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16.ルルの秘め事
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「そうでしたか……。青翠の森にオールドワイバーンが現れるのは、他の冒険者からの報告で把握していましたが。ダンジョン全体がいつもと違っていたのですね。……情報共有をして、入場する冒険者にも準備を怠らぬよう伝えましょう」
ギルドに戻った俺達は、早速ギルドマスターのライラットさんに報告をした。
だが現地であった神秘的な女性のことだけは、ルルより口止めされた。
「ともあれ、E級にも関わらずデスアントを討伐出来たのは素晴らしいことです。ハヤトさん、その調子で頑張ってくださいね」
「あ、はい。どうも」
「ルルも、……無理はしないように」
「……分かってるわよ」
謎の女性に会ってからというもの、ルルの元気がない。
それは、恐らくギルドマスターにも俺達にも言えない何か事情があるんだろう。
だが、いつも元気な彼女が思いつめている姿はパーティーの雰囲気にも影響がある。
ギルドの待合い所に一旦落ち着いた俺達の口数は、いつになく少ない。
「……ったく。魔女、お前しばらく休め」
「え?」
「え? じゃねぇだろ。そんなんで依頼受けれんのか?」
「……」
グレイの言う事も尤もだ。
どこか上の空のルル。普段なら完全無欠の魔導師様かもしれないが、その隙を突かれないとも限らない。
「ハヤト様、私……」
「あーー、ルル。言いたくない事だったら、無理して言わなくていいよ? それで俺がルルのことをどうこう思う訳じゃないしさ」
「ですがーー」
「何となくだけど、ルルって俺の為に無理してるよな? 言いたくても言えない。そんな感じがするよ」
ルルは最初から秘密のある人だ。
だけど、それをひっくるめて信頼の出来る仲間と俺は勝手に思っている。
秘密がまた一つ増えたくらいで、最初の恩を忘れるような男じゃないよ。俺は。
「ハヤト様……。少し、お休みしても構いませんか? 私、行くところが出来ました」
「ああ、うん。気にしないでよ。あれでしょ、何か組織の人に報告? 分かんないけど」
「それでよろしいのでしょうか? 私のことを、……敵とは思いませんか?」
「ーーええ!? いや、秘密の多い人だなぁとは思ってたけど。ずっと助けてくれたじゃん!」
「ですが……」
「くくっ。魔女よ、諦めろって。ハヤトはこういう奴だって分かって着いて来てんだろ?」
「何かバカにしてる?」
「してねぇって」
誰にでも秘密の一つや二つ。あるはずだ。
現に、俺はグレイに転生のことは言えていない。
多分、ルルが思い悩んでいることも俺の転生について関係がある事だと思う。
彼女なりに悩んで、俺のために自分を押し殺している気がする。
いきなり『敵』っていうのは、ちょっと話が飛躍しすぎだと思うけどさ?
彼女なりの、何かがあるんだろう。
「ハヤト様。これだけは……。私、必ず戻りますわ」
「んな大げさな。上司そんな怖いの?」
「いえ、その。きちんと、言っておきたくって……」
「まぁ魔女なりに色々あんだろ」
「分かってるよ。ルルのこと信じてるし」
「ありがとう、ございます」
ちょっと大げさなんじゃないか? とは思ったけど、ルルにとっては大事なことみたいだ。
ここは黙って帰りを待とう。
「魔女が帰るまでは修行だな? ハヤト」
「げ」
「……ふふ。ハヤト様のこと、傷つけたら許しませんわよ?」
ちょっといつものルルに戻った。
うんうん、やっぱりこうでないとな。
「そんなにかからないとは思いますけれど、グレイヴァーン。くれぐれも」
「あぁ、分かってるさ」
「?」
何やら俺の知らない所で、二人が同意した。
あれか、また盗賊とかに絡まれないようにとかか?
