ヌエの首継ぎ
粗筋
主人公・与無蔵(よむぞう)は、二十歳の男性にして江戸裏社会の一員である。彼の父・頭吉(とうきち)は、江戸中の賭博場を束ねる闇組織『猿組(ましらぐみ)』の初代筆頭親分であった。
頭吉は陽気で子分思いの、しかし裏切者には残虐極まる、任侠然とした男だ。
父、頭吉が生きているあいだは、ただ二代目修行に励んでいればよかった。そこに満足も不満もない。無邪気な冗談を口にした幼少期は、とうに過ぎさっている。
その父が、元文四年(一七三九年)四月二十八日、夜中の路上で護衛ごと何者かに殺害された。
彼の死は、一介の親分の死ではすまされない。与無蔵にとっても、父の死という悲劇だけで終わることではなかった。
そもそも頭吉が治めていた『猿組』は、ほかに芸事や運輸といった別々の職能に基づく三つの組と手をとりあって、『ヌエ』なる集団を作っていた。『ヌエ』は、奉行所に賄賂を払ったり、組同士の利害を調整したりするのを目的としている。すなわち彼の死は江戸裏社会の混乱を意味した。
与無蔵はすみやかに父の葬儀を開いた。頭吉の直属幹部や猿組の直参組長はもちろん、ヌエを構成するほかの三つの組……芸事と岡場所の狸組、港湾労働と水運業の虎組、医療の蛇組……の各筆頭親分または名代が続々と参列。
手ぎわよく葬儀をこなしつつ、父の思い出を回想する与無蔵は、裏社会の人間がたどりつく『満足』とはなにかを考察する。
それは、血で血を洗うヌエの内部抗争が始まったことを意味した。
※本作は拷問などの残虐場面、性的に倫理観の逸脱した人物の登場などを含みます(ただしベッドシーンはありません)。
※本作はフィクションであり、いかなる登場人物、筋、演出においても現実のそれとは一切関係ありません。
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