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第72話 学園長、無双する。
しおりを挟む「ふむふむ。お二人とも素晴らしかった。どうやら、実力は拮抗してらっしゃるようですな」
うわぁ、学園長――実力が拮抗してるだなんてカケラも思ってませんよね?見た目に反して意外と腹黒くてらっしゃる気配が……。
ちなみに皇太子殿下、拮抗と言う言葉に悔しそうな顔をしている。この感じからすると、実力が拮抗してると思ってそうだ……。
今回の場合、勝てないのもそうだけど、私の事が無くてもアルも負けるわけにはいかなかったんだと思う。もし勝ちを譲っていたら、皇太子はアルを格下扱いしたままだったろう。
自国の王太子が格下扱いされて、皇太子は傍若無人に振る舞えば無用なトラブルが発生しかねない。
そう考えれば、自ずと引き分けがベストな結果だったと思うんだ。皇太子がどう思っているかは別としてだけど……。
「いやいや、突然いらした時は驚きましたが、若者が切磋琢磨する姿と言うものは見ていて心が躍るものですな!」
皇太子を絶賛するような口ぶりで学園長がそう言った――絶対嘘だ。
そう思うけれど、今の学園長は皇太子を賛辞しているようにしか見えない。現に皇太子は不満顔から「そ、そうか?」みたいな感じでニヤニヤ笑いを復活させていたからだ。
学園長は身ぶり手ぶりこそ皇太子を絶賛してる風だけれど、言った言葉の中に皇太子を褒める言葉があった訳じゃない。それなのに自分が褒められたかのように感じてしまうのは皇太子がチョロイからなのか、学園長がそう思わせる事に長けているからなのかは分からない……両方かも?
「ですが、今日来て頂いて却って良かったのかもしれませんな……」
私達の方へ戻って来るアルと皇太子に向かって学園長はそう言った。
急な訪問が良かった?私は考えてみたけれど、学園長のその言葉の真意が分からなかった。アルは、興味深げに学園長の方を見ている。学園長がどんな話をするのか気になっているのだろうか……。
「えぇ、えぇ。おそらくは校則を記した書類が抜けていたか、見落とされたのでしょう――……皇太子殿下、残念ですが、この学園でその服装は禁止されています」
「何だと?!これは、この学園指定の仕立屋で仕立てたこの学園の制服の筈だ!しかも、今日取りに行ったばかりなんだぞ?」
成程、思い立って急に来たのは制服を受け取ってテンションが上がったかららしい。
それにしても、学園指定の仕立屋で作って貰ったのなら、何故こんなにキンキラキンなの??
「――そこで言われませんでしたかな?学園の制服は皆同一のデザインであると……基本的に、学園内は平等を謳っております。残念ながらその理念に皇太子殿下の制服――それから装飾品は適当ではないと言わざるおえません」
学園長はにこやかな笑顔でそう言っているけれど、柔らかな雰囲気に似合わず、一歩も引かない口調だった。その学園長の言葉に、皇太子は「確かにそんなような事は言われたが――だがしかし、次期皇帝である余がこんな質素な制服等では――……」と言い始めた。
あぁ、仕立屋さんはちゃんと忠告してくれてはいたらしい。けどこの皇太子がゴリ押ししたのだろう……。その様子が目に浮かびそうだった。
「えぇ、えぇ――お国ではそうでしょうが、こちらは別の国―― 『郷に入っては郷に従え』と今は亡き帝国の初代皇帝も言ったとか――。ですので、その制服から余分な飾りは外して頂き、聖別された装飾品以外は目に見える所に着けないように願います。皇太子殿下が学園に通われるのは来週からですし、まぁ、間に合うでしょう」
そう言って学園長は何処からか紙の束を取りだした。
見覚えがある――所謂入学の手引だ。その中に校則や服装などに関する規定が書かれた箇所がある。学園長はそれをクワイトスさんに手渡した。
準備が良い所を見ると、仕立屋さんから連絡が入っていたのかもしれない……。
「馬鹿を言うな!余は次期皇帝だ!!特例を認めるべきだろうが。余は特別なのだからな!!」
――……うわぁ……
あまりに酷い言い分に、私はどうして良いか分からなかった。
特別??アルや私もそうだけれど、今ある身分は私達がたまたまその環境に産まれただけだ。前世が一般人だったからこそ、それが分かる。
だから、特別だから優遇しろと言う言葉にゲンナリしたのだ。ましてや、ここは他国であるのだから、皇太子のその我儘がメルジェド帝国の評価になりかねないのに……。