「ハヤト様はまだ知らない事が多々ございます。どうぞグレイヴァーンを上手く使ってやってくださいな」
「えーーっと、うん? 助けてもらうよ」
「オレらの宿は変わらねぇし、何かあればギルドか宿で」
「ええ。……ではハヤト様。行って参りますわ」
「うん、ルルも気を付けてな」
幾分か元気を取り戻したルルは、颯爽とギルドを後にした。
◆
「魔女が帰るまでにはランクアップしときてぇな」
「え”」
ルルを見送って、宿へと戻ってきた俺達。互いにベッドに座って向き合う。
一応オールドワイバーンの素材、というか一体丸ごと納品できたので、依頼達成とは別に買取料金も上乗せされた。その額レイ金貨三枚。うはうはだ。宿代の心配は当面ないだろう。
そう油断していると、スパルタ冒険者ことグレイヴァーンが恐ろしいことを言ってきた。
「えーーっと具体的に?」
「今Eだろ? 依頼も十分こなせる力量はあるが、数がたりねぇ。まぁ実績だな。ダンジョンはS級二人着いて行った訳だし、実力は示したが実績の数には入らないだろうな。そもそもA級の依頼に着いて行けるE級なんていないし」
「デショウネ」
「実力的にもあと一つか二つ依頼を受ければ昇級試験の声がかかるんじゃねぇか?」
「その辺の裁量って、ギルドの職員さん?」
「まぁ、そうだな。依頼達成ごとにギルドカード出すだろ? ギルドの魔道具で実績やら何やら一通り見れるらしいぜ」
「へぇ、特別な魔眼。って感じか」
魔道具、か。
あんまり必要そうな人と組んでないので、必然的に俺もお世話にはなっていないが。
結構便利な世の中なんだな。
「あ、依頼の前にスキルの確認もしときてぇな」
「ん?」
「パーティー組んだもん同士、スキルの共有もある程度はな」
「ああ、それは確かに」
「勝手に効果があるスキルは置いといて、味方にも恩恵があるやつとかな」
戦術を考えるうえで、それはとても重要そうだな。
言いたくない者も居るだろうが、俺は特にルルとグレイに隠すようなことはない。
「言いたくねぇなら別にいいぜ?」
「いや、特に隠すようなものは無いよ」
「ふーーん」
何やら含みのある返事である。
そんな眩しいお顔で見つめないで欲しい。
「お前って、あの女とはまた違った謎があるよな」
「そう?」
「なんていうか、全部見せてくれているようで、肝心な事が分からねぇっていうか……」
うっ。さすが凄腕冒険者。勘が冴えわたっている。
「まぁ、それすらも意味があるんだろうけどな」
「そ、そういえばグレイはさ。冒険者的な活動の他に、何かないの? S級であるが故の活動とかさ」
ちょっと話題の変え方があからさま過ぎただろうか。
「あーー、勇者への貢献はとりあえず終わったし? 緊急の討伐依頼も最近はねぇな。ちょいちょい国やら貴族やら声は掛かるが……関わりたくねぇんだ」
「あはは……。何か、想像つくな」
誰にも手におえないグレイヴァーンと、我が道を行くルルメアカリス。
国を守る英雄を民衆が敬わない訳がない。
二人を思い通りにしようとする勢力が仮に失敗したとして、それ以上手を出せば民衆の反感を買う。
民を守り、民に守られる。本当に英雄なんだろうなぁ。
「この国には四つの騎士団があるんだっけ?」
「ああ。オレもこの国出身ではねぇから詳しくはないが、王に次ぐ権力争いの道具だな」
そんな、バッサリと。
「おまけに最近では相の聖団の方が民衆に人気で、権力争いもヒートアップってな」
「うわぁ。絶対巻き込まれたくない」
「だろ? オレも、余計な重し背負って戦いたくねぇんだわ」
「なるべく関わらないようにしよ……」
「魔女にも釘刺されたしなぁ。それに越したことはない」
二人で胸に誓った。
ギルドに戻った俺達は、早速ギルドマスターのライラットさんに報告をした。
だが現地であった神秘的な女性のことだけは、ルルより口止めされた。
「ともあれ、E級にも関わらずデスアントを討伐出来たのは素晴らしいことです。ハヤトさん、その調子で頑張ってくださいね」
「あ、はい。どうも」
「ルルも、……無理はしないように」
「……分かってるわよ」
謎の女性に会ってからというもの、ルルの元気がない。
それは、恐らくギルドマスターにも俺達にも言えない何か事情があるんだろう。
だが、いつも元気な彼女が思いつめている姿はパーティーの雰囲気にも影響がある。
ギルドの待合い所に一旦落ち着いた俺達の口数は、いつになく少ない。
「……ったく。魔女、お前しばらく休め」
「え?」
「え? じゃねぇだろ。そんなんで依頼受けれんのか?」
「……」
グレイの言う事も尤もだ。
どこか上の空のルル。普段なら完全無欠の魔導師様かもしれないが、その隙を突かれないとも限らない。
「ハヤト様、私……」
「あーー、ルル。言いたくない事だったら、無理して言わなくていいよ? それで俺がルルのことをどうこう思う訳じゃないしさ」
「ですがーー」
「何となくだけど、ルルって俺の為に無理してるよな? 言いたくても言えない。そんな感じがするよ」
ルルは最初から秘密のある人だ。
だけど、それをひっくるめて信頼の出来る仲間と俺は勝手に思っている。
秘密がまた一つ増えたくらいで、最初の恩を忘れるような男じゃないよ。俺は。
「ハヤト様……。少し、お休みしても構いませんか? 私、行くところが出来ました」
「ああ、うん。気にしないでよ。あれでしょ、何か組織の人に報告? 分かんないけど」
「それでよろしいのでしょうか? 私のことを、……敵とは思いませんか?」
「ーーええ!? いや、秘密の多い人だなぁとは思ってたけど。ずっと助けてくれたじゃん!」
「ですが……」
「くくっ。魔女よ、諦めろって。ハヤトはこういう奴だって分かって着いて来てんだろ?」
「何かバカにしてる?」
「してねぇって」
誰にでも秘密の一つや二つ。あるはずだ。
現に、俺はグレイに転生のことは言えていない。
多分、ルルが思い悩んでいることも俺の転生について関係がある事だと思う。
彼女なりに悩んで、俺のために自分を押し殺している気がする。
いきなり『敵』っていうのは、ちょっと話が飛躍しすぎだと思うけどさ?
