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15.依頼とダンジョンと②
しおりを挟むダンジョンに入ってすぐの区画を一層というらしい。
そこの守護者であっただろう、デスアントご一行様を難なく退けた俺らの前に、また新たな魔法陣が形成された。
「ワイルドボアってやつは居ないのか?」
「毎回同じようにはいきませんので、今回はデスアントだけだったようですわね」
なるほど、ランダム要素って訳。
「こいつらの素材は要らない?」
「そうですわねぇ……。特別必要な部位はないかと」
「食べても美味そうじゃねぇしな」
それは全力同意。
「んじゃ次、二層?」
「ええ、参りましょう」
至って順調に目的のオールドワイバーンとやらが居る場所まで進んでいる。
まぁこの二人が居ればクリア確定の依頼な訳だが。
入り口と同じように魔法陣へ乗って、今度は二層へと転送してきた。
今度は炎のブレスとやらが厄介な相手。しかも翼竜だろうから、さっきみたいにはいかないだろうなぁ。
「あら?」
ルルが何かに気付いたように声をあげる。
「どうした?」
「……先客、か?」
目線の先をよくよく見れば、既に地に伏した翼竜ーーオールドワイバーン。
それも一体ではなく、三体。
「俺達以外にも冒険者が来てたのか?」
「それにしては……」
静かだ。
とても激戦を繰り広げた後には見えない。
「先客……、この場合はどうなる?」
「まぁダンジョンに挑戦するのは自由だからな。オレらは素材を持っていけばいいし、こいつらを狩った奴がいれば交渉するが……、見当たらねぇな」
もう一度辺りを見回すが、俺達以外に客は居ない。
「そもそも一層自体、いつもより静かでしたわね……。何か、おかしいですわ」
「そうだな、オレも同意見だ。……ちと意には反するが、素材だけでももらっていくか?」
「致し方ありませんわね、一応この状況をライラットに報告しましょう」
このダンジョンに来たことがある二人が言うんだ。
いつもと違う状況であるのは間違いない。
そもそもオールドワイバーンとやらを倒したのなら、次の階層への道が開かれそうなもんだが。
先に進む魔法陣は見当たらない。
むしろ、この魔物はこの層の守護者ではない?
「今回は状況説明も兼ねて魔物ごと持って帰りますわ」
そういうとルルは、杖を魔法で出し入れするかの如く、オールドワイバーンの内一体を収納魔法へと入れた。
これって俺のスキルと似たようなものなんだろうか。
「一応警戒して帰るか」
「ええ、何があるか分かりませんもの」
「分かった」
S級冒険者の勘が、何か異変があるのだと告げているのだろう。
初心者の俺はそんな二人に従う他ない。
「--何者!?」
先を行くルルが、帰路へ着くためこちらを向いた瞬間。
背後ーー、俺たちの本来の進行方向を勢いよく振り返った。
「新手か?」
グレイも抜刀し臨戦態勢に入る。
何だ、これ。
魔力が、……熱い?
『……なるほど、お前が』
凛とした声が響きわたる。
それは透き通っているのに、どこか芯がある。
「あ、貴女様は……!」
圧倒的な存在感を放つ女性は、まさに朱色。
意志の強さを炎と見立てた、そんな髪色をした神秘的な人だ。
いや……、人。なのか?
「誰だ……?」
グレイは全く知らない存在らしい。
だが、ルルにはどこか覚えがあるようだ。
『今はまだ、その時ではない。……だが、五つの星が降る時。--その時は心せよ』
「え?」
その謎の存在は、明らかに初対面の俺に向けて言葉を放つ。
「それって、どういうーー」
『我が名はファーレイ。黒炎を討つ者。……その力、御して見せよ。黒き者よ』
訳も分からないことを言われて、俺の頭は全く追いつかない。
それを気に掛けるでもなく、言いたいことだけを言ってその存在は……消えた。
同時に俺の魔力も落ち着く。
誰だ……? なんだったんだ?
「魔女、お前……心当たりあるのかよ?」
「いえ、まさか。そんなはずは」
ルルも信じられない、といった様子で気が動転しているようだ。
ここに居ても仕方ない。
「あーー、とにかく。出よう? 考えても仕方ないさ」
「そう、だな」
多分だけど、あの女の人がオールドワイバーンを倒した気がする。
あっちだけ何か分かったような事を一方的に言ってきたんだ。
ちょっと魔物を分けてもらったくらいで怒られたりはしないだろう。
後味はわるいが、俺達は一応当初の目的だけは達成し、帰路へとついた。
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