「いえいえ、皇太子殿下――お国では貴方は特別なのでしょうが……他国のこの学園に於いて、貴方は特別でも何でもない――ただの子供です」
学園長はにこやかにそう言ったけど……雰囲気がさっきまでとは違う――。柔らかな笑顔と裏腹に、その気配は威圧的だ。しかも皇太子に告げた内容……。
え?そんな事、言っちゃっていいの?!って思わずアルを見た。アルもちょっと驚いた顔をしたけれど、私の視線に気が付いて『大丈夫』とでも言うように頷く。
「な、な――っ!」
「コチラも忘れてらっしゃるようなので、忠告致しましょう。貴方が、この学園に滞在される間――私、もしくは理事長の言葉は『陛下の言葉』と思ってお過ごし下さい――それが、貴方がこの学園に短期留学される時の条件だった筈――」
「そ、それは……」
成程……私は学園長の話を聞いて納得した。だから、皇太子にあんなに強気に出れたんだ。
「だ、だが、余を不快にさせるのはファラキア国王陛下にとっても望まぬ事では無いのか――?戦など、困るのだろう??」
「それです。本当に困りますね」
パッと得意気に表情を変えて、皇太子がそんな事を言った。対して学園長は残念な子供を見るような目で一つ溜息を吐いた後、困った顔をして苦笑した。
「そうだろう!――なら――」
「いえいえ、戦が起こったのなら、一丸となって貴方のお国を殲滅すれば良いだけなのですが……。我等が陛下はお優しい。宝と言うべき国民が下らぬ戦で一人でも失われる事はできれば避けたいと仰る。ですが、戦うとなれば徹底的になさる方だ――……お国の方では陛下が譲歩した事で我等が陛下が『恭順』を示したなどと誤解する愚か者がいるようですし……」
学園長は笑顔で威圧を強めた――。
成程、学園長が怒っているのは、今回の件でメルジェド帝国内で陛下を侮る発言や行動が見られたかららしい。確かに、これを放っておけば次にどんな無理難題を通そうとするか分からない。
ここで、皇太子の増長を抑えつつ、本国に連絡させるのが学園長の目的なんだろうか……?
「お国の方達に教えて差し上げて下さい。貴方達が踏んでいるのは虎の尾だ――その虎は、仔猫がじゃれついているだけだからと放って置いてくれているだけです。ですが、度が過ぎればその喉元――喰い千切るだろう――と。そう、陛下から伝言を預かりましてな」
陛下からの伝言……。その言葉に私は成程、と納得した。学園長の発言は、陛下の発言と変わらないとされているとは言え、一国の皇太子に勝手に告げるには随分と強い発言が多かったからだ。
目を細めて話す学園長は、穏やかそうな外観から想像できないほどに怜悧な気配を漂わせている。普通に怖い。
「そ、それは脅しではないか――!!」
あたふたと叫ぶ皇太子に、学園長は首を傾げて問い返した。
「短期留学させなければ、戦を仕掛けると先に脅したのはそちらでしょう。勝てると思うのなら仕掛けてくれば宜しい。それと、忘れているようですが、わが国にはS級の冒険者達がいる――彼等も攻めて来られるとなれば応戦するでしょうな。それから、スタンピード……冒険者ギルドから要請が来たとしても、敵対関係にある国への派遣は断る事が出来ます。そこらへんの事も思い出して頂きたいものです。あぁ、これは脅しではありません。ただの事実です。忘れてらっしゃるようなのでね?ちょっとした忠告ですよ?」
はははは――と楽しそうに告げる学園長。それを見たアルも面白そうに口の端を上げた。
確か前回のメルジェド帝国のスタンピードでは『ハラペコ子竜』からも人が出ていた筈だ。寧ろ、その活躍で被害がかなり抑えられたと聞く――。スタンピードでS級冒険者クランの協力が得られなくなるかもしれないと言うのは、相当に避けなければいけない状況だろう。
何故、その状況で強気に出られたのかが謎だ。優秀だった義兄皇子や、宰相さんは本当にどうしたんだろうか……。
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別の話ですが、実験的に数ヶ月前からずっとポチポチと書き貯めて来た『病弱な姉に婚約者を寝取られたので、我慢するのをやめる事にしました。』と言う物語を書きあげました。この後、1話から修正しつつ今日中に完結までUPする予定です。
※全16話。シリアス婚約破棄ものです※こちらとは書き方が違いますが、興味を持って頂けたらご一読下さいm(_ _)m
応援ありがとうございます!
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