彼女なりの、何かがあるんだろう。
「ハヤト様。これだけは……。私、必ず戻りますわ」
「んな大げさな。上司そんな怖いの?」
「いえ、その。きちんと、言っておきたくって……」
「まぁ魔女なりに色々あんだろ」
「分かってるよ。ルルのこと信じてるし」
「ありがとう、ございます」
ちょっと大げさなんじゃないか? とは思ったけど、ルルにとっては大事なことみたいだ。
ここは黙って帰りを待とう。
「魔女が帰るまでは修行だな? ハヤト」
「げ」
「……ふふ。ハヤト様のこと、傷つけたら許しませんわよ?」
ちょっといつものルルに戻った。
うんうん、やっぱりこうでないとな。
「そんなにかからないとは思いますけれど、グレイヴァーン。くれぐれも」
「あぁ、分かってるさ」
「?」
何やら俺の知らない所で、二人が同意した。
あれか、また盗賊とかに絡まれないようにとかか?
「ハヤト様はまだ知らない事が多々ございます。どうぞグレイヴァーンを上手く使ってやってくださいな」
「えーーっと、うん? 助けてもらうよ」
「オレらの宿は変わらねぇし、何かあればギルドか宿で」
「ええ。……ではハヤト様。行って参りますわ」
「うん、ルルも気を付けてな」
幾分か元気を取り戻したルルは、颯爽とギルドを後にした。
◆
「魔女が帰るまでにはランクアップしときてぇな」
「え”」
ルルを見送って、宿へと戻ってきた俺達。互いにベッドに座って向き合う。
一応オールドワイバーンの素材、というか一体丸ごと納品できたので、依頼達成とは別に買取料金も上乗せされた。その額レイ金貨三枚。うはうはだ。宿代の心配は当面ないだろう。
そう油断していると、スパルタ冒険者ことグレイヴァーンが恐ろしいことを言ってきた。
「えーーっと具体的に?」
「今Eだろ? 依頼も十分こなせる力量はあるが、数がたりねぇ。まぁ実績だな。ダンジョンはS級二人着いて行った訳だし、実力は示したが実績の数には入らないだろうな。そもそもA級の依頼に着いて行けるE級なんていないし」
「デショウネ」
「実力的にもあと一つか二つ依頼を受ければ昇級試験の声がかかるんじゃねぇか?」
「その辺の裁量って、ギルドの職員さん?」
「まぁ、そうだな。依頼達成ごとにギルドカード出すだろ? ギルドの魔道具で実績やら何やら一通り見れるらしいぜ」
「へぇ、特別な魔眼。って感じか」
魔道具、か。
あんまり必要そうな人と組んでないので、必然的に俺もお世話にはなっていないが。
結構便利な世の中なんだな。
「あ、依頼の前にスキルの確認もしときてぇな」
「ん?」
「パーティー組んだもん同士、スキルの共有もある程度はな」
「ああ、それは確かに」
「勝手に効果があるスキルは置いといて、味方にも恩恵があるやつとかな」
戦術を考えるうえで、それはとても重要そうだな。
言いたくない者も居るだろうが、俺は特にルルとグレイに隠すようなことはない。
「言いたくねぇなら別にいいぜ?」
「いや、特に隠すようなものは無いよ」
「ふーーん」
何やら含みのある返事である。
そんな眩しいお顔で見つめないで欲しい。
「お前って、あの女とはまた違った謎があるよな」
「そう?」
「なんていうか、全部見せてくれているようで、肝心な事が分からねぇっていうか……」
うっ。さすが凄腕冒険者。勘が冴えわたっている。
「まぁ、それすらも意味があるんだろうけどな」
「そ、そういえばグレイはさ。冒険者的な活動の他に、何かないの? S級であるが故の活動とかさ」
ちょっと話題の変え方があからさま過ぎただろうか。
「あーー、勇者への貢献はとりあえず終わったし? 緊急の討伐依頼も最近はねぇな。ちょいちょい国やら貴族やら声は掛かるが……関わりたくねぇんだ」
「あはは……。何か、想像つくな」
誰にも手におえないグレイヴァーンと、我が道を行くルルメアカリス。
国を守る英雄を民衆が敬わない訳がない。
二人を思い通りにしようとする勢力が仮に失敗したとして、それ以上手を出せば民衆の反感を買う。
民を守り、民に守られる。本当に英雄なんだろうなぁ。
「この国には四つの騎士団があるんだっけ?」
「ああ。オレもこの国出身ではねぇから詳しくはないが、王に次ぐ権力争いの道具だな」
そんな、バッサリと。
「おまけに最近では相の聖団の方が民衆に人気で、権力争いもヒートアップってな」
「うわぁ。絶対巻き込まれたくない」
「だろ? オレも、余計な重し背負って戦いたくねぇんだわ」
「なるべく関わらないようにしよ……」
「魔女にも釘刺されたしなぁ。それに越したことはない」
二人で胸に誓った。
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