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八十話 本気で戦ったらどうなったか

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モーナに勝ったアラッドはアリサと一緒にそろそろ終わるであろうパーティー会場へと戻った。

そして二人がいなくなった訓練場には少々重苦しい雰囲気が残っていた。

「はぁ~~~~、模擬戦とはいえちょっと自信なくします」

「いや、あれは仕方ないというか……多分、私が相手をしてもやられてたと思うよ」

「そうよ。あの子はどう考えても普通じゃない。最後の流れだって、おそらく計算してたはずよ」

女性騎士の言葉に間違いはなく、中々攻めきれないアラッドは模擬戦に勝つため、解りやすい流れをつくろうとした。

モーナが乗ってこないという可能性もあったが、相手は騎士。
本来自分より格下の存在である自分の誘いから逃げるようなことはしないと考えていた。

その結果、モーナはまんまとアラッドの狙い通りに動いてしまった。

「その通りだ。あれはどう考えても相手が悪過ぎた。お前が負けを恥じる必要はない」

「そ、そうかもしれませんけど……これでも騎士なんですよ。奥の手を使われたとしてもあんなにあっさりと負けるなんて」

「確かにその気持ちは解らなくもない。だが、現実にアラッド君のような傑物は存在した。それに……おそらく最後に何か仕掛け、モーナを転ばせたのは五歳の誕生日に手に入れたスキルだろう」

「えっ!!?? け、剣技のスキルじゃないんですか!!!???」

初めの剣戟を体験したモーナは絶対に剣技のスキルを授かったのだと確信していた。
途中から変則的な攻撃や体技が混ざったが、それでも剣技がメインの武器だと信じていた。

他の団員もモーナと同じ様に考えていたので、ディーネの考えに驚きを隠せない。

「勿論ステータスを視た訳ではないから、確信がある訳ではない。ただ、理由としてはあまり剣技という武器に執着している様には思えなかった。途中から攻撃方法を変えただろ」

「そう、ですね……蹴りやパンチも正直レベルが高いなと感じました」

「私もだ。いったいどんなスキルを授かったのかは分からないが、剣技がメインの武器ではないと強く感じた」

「あ、あれだけ使えるのにメインじゃないなんて……ちょっと待ってください。なら、もしかして他の槍や斧などの武器が使えたり、魔法の腕も半端ではないということですか!?」

「むっ……そこまでは分からないが、可能性はゼロではないだろう」

その言葉を聞いた団員たちはますますアラッドが得体のしれない存在だと思い始めた。

「はぁ~~~~~、怪我をさせないように手加減していたつもりが、手加減されてたということですね」

「そんなに落ち込むな、モーナ。お前とアラッド君が本気で戦えば、それはまた話が別だ」

モーナは新人騎士の中でも頭一つ抜けている。
それはディーナだけではなく、団員全員が認めている共通認識。

本気で戦えば結果は当然モーナに傾く……とは断言出来なかった。

(二人が本気で戦えばモーナが勝つと一瞬思ったが、今回の一戦……本気じゃなかったのはアラッド君も同じ……どうなるんだ?)

冷静に考えれば、絶対にそうなることはあり得ないが二人が本気で潰し合えば騎士であるモーナが勝つのは至極当然の結果。
しかしモーナを転ばせた技がいったいどんなスキルの技なのか、詳しいところは解っていない。

そういった不安要素を考えると、たった七歳の子供に騎士であるモーナが絶対に勝つと……言葉にできなかった。

「そう、ですかね」

「あぁ、そうだ……それにしても、本当に惜しい逸材。特例ではあるが、可能ならこの団に入ってほしいとすら思った」

「っ!!?? ディーネさん。さ、ささささすがにそれはちょっと無理なんじゃないですか!?」

ディーネが団長を務める団は……第三王女専属の騎士団。
規定として、この騎士団には女性の騎士しか入団することができない。

「無茶ということは分かっている。しかし、フィリアス様は先日アラッド君と顔を合わせているのだろう。話によれば、二人とも楽しそうにリバーシで遊んでいたらしいじゃないか。確かに規定として団には女性騎士しか入団できないが、フィリアス様が認めれば特例として入団できるかもしれないだろ」

「そ、それは……そうですね。可能性はありそうです」

「だろ。まぁ、本人が騎士の道ではなく冒険者の道を行くと断言しているのだから、特例が出たとしても実現しない話だがな」

本当に惜しい……そう思いながらディーネたちは訓練に戻った。
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