姫様抱っこなんじゃないの??
「そ、ソウスケ下ろし」
「いくぞ」
「まま、待ってよなんでええ」
「うるさい鼓膜が破れる」
悲痛な叫びは届かない。ソウスケはそのまま今度は信じられない速度で移動し始めたのだ。
未だ彼に担がれたままの私は、背後を振り返りながら不満をぶつける。ソウスケの顔は見えない。
「ねえ、突然何!? 何が起きてるの?」
「あんたは騙されてるんだ。どこであんなもの拾ってきた、今の私の力では消しきれんぞ」
「あんなもの? って、あの白い神様のこと? あの人は神様と人間の主従契約を結んで私を守ってくれるって」
「あれを神だと思ったのか、見る目がないな。主従契約? そんなもの存在しない」
「上の立場の神様じゃないと知らない制度だって……」
「忘れたのか。今はアルバイトでも昔はそれなりに上の階位にいたと説明したはずだ」
「あ」
ソウスケは淡々と私に説明しながらどんどん道を進んでいく。まるで早送りをしているかのような目まぐるしい景色に圧倒された。一体どこへ行くつもりなのか、彼の思惑がわからない。
いや、わからないのはそれだけじゃない。私の脳内は未だにクエスチョンマークで埋め尽くされているのだ。私はソウスケに担がれたまま質問を続けた。
「じゃ、じゃああの白い人はなんなの? なんのためにあんな嘘を?」
「なかなか力の強い妖だ。説明しなきゃ分からないか? 都合のいいことを言って沙希を騙し、油断させたところであんたの首を食いちぎるつもりだったんだ。そして陽の気を貰う」
ゾッとする話を聞かされ、思わず自分の首を触った。さっきあの人にとらわれた後身動きできなかった。もしかしてソウスケが来てくれなかったら、あのまま首を……?
あの人は神様でもなんでもない、ただ私の命を狙ってきただけの存在。ソウスケが強いと言ってるなら今まで出会ってきたものたちとはレベルが違うんだろう。後一歩で自分が死んでいたんだと思うと呆然としてしまう。
「そ、それであの人はどうしちゃったの、ソウスケが倒してくれたの?」
「言ったはずだ、今の私の力では消しきれない」
ソウスケの焦ったような声が聞こえた直後だった、彼の「来た」という低い声がした。はっとして顔を上げると、何やら遠くから白い塊がこちらに向かってくるのが目に入る。
ソウスケはすぐそばにあった角を曲がった。苦しそうに言う。
「人気のないところで沙希に力を貰う。もしかしたら周りを巻き込みかねない」
「え……力、って、だって春奈は?」
春奈とソウスケが抱き合っている映像を思い出す。春奈だって陽の気が強いって言ってたし、たっぷりもらったんじゃないの? それに、付き合ってる人がいるのにキスするなんて。例え愛が無くてもそれってどうなのかな。
ソウスケはそのまま近くの公園に入り込んだ。広さはあるが寂れたブランコと鉄棒があるだけの手入れのされていない広場だった。人気はなく、周りを木々が生い茂って囲っている。雑草がそこらじゅうに伸びていた。
公園の隅にある木の陰に移動する。太い幹に隠れるように立ったソウスケは私を下ろす。ようやく解放された私はよろめきながら地面に立った。ソウスケを見上げると、彼は憮然とした顔で言う。
「春奈のところになんか行ってない」
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